• HOME
  • MAGAZINE
  • NEWS
  • REPORT
  • 「戦後西ドイツのグラフィックデザイン モダニズム再発見」(…
2025.3.8

「戦後西ドイツのグラフィックデザイン モダニズム再発見」(東京都庭園美術館)開幕レポート。時代を切り拓いたグラフィックデザインの数々に注目

東京都庭園美術館で「戦後西ドイツのグラフィックデザイン モダニズム再発見」がスタートした。会期は5月18日まで。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より
前へ
次へ

 東京・白金台の東京都庭園美術館で「戦後西ドイツのグラフィックデザイン モダニズム再発見」がスタートした。会期は5月18日まで。同展は、西宮市大谷記念美術館で開催された展覧会の巡回展にあたる。

 ドイツは第二次世界大戦で敗戦後、東西に分断され、共産主義のドイツ民主共和国(東ドイツ)とドイツ連邦共和国(西ドイツ)の2つが成立。以降、1989年のベルリンの壁が崩壊し再統一されるまでその状態は続いた。同展は、この約40年間の社会状況と、そのあいだに制作された西ドイツのグラフィックデザインの様相を俯瞰するものとなる。

 今回出展されている作品は、デュッセルドルフ在住のグラフィックデザイナー、イェンス・ミュラー&カタリーナ・ズセックによって収集された「A5コレクション デュッセルドルフ」であり、日本初公開。戦後西ドイツのグラフィックデザイン資料のなかから「幾何学的抽象」「タイポグラフィ」「イラストレーション」「写真」の観点で選ばれたポスターを中心に、冊子や雑誌など多彩な作品が全5章立てで展示されている。

展示風景より

 まず、同館1階の「西ドイツデザインへようこそ」では、戦後に経済大国へと成長を遂げた西ドイツと、その状況が垣間見えるグラフィックデザインの数々が紹介されている。1972年の「ミュンヘンオリンピック」や、55年に第1回が開催され、いまなお続く現代美術展「ドクメンタ」、世界最大のセーリング・フェスティバル「キール ウィーク」などといった国際的なイベントを通じて、グラフィックデザインが自国のアピールのために、いかに大きな役割を果たしたかがうかがえる。

展示風景より、オトル・アイヒャーによる「ミュンヘンオリンピック1972」のポスター群
展示風景より、「ドクメンタ」のポスター群
展示風景より、「キール ウィーク」のポスター群

 2階と新館展示室では、「幾何学的抽象」「タイポグラフィ」「イラストレーション」「写真」の4つの観点から戦後西ドイツのグラフィックデザインをひも解く構成となっている。

 「幾何学的抽象」のテーマでは、1919年ヴァイマールに設立された造形芸術学校「バウハウス」にまつわる作品が紹介されている。ドイツのデザインとして真っ先に想像するのはバウハウスに関するものであるが、ナチスの弾圧で33年に閉校。この時期に一度モダンデザインの理念が廃されたものの、戦後の西ドイツでこれが継承されるかたちとなった。技術の進歩も相まって、新たな時代の表現が追求されたことも見受けられる。

展示風景より、「幾何学的抽象」「バウハウス」のポスター群

 「タイポグラフィ」は、グラフィックデザインにおいて情報を伝達するための必要不可欠な要素であり、可読性を欠くことができないという絶対条件がある。そのなかで、いかに言語コミュニケーションをデザインしていくかというデザイナーたちの意図がこのテーマでは読み取ることができる。その様相は、きっちりと設計された書体デザインから、遊び心あふれるもの、また手描きのものまで様々である点もおもしろいポイントだ。

展示風景より、「タイポグラフィ」のポスター群
展示風景より、「タイポグラフィ」のポスター群

 新館展示室では、「イラストレーション」「写真」の観点で選定されたグラフィックデザイン、おもに映画のポスターや広告、出版にまつわる作品が多く展示されている。写真技術が発達したこともあり、手描きのイラストレーションや写真のみならず、それらを掛け合わせることでユニークかつインパクトのある表現が生み出されている点にも注目したい。

展示風景より、「イラストレーション」のポスター群
展示風景より、「イラストレーション」のポスター群
展示風景より、「写真」のポスター群

 西ドイツの約40年間で制作されたグラフィックデザインの数々。これらを通じて、戦後西ドイツの経済発展の様子や、国際社会からの信頼を取り戻すためにいかに対外的なアピールを行ってきたか、そしてその経済発展からいかに豊かな文化が国内で育まれてきたのかを知ることができるだろう。

 なお、同展会期中には講演会やコンサート、ワークショップといった関連プログラムが多数展開される。また、全体の入館人数を制限し、普段よりも空いた環境でゆっくりと鑑賞することができる「フラットデー」(要予約)も実施され、車椅子の方や介助等が必要な方、ベビーカーを利用される方が余裕を持って鑑賞することができるほか、赤ちゃんとそのご家族のための特別開館日も設けられるため、この機会にぜひ活用してみてほしい。