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2025.2.14

過小評価されてきた女性アーティストたちに光を当てる。フランスの非営利団体「AWARE」の日本語セクションが開設

18世紀〜20世紀の女性アーティストたちを可視化するため、彼女たちの功績についてのコンテンツをウェブサイトで無料公開している「Archives of Women Artists, Research and Exhibitions」(AWARE)。そのウェブサイトの日本語セクションが開設され、記者発表会が東京都内で行われた。

文=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

AWAREチーム © Marie Docher
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 これまで美術史において十分に評価されてこなかった女性アーティストの功績を可視化するために設立されたフランスの非営利団体「Archives of Women Artists, Research and Exhibitions」(以下、AWARE)。そのウェブサイト日本語セクションの開設に伴い、記者発表会がアンスティチュ・フランセ 東京で行われた。

 AWAREは、2014年にフランスのキュレーターで美術史家のカミーユ・モリノーらによってパリで設立。18世紀〜20世紀の女性アーティストたちを可視化するため、彼女たちの功績についてのコンテンツをフランス語と英語の2ヶ国語で作成し、ウェブサイトで無料公開している。10周年を迎えた2024年には日本チームが発足し、ウェブサイトに日本語による新たなセクションが開設された。

>>インタビュー:女性アーティストたちを顕彰し、創造性を振興する。AWAREの10年の歩みと日本での展望

 AWAREのウェブサイトは、過去11年間で1300人以上の女性アーティストに関する略歴や、500人以上の研究者、キュレーター、美術史家によるテキストを掲載しており、毎月15万人以上がアクセスしているという。エグゼクティブ・ディレクターであるカミーユ・モリノーは、「日本には過去、現在、多くの女性アーティストが存在しており、卓越した文化と歴史を持つ日本での活動を広げられることを誇りに思っている」と語り、今回新たに日本語が追加されたことで、学術的・教育的なコンテンツをより幅広い読者層に向けて配信するることを期待しているという。

2月14日の記者発表会に登壇したカミーユ・モリノー

 また、AWAREは過去5年間にわたり、日本の専門家や機関との協力のもと様々なプログラムを行ってきた。例えば、「TEAM: Teaching, E-Learning, Agency, Mentoring」(以下、TEAM)は2020年に設立された国際的な学術ネットワークであり、女性アーティストに関する学術的リソースの収集や出版、美術史における平等の問題に取り組む新たな世代の研究者を育成することを目的としている。TEAMのネットワークを通じて、世界各国の研究者たちが女性アーティストに関する研究を進めており、日本からも大阪大学大学院人文学研究科の中嶋泉准教授が参加している。

 また、ペル・アルドゥア・アド・アストラ基金による助成を受けている「ふたつの脳で生きる:1960年代〜1990年代、ニュー・メディア・アートで活躍した女性アーティストたち」は複数年にわたるプロジェクトである。このプロジェクトでは、日本を中心に、ヴィデオ・アートやデジタル技術を駆使した女性アーティストたちに焦点を当て、オンラインリソースを構築し、関連イベントを開催している。とくに1960年代から1990年代にかけての女性アーティストたちがどのように新しいメディアを活用したのかを検証しており、その系譜を再構築し、今日のサイバーフェミニズムの考察につなげることを目的としている。

 このプログラムの一環として、国際シンポジウム「ふたつの脳で生きる:AI とニュー・メディア・アートの女性たち」が2月15日〜16日に森美術館と共同で開催される。登壇者にはスプツニ子!や、2月13日に森美術館で開幕した「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AI と現代アート」展の参加作家であるディムート、藤倉麻子といった女性アーティストに加え、イ・スジョン(韓国国立近現代美術館キュレーター)、四方幸子(美術評論家、キュレーター)なども名を連ねている。

「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AI と現代アート」展の展示風景より、藤倉麻子《インタクト・トラッカー》

 国際シンポジウムでは、1960年代以降のニュー・メディア・アートにおける女性アーティストやノンバイナリー・アーティストたちに焦点を当て、テクノロジーがジェンダーや女性の身体、社会での役割の認識に対してどんな影響を与えてきたかを、アーティストの作品や思考を通して検証し議論する予定だという。森美術館館長の片岡真実は、「『マシン・ラブ』展では現代のアーティストに限定したが、このシンポジウムを共同で開催することによって、女性とテクノロジーという観点、あるいは歴史的な観点を合わせて補完する機会になるだろう」と述べている。

 さらに、カルティエの助成によるプログラム「19世紀から21世紀の日本の女性アーティスト」は、19世紀から21世紀にかけて活躍した女性アーティストに関する研究を通じて、女性アーティストの歴史とその世界的な貢献を明らかにしようとしている。この4年間にわたる研究プログラムでは、現代美術、写真、日本画、洋画などの分野で活躍した日本の女性アーティストたちに焦点を当て、30人の女性アーティストの略歴と作品を新たに紹介し、近現代日本の女性アーティストをめぐる評論文を10編掲載することを目標として進められている。

「AWARE - 日本」のウェブサイト

 今年で完結するこのプログラムだが、メンバーのひとりである小勝禮子(プログラム特別顧問、研究者、美術史家、美術評論家、元栃木県立美術館学芸課長、「アジアの女性アーティスト:ジェンダー、歴史、境界」創設者)は、今後は日本だけでなく、アジアの国々の女性アーティストに対するリサーチをAWAREに継続していってもらいたいとしつつ、日本の美術館においてより多くの女性アーティストの掘り起こしや検証の展覧会の開催に対する期待を寄せている。

 また、今年の新たなプログラムとして、丸川コレクションによる助成を受けている「日本の女性写真作家たち」の研究が始まる予定で、日本の女性写真作家に関する研究をさらに深め、拡大することを目指している。

パリ15区のヴィラ・ヴァシリエフに拠点を持っているAWARE © Margot Montigny

 パリ15区のヴィラ・ヴァシリエフ、1910年代にアーティストのマリー・ヴァシリエフがアトリエを構えていた場所に拠点を持っているAWARE。ウェブサイトでのコンテンツ公開だけでなく、3800冊以上の蔵書を持つ図書館や女性アーティストとフェミニズム芸術に特化した研究・資料リサーチセンターの運営、そしてレジデンシー・プログラム、イベント、会議、学校向けのワークショップ、AWARE賞など、様々な取り組みを行っている。とくにAWARE賞はこれまで15名のアーティストが受賞しており、モリノーは「日本でもこの賞を行い、受賞者を出したい」という期待を語っている。

 専門家だけでなく一般の人々にも有益なリソースを提供し、今後も多くの女性アーティストに光を当て、彼女たちの功績を美術史に定着させるための重要な役割を果たし続けるAWARE。その活動を引き続き注視していきたい。