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2025.12.30

読者が選ぶ2025年のベスト展覧会。トップは「コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ」展(東京国立近代美術館)

ウェブ版「美術手帖」では、2025年に開催された展覧会のなかからもっとも印象に残ったものをアンケート形式で募集。その結果を読者のコメントとともに掲載する(対象展覧会は今年行われたもの。昨年から会期がまたぐものも含む)。

展示風景より 撮影=木奥惠三
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1位:「コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ」(東京国立近代美術館)

 2025年のアンケート結果は昨年同様、比較的僅差となったが、そのなかでも、ウェブ版「美術手帖」読者の心をもっとも掴んだのは、東京国立近代美術館の「コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ」(7月15日~10月26日)だった。

展示風景より、左が鶴田吾郎《神兵パレンバンに降下す》(1942)
撮影=木奥惠三

 「昭和100年」かつ「戦後80年」という節目の年に、先の戦前・戦中・戦後の記憶を、美術作品から読み解こうという試みとなったこの展覧会。通常の企画展とは異なり、メディア向けの内覧会やプレスリリースがないことで一部の集めたが、結果的にはその内容の重要性が話題を集めた。椹木野衣能勢陽子による本展レビューもチェックしてほしい。

戦後80年と現在の世界からして見に行かざるを得ないと感じた。
告知をほぼ行わなかったことも、意図しない広まり方を防いだという点で結果的には良かったのではないかと思う。
戦後80年の今年、所蔵作品で何をどのように見せるべきか、美術館の使命というものがしっかり伝わった。このような展覧会が企画され享受できること、当たり前のようで、そうではない時代にあって何か力をもらえた。
2025年も素晴らしい展覧会がたくさんありましたが、1つしか選べないとしたら、東京国立近代美術館さんの「記録をひらく 記憶をつむぐ」にならざるを得ないのではないでしょうか。
戦争に対しアート・芸術がどう関わったかという観点から戦争を浮き彫りにしていくところがよかった。また、戦争=狂気という一元的な見方を否定していることも戦争そのものに真摯に向き合うという点で重要だと思った
日本の美術史にとって絶対に無視することができないにも関わらず、今まで無視されているに等しかった「戦争画」をまとめて見られる展覧会が開催されたことは、これ以上ないほど高く評価されるべきだと思います。いっぽうで、タイトルに「戦争」の語が入れられなかったこと、ほとんど宣伝ができなかったこと、図録が作れなかったことを私たちは重く受け止めるべきだと思います。残念ながら開催中に日本社会は怒涛のごとく、この展覧会で描かれた社会へと近づきましたが、そういう状況を相対化することができました。開催できなくなる前に、つまりは一刻も早く、戦争画をまとまって見られる次の機会を、日本美術界全体で作り出すべきではないでしょうか。
ひっそりと始まった展覧会だったが、snsで話題になったのもあって見に行ってきた。戦後80年にふさわしい展示内容だったと思うし、アートがプロパガンダに利用されたという点も忘れてはいけないことだと感じたため。

同率2位:「アンゼルム・キーファー:ソラリス」(二条城)

 2位は同率で2つの展覧会がランクイン。ひとつは、京都・二条城で開催された「アンゼルム・キーファー:ソラリス」(3月31日~6月22日)だ。

アンゼルム・キーファー

 本展は、今年80歳を迎えたアーティスト、アンゼルム・キーファーによるアジア最大規模の個展。ゲスト・キュレーターに南條史生を迎え、二条城二の丸御殿台所・御清所と城内庭園に、新作や初公開作品を含む絵画・野外彫刻・ガラスケース作品・インスタレーションなど計33点が並ぶかつてない規模のものとなった。巡回がない展覧会のため、このために京都を訪れたアートファンも多かったようだ。

神話の記憶を宿す作品と二条城という史跡が相互に響き合っていてとても良かった
国宝二条城という場の力に負けないキーファーの作品が圧倒的でした。
二条城という歴史的建造物とアンゼルム・キーファーの作品が融合していて圧倒された。キーファーの世界観と二条城に身を置いてなんとも言えない研ぎ澄まされた感覚を味わった。今年1番の鑑賞体験でした。
殆どの作品(室内であっても!)を自然光で鑑賞するという、作品鑑賞への挑戦状をもらったかのような展覧会でした。キーファーの作品と日本建築がこんなに相性抜群とは…!

同率2位:「ヒルマ・アフ・クリント展」(東京国立近代美術館)

 もうひとつの2位は、東京国立近代美術館の「ヒルマ・アフ・クリント展」(3月4日~6月15日)となった。

展示風景より、「10の最大物、グループⅣ」(1907)

 本展は、スウェーデン出身の画家ヒルマ・アフ・クリント(1862〜1944)によるアジア初の大回顧展。画家の存命中や死後も長らく、ほとんど展示されることのなかった作品約140点が一堂に会する非常に貴重な機会ということもあり、大きな注目を集めた。本展のレビュー、また占星術研究家の鏡リュウジと本展企画担当の三輪健仁(東京国立近代美術館美術課長)の対談もあわせてチェックしてほしい。

身体の中から理解しようとするのではなく、霊能的な何かが漂い、作品に入り込んだ自分がいた。年間通してこんな感覚はなかった点でベスト。
アジア初の展示。具象画家の先駆けであったにも関わらず、死後60年も遺言により公開されていなかった。圧倒的な作品数。きめ細かな記録。女性としてアーティストとして生きづらい世界を送った魂の叫びを聞いたような展覧会だった。
大きな作品が多くて楽しかった。