2024.12.16

「sakamotocommon GINZA」に見る、坂本龍一が遺したものの可能性

今年8月に竣工し、25年1月にグランドオープンする東京・銀座のGinza Sony Parkで、「sakamotocommon GINZA」が始まった。会期は12月25日まで。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

Ginza Sony Park
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 坂本龍一が遺したものを共有化し、未来のクリエイターのために利活用することを目指す「sakamotocommon(サカモトコモン)」が、初号プログラム「sakamotocommon GINZA」がGinza Sony Parkと共同でスタートさせた。会期は12月25日まで。

 sakamotocommonは、「坂本龍一が遺したものを利活用し、新しいクリエイションを生み出すこと」「坂本龍一が遺したものとクリエイターの接点をつくること」、そして「坂本龍一が遺したものと人々が触れることのできる場をつくること」の3つを趣旨としており、本展はまさにその趣旨を体現するものだ。

 地下鉄から直結する地下2階では、坂本龍一+真鍋大度によるコラボレーション作品《Sensing Streams 2024 - invisible inaudible (GINZA version)》(2024)が存在感を放つ。

展示風景より、坂本龍一+真鍋大度《Sensing Streams 2024 - invisible inaudible (GINZA version)》(2024)

 「札幌国際芸術祭」(2014)での発表以来、ソウル、アムステルダム、サンパウロ、香港、北京、成都など世界中の様々な都市で展開されてきた同作は、⼈間がふだん知覚することのできない「電磁波」をセンシングし、5つのパターンで可視・可聴化するもの。現代において必要不可欠なインフラでありながらふだん気づくことのない電磁波の流れを多様なかたちで顕在化させる作品だ。

 本展では、銀座を⾏き交う様々な電磁波をセンシングし、ソニーの高画質LEDディスプレイ「Crystal LED」を使った新たなバージョンで見せるかたちとなっている。

 音も完全に新しいバージョンとなった本作。真鍋は「メディア・アートは技術の進歩によってできることも増えていく」としつつ、坂本とのコラボ作品をアップデートさせることについてこう語る。「この作品も、発表から10年経っており、使えるソフトや鳴らせる音も変わってきた。坂本さんはつねに新しい視点を取り込むことをしていた人であり、生前、本作をアップデートしたいと話していた。それを少しずつ反映できれば」。

展示風景より、坂本龍一+真鍋大度《Sensing Streams 2024 - invisible inaudible (GINZA version)》(2024)

 3階では、坂本龍一が残した貴重な音源を聴くことができる。坂本は生前、つねマイクとレコーダーを持ち歩き、自分の気になった音はすべて収録していた。その音源は作品に使われたものもあるが、一般公開されていないものも多い。

 本展では、坂本が遺した7つのフィールドレコーディング素材(収録された年代と場所が異なる7つの音源)と、坂本自ら乃木坂ソニースタジオで360 Reality Audioミックスに立ち会った最後のオリジナルアルバム『12』の音源を、360ミックス。没入感のある立体的な音場を体感できる。ソニーの次世代エンジニアとともに最新技術で音響設計された音源は、坂本が残したデータの利活用の可能性を示している。

展示風景より

 また同じフロアでは、「Sakamoto Library Extension」として、「坂本図書」(*)の蔵書にあるものと同じタイトルの古書をラインナップ。坂本自身が関心を寄せた書籍の一部を、フィールドレコーディングの音源に包まれながら堪能したい。

展示風景より

 4階には「LIFE a ryuichi sakamoto opera 1999」のためにデザインされた坂本所有の「Opera Piano」が佇む。

 「Opera Piano」は、ピアノの装飾性を排し、基盤を可視化することで、「楽器としての機能」をあらわにすることをイメージしてデザインされたもの。坂本の、「指揮者としてオーケストラを牽引しつつ、ピアノを演奏するスタイルを実現したい、そしてその舞台にふさわしいピアノをつくってほしい」という願いのもと、ヤマハデザイン研究所が製作した。

 会場では、このピアノがフロア中央に置かれ、『Aqua』『energy flow』『put your hands up』『鉄道員』『Merry Christmas Mr.Lawrence』などの名作を、坂本が遺した演奏を映像とともに聴くことができる。坂本の存在と不在をより強く感じさせる空間だ。

展示風景より、Opera Piano

 なお本展は、sakamotocommonのクラウドファンディング(3000円〜15000円)参加者のみが入場できる仕組みとなっている。

 また12月21日からは、東京都現代美術館で大規模個展「坂本龍一 | 音を視る 時を聴く」も開催。本展とあわせてチェックすることで、より坂本龍一への理解が深まるだろう。

*──坂本図書ら坂本が自身の本を多くの⼈と共有し、同時に「あるひとの心を動かした『本』」という⽂化資本を分かち合う事業であり、2017年に坂本自らが実現に向けて動き始め、23年9月に都内某所でスタートした坂本所蔵の本を読むことができる図書空間(完全予約制で場所は非公開)。