• HOME
  • MAGAZINE
  • INSIGHT
  • 読者が選ぶ2024年のベスト展覧会。トップは「田中一村展 …
2024.12.30

読者が選ぶ2024年のベスト展覧会。トップは「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」

ウェブ版「美術手帖」では、2024年に開催された展覧会のなかからもっとも印象に残ったものをアンケート形式で募集(集計期間:12月18日〜25日)。約200件の結果を集計し、寄せられたコメントとともに結果を発表する(対象展覧会は今年行われたもの。昨年から会期がまたぐものも含む)。

「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」展より
前へ
次へ

1位:「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」展(東京都美術館)

 2024年のアンケート結果は比較的僅差となったが、そのなかでも、ウェブ版「美術手帖」読者の心をもっとも掴んだのは、東京都美術館の「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」展(2024年9月19日〜12月1日)だった。

「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」展示風景より

 生前、作品発表の機会に恵まれなかった一村だが、2010年には「田中一村 新たなる全貌」が千葉市美術館、鹿児島市立美術館、田中一村記念美術館で開催され、大きな話題を呼んだ。また生誕110年となる18年には、「生誕110年 田中一村展」(佐川美術館)、「初公開 田中一村の絵画 ―奄美を愛した孤高の画家― 」(岡田美術館)、「生誕110年 奄美への路Ⅱ 田中一村展」 (田中一村記念美術館)などが開催された。

 本展は、一村が神童と呼ばれた時期から奄美の地で描かれた最晩年までの全貌を、田中一村記念美術館の所蔵品をはじめとする約250件以上の作品で紹介するもの。この展示作品数は、これまでの東京都美術館企画展において最多。一村の「不屈の情熱の軌跡」を見ることができる貴重な機会となった。なお、入場者数では28万人以上を記録している。キュレーターインタビューもあらためてチェックしてほしい。

何故その存在をこれまで自分は知らなかったのだろうと一作品一作品見進めるごとに思うほど多彩で魅力的な作品が詰まった展覧会で、最後のニ作品の間を通って会場を後にするときにはすっかり田中一村という人に魅了されました。そして自分だけでなく居合わせた来場者皆が同じようにがどんどん魅了されていくのを肌で感じる稀有な展覧会であったと思います。
こんなにも絵の生命力に圧倒されたことは初めてでした。構図も独特で面白かったです。一番の理由は、世界を見る目が愛にあふれていたことです。晩年の作品までも瑞々しくて純朴な絵に感じました。本当に見ることができてよかったです。生きる勇気を貰いました。
ついに一村の作品を生で目にすることが出来た喜びが一番です。岩絵具の質感などやはり画集では把握できない情報を改めて知ることができました。また、幼少期の神童ぶりや、奄美の人々との交流など、作品を通して一村の人物像を体感することができたと思います。改めて奄美大島の一村記念館に行ってみたくなった展覧会でした。
東京に錦を飾る大回顧展の展覧会。やっと希望が叶って、他人ながら感慨深い。私が知ったのも数年前の千葉市美術館での展示。一村の画業をじっくり鑑賞できた。一人でも多くの人に一村という画家がいたことと、彼の作品の美しさを知ったもらいたいと思った。

2位:「塩田千春 つながる私(アイ)」(大阪中之島美術館)

 次点は大阪中之島美術館の「塩田千春 つながる私(アイ)」(2024年9月14日〜12月1日)だ。

展示風景より、塩田千春《つながる輪》(2024)

 本展は、塩田にとって地元・大阪での16年ぶりとなる大規模個展。巡回なしということもあり、遠方からも足を運んだ読者もいたようだ。会場は、塩田の大規模なインスタレーション6点が中心に構成され、映像作品やタブロー、立体、ドローイング、そして小説家・多和田葉子が新聞で連載している『研修生(プラクティカンティン)』のために描いた268点の挿絵などが展示。ゆったりとした空間で塩田作品に没入できる展覧会となった。

今まで感じたことのない、作品の中に包まれる感覚を味わうことができたから
塩田千春さんを象徴する赤い糸の作品に一般公募で集まったメッセージを絡めてあり様々な人の一生を考えまたご縁という不思議さを視覚化されていて圧倒された。また今までの展覧会で使用した糸を使って塩田さんのお母様とそのご友人で編まれたイチゴのタワシが一つ一つ違っていて全く同じものがないという、そのグッズが安価でまた再利用されたということで胸にくるものがあったので。
今年見た展覧会のなかで1番衝撃をうけた。また、一般投函企画に自身も投函し実際に見える位置に飾られてたことも思い出深い。
現代アーティストの創作の源泉=秘密を、飾らない言葉で伝えようとするインタビュー映像が印象的だった。

3位:「日本現代美術私観 高橋龍太郎コレクション」(東京都現代美術館)

 日本を代表する現代美術コレクション「高橋コレクション」の展覧会がベスト3にランクインした。

「日本現代美術私観 高橋龍太郎コレクション」展示風景より

 高橋コレクションは、精神科医・高橋龍太郎(1946〜)が1990年代半ばより本格的に収集を始めた日本の現代美術コレクション。草間彌生、合田佐和子を出発点として構成されたコレクションの総数は現在までに3500点を超え、質・量ともに日本の現代美術においてもっとも重要な個人コレクションのひとつだ。

 これまでも高橋コレクションの展覧会は開催されてきたが、「日本現代美術私観 高橋龍太郎コレクション」は、近代から90年代生まれの作家115組の作品が集結。日本現代美術の系譜をたどることができる構成になっており、高橋コレクション展の「決定版」とも言える充実の内容だった。

