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2024.11.30

「須田悦弘展」(渋谷区立松濤美術館)開幕レポート。植物彫刻を探しつつ知る須田の多彩な仕事

東京・渋谷の渋谷区立松濤美術館で、都内の美術館では25年ぶりとなる美術家・須田悦弘の個展「須田悦弘展」が開幕した。会期は2025年2月2日まで。

文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

展示風景より、須田悦弘《バラ》(2024)
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 東京・渋谷の渋谷区立松濤美術館で、美術家・須田悦弘の個展「須田悦弘展」が開幕した。会期は2025年2月2日まで。

 須田は1969年山梨県生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。上京をきっかけに、都市の中の自然のありように注目するようになり、その木彫によって生み出される精巧な植物の彫刻作品は、インスタレーションとして展示されることが多い。93年、移動式の展示空間をリヤカーで引き、銀座の道路沿いのパーキングメーターに駐車、展示する「銀座雑草論」でキャリアをスタート。以後、原美術館、アサヒビール大山崎山荘美術館、国立国際美術館、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館など数々の美術館・ギャラリーで作品を発表してきた。

須田悦弘

 本展は東京都内の美術館では25年ぶりとなる須田悦弘の個展となる。白井晟一(1905~1983)による独創的な建築で知られる渋谷区立松濤美術館で、須田の植物作品はもちろん、初期作品やドローイング、近年取り組んでいる古美術品の補作までを展示することで、その全容に迫る展覧会だ。

 須田は本展のために何度も館に足を運び、そして来るたびに、中央に池がある構造や、殆どの壁が曲面など、この館の建築の特殊性を実感したという。この複雑な構造をもった館のなかに散りばめられた須田の作品を探す、原初的な楽しみに溢れているのが本展といえるだろう。

 地下1階の展示室は須田の過去作を中心に展示する空間となっている。須田の木彫の原点となったのは、大学1年のときに履修した立体造形の授業だ。干物を模刻するという課題に挑んだ須田は、本格的に木を彫るのは初めてだったが、楽しくなって夏休みに入っても少しずつ彫り続けたそうだ。こうして完成したのが《スルメ》(1988)だ。自分でも満足いく出来となったので学校に持って行くと教員や同級生にも評判が良く、須田は木彫の楽しさに目覚めた。

展示風景より、左が須田悦弘《スルメ》(1988)

 展示室に設置された囲いのなかで展開されているのは、卒業制作である《朴の木》(1992)だ。大学構内にあった朴(ほお)の木の花弁をモチーフとした本作は、周囲の空間を再制作したうえで展示されている。空間と作品の関係性について、須田が当時から興味を持っていたことがよくわかる。

展示風景より、須田悦弘《朴の木》(1992)

 ほかにも2回目の個展で発表し、当時は銀座の駐車場を借りて展示された《東京インスタレイシヨン》のほか、特徴的な局面空間と呼応する数々のインスタレーション作品もこの階では見ることができる。

  2階の展示室でもいたるところに須田の植物が配されているが、ここではなかなか見ることができないドローイングやデザインの仕事などに目を向けるのもおもしろい。

展示風景より、須田悦弘《木蓮》(2024)

 制作時に下絵を描かないという須田だが、学生時代には多くのドローイングを描いていた。見る者を引き込むその描写力は圧巻だ。また、日本デザインセンターでの勤務依頼、制作と並行して手がけてきたウイスキーやペットボトルの茶のパッケージは、誰もが見たことのあるもの。いつも目にしていたデザインが、須田の手によるものだったということを初めて知る人が大半ではないだろうか。

 また、須田が近年取り組んでいる「補作」についても注目したい。欠けていた手と弓の部分を須田が補なった《随身坐像》(平安時代)は、須田が実際に手に取り細部までを研究し尽くした補作だ。須田の古物への興味と卓越した技術を感じられる展示品といえるだろう。

展示風景より、須田悦弘補作《随身坐像》(平安時代)

 空間と呼応する木彫の植物とともに、美術家・須田悦弘の半生と多様な仕事にも触れることができる展覧会となっている。