2025.10.24

能楽と現代美術が交差する新たな体験。「もののけたちの囁き」展が京都の瑞雲庵で開催へ

能楽と現代美術が出会い、見えない存在の気配を探る展覧会「もののけたちの囁き」展が、京都の瑞雲庵で開催される。会期は11月1日〜30日。

ヤマガミ ユキヒロ「noh play」(札幌市教育文化会館、北海道、2016)公演風景
前へ
次へ

 能楽と現代美術の融合を試みる展覧会「もののけたちの囁き」展が、11月1日〜30日の会期で京都の瑞雲庵にて開催される。

 本展は、伝統芸能である能楽の要素を現代美術の思考と手法で再解釈し、「素謡(囃子や舞を伴わない独唱)」を軸に、築100年以上の古民家空間を活用したサウンド・インスタレーションとして展開される。妖怪「鵺(ぬえ)」を題材とし、過去と現在、現実と虚構を交錯させながら「鵺探し」の旅へと観客を誘う。

 本展のコンセプトは、私たちの身近な世界にいまも存在しながら、近代化によって感覚が鈍くなった現代人には見えにくくなってしまった「妖怪」や「もののけ」の声や気配に耳を澄ませることにある。平家物語を原典とする能「鵺」は、弓の名手・源頼政に討たれた妖怪の亡霊が主人公だが、その亡骸を目にした者はごくわずかであり、「鵺は本当に退治されたのか」という問いが残る。本展では、そうした伝承を手がかりに、来場者自身が「私=あなた」として鵺の痕跡をたどる物語が展開される。

ヤマガミ ユキヒロ「京都山河抄」(美山かやぶき美術館、京都、2024)展示風景
SPEKTRA「Emissivescapes」(天橋立公園、京都、2022/Alternative Kyoto 2022)
Video stil from footage by Alternative Kyoto

 作品制作には、現代美術家のヤマガミ ユキヒロ、実験的な空間演出で知られるSPEKTRA、写真家の中澤有基(Q)、音響ディレクターの島田達也(night cruising)が参加。さらに、観世流シテ方の能楽師で林家十四世当主の林喜右衛門が特別協力し、伝統芸能と現代アートのコラボレーションが実現する。

中澤有基「Re[ ]De:|| part3」シリーズの展示風景 © Yuki Nakazawa, 2024

 ヤマガミは映像と絵画を融合させる「キャンバス・プロジェクション」の手法で知られ、2014年から能楽師・林宗一郎とともに「能楽×現代美術 noh play」プロジェクトにも取り組んできた。SPEKTRAは光や音、キネティックなどを組み合わせたインスタレーションを手がける実験集団であり、写真家の中澤は写真と社会構造の関係性を探る作品で知られる。島田は音と空間を結ぶ演出を行い、音楽レーベル「night cruising」を主宰している。

 関連イベントとして、11月1日にはヤマガミと怪談文化研究家・井上真史によるクロストークおよびオープニングレセプションも開催される。いずれも入場は無料となる。

 能楽と現代美術が交わることで、過去の物語が新たな感覚で立ち上がる本展。「見えないもの」を感じ取るためのチューニングを整え、古のもののけたちの囁きに耳を澄ませる時間となりそうだ。