2025.10.27

奈良美智、原爆の図 丸木美術館らが受賞。第10回 澄和Futurist賞

一般財団法人 澄和が主催する「第10回 澄和Futurist賞」の受賞式が東京會舘で執り行われた。

授賞式にて、左から村石久二(一般財団法人 澄和理事長)、浅田次郎(小説家)、奈良美智(現代美術家)、岡村幸宣(原爆の図丸木美術館 学芸員・専務理事)、瀬尾夏美(アーティスト)
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 一般財団法人 澄和が主催する「第10回 澄和Futurist賞」の受賞式が東京會舘で執り行われた。

 同賞は、スターツグループ創設者・村石久二が理事長を務める一般財団法人 澄和が、平和な未来への想いを持ち活動する個人・団体を表彰するもので、2016年以来毎年行われてきた。これまでの受賞者には、吉永小百合や無言館、山田洋次、MISIA、谷川俊太郎、坂 茂、黒柳徹子、坂本龍一、宮本亞門ら30組が名を連ねる。

 戦後80年に当たる今年の第10回を受賞したのは、小説家・浅田次郎、現代美術家・奈良美智、埼玉にある私設美術館・原爆の図 丸木美術館、アーティスト・瀬尾夏美(Next Futurist 奨励賞)だ。

 村石は今年の受賞者について、「ジャンルは異なれど、言葉やアートを通じて、反戦や非核、災禍などへの想いを発信し、多くの人々の共感と支持を得てきた」と評する。

『鉄道員(ぽっぽや)』などで知られる浅田は、戦争を題材にした小説にも取り組んできた。今回の受賞にあたり、「戦争文学は私たちの世代が書くべきもの。私は1951年生まれで戦争を知らないどころか、高度経済成長世代で社会的には一番恵まれて育って今日まできた」としつつ、「私が戦争小説を書くのはおこがましく、戦争を語り継ぐつもりはない。できるだけ正確に戦争小説を書いていくだけだ」と述べる。

 反戦・反原発を訴える作品も手がける奈良。「このような賞をいただくとはまったく予想していなかった」としながらも、受賞の喜びを次のように語った。「他者に向けて表現していくのが多くの芸術家だが、僕はそれを考えたことはない。いつも自分のなかで問い、答えを探してきた。その答えのようなものが作品となり、それを見て、キャッチしてくれた方々が僕のことをよくわかってくれている。95歳の母親は2人きりのときに戦争の話をしてくれる。彼女は『真面目にやっていればどこかで誰かがきちんと見ている』とも言ってくれる人。(母の言葉のとおり)見てくれる人がいたからこそ、こうやって選んでもらえたんだなと思う」。

授賞式にて、村石久二と奈良美智

 原爆投下後の広島の惨状を目の当たりにした水墨画家の丸木位里(1901〜95)、油彩画家の丸木俊(1912〜2000)夫妻が共同制作した連作「原爆の図」を常設展示する原爆の図 丸木美術館。同館学芸員で専務理事を務める岡村幸宣は、「今年は被爆80年という節目の年であり、美術館にとっては改修休館に入る転換点。80年という時間の経過の重みをとりわけ強く感じる。丸木夫妻が亡くなり25年の歳月が経ち、本来なら出会うことがない人々を芸術がつないでいる。人間の命は限りがあるが、芸術はそれを超えて世界に大きな影響を与える。2人が残した仕事は世界の宝。その宝をさらに未来に手渡し続けたい」と力強い言葉を残し、同館への支援を呼びかけた。

 また今回奨励賞を受賞した瀬尾は、東日本大地震以降、岩手県陸前高田市に拠点を移した経験を持つアーティスト。対話の場づくりや作品制作に取り組んできた。「私の仕事は災禍で傷を負った人々の声を聞くこと。受け取った記憶の重さにたじろぐこともあるが、暖かさも受け取ってきた。語り継ぐとはその経験のないものがやること。聞かせてもらったことを学び、さらに若い世代につないでいきたい」。

授賞式にて、村石久二と瀬尾夏美