親子3世代で行ったが、アートとはほぼ無縁だった70台後半の母も未就学である息子もアラフォーの私も楽しんで観れたので、世代的な感性を超えた作品に触れられたのが良かった。広い会場を使った大型の作品もあり、とても楽しめました
私が現代アートにはまるキッカケとなった展覧会だから。
一日では足りないくらい、また見たい、何度も見にいきたい展示だった。診られる側の私なので、診る側の方のコレクションにはもともと興味があった。コレクションは、精神科医だからどうこうというような偏りはなく、現代のアートを網羅しているような作品群のボリュームで、圧倒された。
1990年代以降の現代アートの集大成という感じでしたが、個人1人のコレクションというのが驚異的。

4位:「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか? ──国立西洋美術館 65 年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ」(国立西洋美術館)&「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」(東京国立博物館)

 4位は同列で、「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか? ──国立西洋美術館 65 年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ」(国立西洋美術館)と「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」(東京都美術館)の2つとなった。

「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか? ──国立西洋美術館 65 年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ」展示風景より、布施琳太郎《骰子美術館計画》(2024)

 「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?」は、国立西洋美術館にとっては史上初の現代美術作家によるグループ展。同館が歴史的に本場の西洋美術を日本の洋画家に伝えるための場所であったことを踏まえ、現在の国立西洋美術館が現代の作家にとって学びのある場であるかどうかを問う、というコンセプトで設計された。

内容(出展作品)のよさもあるけどトラディショナルな西洋美術館であの展示をしたっていうチャレンジングな部分含めて超印象深かった。
国立西洋美術館という場所であのような尖った企画に挑むということにまず素晴らしいと思いました。展示方法の独特さ、作品数もかなり多く非常に楽しめ刺激をうけた展覧会でした。
それまで美術の王道を歩み優等生として感じてきた国立西洋美術館の”思春期”そして、それに伴う”反抗期”に立ち会えた気がしたので大変印象に残りました。新たな歴史を刻んだ開催だったと思います。
西洋美術に関する企画展を多く開催してきた西洋美術館が現代美術を扱う、という意外性が評価に含まれているのは事実ですが、何より美術館という場の意義や役割を自問し、顧みるという行為は中々なされないので面白かったと同時に、よく向き合ったなと感心した。キュレーションの功罪にも触れる展示だったのではないかと。もう一度見たい展示です。

 いっぽう「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」(東京国立博物館)は、エルメス財団との共同企画によって実現した個展。平成館企画展示室、本館特別5室、本館1階ラウンジの3ヶ所が会場となり、それらをぐるりと回るように鑑賞するという珍しい形式がとられた。東博収蔵品や建築そのものと内藤が対話するように構成された展覧会であり、静かな感動を与えるものとなった。内藤礼のインタビューもあらためてチェックしてほしい。

「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」展示風景より
トーハクの普段は見られない内装を見ることができた。その体験はキリスト教のイコンに似ている。イコンは西欧美術とは異なる歴史を辿ったが、イコンという窓を通じて神に祈りをささげるがごとく、内藤の消え入りそうなほど物質感のない〈モノ〉の先にあるトーハクの内装を見ることを通じて、内藤のキーワード〈恩寵〉を感じたような気がした。
対象を鑑賞する、に留まらず、見ている人の人生に深く揺さぶりかける力があったから
国宝、重要文化財と日常の身近な素材を並列させる展示で不思議な感覚に陥りました。作品リストが鑑賞者への気付きに一役買っていて、リスト自体も作品のようになっているのが良かったです。「鑑賞する」行為の原点に立ち返ったような感覚になりました。
美やアートに対する新しい価値観を与えてくれた展覧会。いつまでも自身の心の中に残り続けると思う。

 上位5位以外では、「奈良美智:The Beginning Place ここから」(青森県立美術館、2023年10月14日〜2024年2月25日)、「空間と作品」(アーティゾン美術館、2024年7月27日~10月14日)、「デ・キリコ展」(東京都美術館、2024年4月27日~8月29日)、「ハニワと土偶の近代」(東京国立近代美術館、2024年10月1日〜12月22日)、「田名網敬一 記憶の冒険」(国立新美術館、2024年8月7日~11月11日)、「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」(東京都美術館、2024年1月27日~4月7日)、などが票を集める結果となった。

土地と美術館と作家性が有機的な必然性を伴った唯一無二の展覧会だった(「奈良美智:The Beginning Place ここから」)
空間という面白い視点から見ることにより普段コレクション展とちがう構成になっていた。(「空間と作品」)
作品のある空間を楽しんだり、額への理解が深まったり…作品のジャンルも幅広く、いつもと違う観点で作品を観ることができて、とても充実感のある展示でした。一度しか行けませんでしたが、もう5回くらい伺って、もっと堪能したかったです。(「空間と作品」)
デキリコの作品をあのボリュームで鑑賞したのは初めてで、所謂デキリコの作品とは違う作品も沢山観ることができ、とても満足した。(「デ・キリコ展」)
こんなにもキュレーションが上手い展覧会を見たことがなかった。埴輪、土偶という古代の発掘物になぜ明治以降「美」を見出したのか。それは政治的な流れが必ずついて回っていたのだ。「美術」とはなにかをここまで考えさせられる展示だとは思っていなかった。こんなに素晴らしいキュレーションに出会える人生だと思っていなかった。本当に感謝している。また近代美術館は行きたい。(「ハニワと土偶の近代」)
現代美術が苦手でも、作品量と世界観に圧倒されて没入した。新しい体験だった(「田名網敬一 記憶の冒険」)
アメリカだけでなく北欧や日本、そしてバルビゾン以降のフランスなどの印象派作品が一堂に会し、地域により表現は違えど、見えたままに光を描くという印象派の底流はどう変容しても変わらないという魅力を再認識できたこと。(「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」)