「バウハウス」と「収納のデザイン」──収納がつくる合理的な台所のイメージとは?
「デザイン史」の視点から現代における様々なトピックスを考える連載企画「『デザイン史』と歩く現代社会」。テーマごとに異なる執筆者が担当し、多様なデザインの視点から社会をとらえることを試みる。第6回は、近代日本デザイン史を専門とする北田聖子が、1919年にドイツ・ヴァイマールに誕生した総合造形学校「バウハウス」の取り組みを切り口に、「収納」がもたらした影響について論じる。

「収納」のデザイン史
台所には、たくさんの物があります。食材、調味料、包丁、まな板、鍋、フライパン、ボウル、レードル、菜箸、おろし金、計量カップ、オーブンレンジ、炊飯器、食品用ラップフィルム、キッチンペーパー、保存用器、食器……わが家の台所にあるものをすべて挙げようとすると、ここまでですでにうんざりしました。このように様々な種類やかたちの物であふれている台所で、収納に頭を悩ませる人は少なくないでしょう。
「見せる収納」「隠す収納」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。それらの言葉は、遅くとも1980年代には、生活情報誌やファッション誌のインテリア記事などでしばしば使われていました。おしゃれな人は、服装だけでなくインテリアにも気を配り、収納される物もインテリアの一部として見せよう、隠すのならばセンスのよい収納用品を選ぼうということが言われていた頃です。台所については、昨今、シンク下などのスペースがオープンで、調理器具などをあえて「見せる収納」に人気があるようですが、現在私が住んでいるような賃貸住宅では、「隠す収納」のための、扉付きキャビネットや引き出し、吊り戸棚などがあらかじめ取りつけられた台所がまだまだ多い気がします。前に住んでいた家も、その前に住んでいた家も、その前の前に住んでいた家もそうでした。じつは、日本の台所が「台所道具仕舞いこみキッチン」(*1)に転換したのは、65年頃なのだそうです。戦後復興期を経た高度経済成長期の真只中であった当時、多くの物が家のなかに入り込んできたからだろうと想像します。
「隠す収納」に適う台所は、引き出しの前板やキャビネットの扉の素材、色が統一されているため、ひとつのビルトインの収納用家具のようです。現在流通しているシステムキッチンの典型的な姿と言えるでしょう。こういった台所の収納の姿は、いったいいつから私たちの住まいで見慣れたものになっていたのでしょうか。少し乱暴ではあるのですが、百年ほど前のドイツに、時計の針を戻してみます。
今回注目するのは、1923年にドイツのヴァイマールに出現した「アム・ホルンの実験住宅」の台所です。フラットルーフが特徴的で白の箱が積み上げられたようなこの住宅を手がけたのは、「バウハウス」という名の学校でした。いったいバウハウスはどのような学校で、どうして学校が住宅建築を計画することになったのでしょうか。
*1──山口昌伴「システムキッチンの成立と展開 ──ひとつの視点からみた戦後台所空間史」(日本生活学会編『生活学第二十三冊 台所の一〇〇年』所収)ドメス出版、1999年、p.283。