2026.1.18

「TERRADA ART AWARD 2025」5組のファイナリストが新作を披露。天王洲で2月1日まで入場無料で開催

寺⽥倉庫で「TERRADA ART AWARD 2025 ファイナリスト展」が開催中だ。会期は1月16日〜2月1日。

左から黒田大スケ、小林勇輝、是恒さくら、谷中佑輔、藤田クレア Photo by Takanori Tsukiji
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3回目を迎えた「TERRADA ART AWARD」

 天王洲の寺田倉庫G3-6Fにて「TERRADA ART AWARD 2025 ファイナリスト展」が開幕した。会期は1月16日から2月1日まで。入場無料。

 「TERRADA ART AWARD」は、世界で活躍するアーティストの輩出を目指し寺田倉庫が主催するアワードで、今回で3回目を迎える。作品内容と展示プランをもとにファイナリストを選出し、展示機会の提供と制作費支援としての賞金授与を行う。過去の受賞作家の活躍もめざましく、たんなる賞にとどまらない長期的な支援プログラムとしての側面も持つ。

 最終審査員を務めたのは、金島隆弘(金沢美術工芸大学 准教授)、神谷幸江(国立新美術館 学芸課長)、寺瀬由紀(アートインテリジェンスグローバル ファウンダー)、真鍋大度(アーティスト、プログラマ、コンポーザ)、鷲田めるろ(金沢21世紀美術館 館長)の5名。本アワードでは各審査員がそれぞれ1名のファイナリストを選出し、自身の名を冠した賞を授与する形式をとっており、5つの異なる視点から選ばれた多様な顔ぶれが揃った。本展で披露される新作を、コメントとともに紹介していく。

左から金島隆弘、寺瀬由紀、真鍋大度、鷲田めるろ、黒田大スケ、小林勇輝、是恒さくら、谷中佑輔、藤田クレア

藤田クレア(真鍋大度賞)

 会場入って右手にあるのは、真鍋大度賞を受賞した藤田クレアのコーナーだ。

 藤田は機械と自然由来の素材を組み合わせ、社会構造や人間関係における葛藤を出発点に作品を制作している。展示空間では、ハエトリソウやユリといった植物が機械装置と接続され、静かに、しかし確実に動き続けている。一見しただけでは何が起きているのかわからないが、ゆっくり観察することで仕組みが見えてくる。たとえばハエトリソウが口を閉じると、その信号がレコードプレーヤーに送られ、音楽が再生される。

藤田クレアの展示風景

 「現代社会ではスピードや効率が重視され、他者や環境と丁寧に関係を育むことが難しくなっている。植物の生き方は、歩み寄ることの大切さを静かに教えてくれる」と藤田は説明する。

藤田クレア Reaction ~ver. Dionaea muscipula~ 2025

 真鍋は藤田の作品について「急ぐほど見落とすものが増えるという事実を、体験として手渡す」と語った。

左から藤田クレア、真鍋大度

是恒さくら(神谷幸江賞)

 反対側には、神谷幸江賞を受賞した是恒さくらの作品が並ぶ。是恒は10年以上にわたり、クジラと人間の関わりをテーマに国内外でフィールドワークを重ねてきた。各地を訪れるなかで、かつて捕鯨で獲られたクジラに由来する素材が自然と集まるようになったという。

是恒さくら

 「現代の生活から姿を消しつつある素材と技を、空想の玩具を作ることで残せないか模索している」と是恒は語る。その代表的な素材が「クジラのヒゲ」で、かつてはコルセットや様々な道具の部材として使われていた。今回展示されている玩具は、一つひとつが実際の体験談や聞き取りをもとに作られている。

是恒さくらの展示風景

 神谷は「消えゆく物語や技術を架空の玩具という形で視覚化し、記憶として伝えようとする試み。遊ぶという行為を通じて、環境危機や文化の喪失が私たちの足元から地続きであることに気づかせてくれる」とコメントした。

是恒さくらの展示風景

谷中佑輔(金島隆弘賞)

 続いては、金島隆弘賞を受賞した谷中佑輔。展覧会や舞台公演を横断しながら、身体の脆弱性をテーマにした作品を発表している。展示ではガラス、ブロンズ、金属で構成された彫刻作品が並び、中央には3人で演奏することを前提とした楽器作品が設置されている。一見すると異なる文脈の作品が並んでいるように見えるが、谷中の関心は一貫している。

左から金島隆弘、谷中佑輔

 「身体を生産性や機能で価値づけるのではなく、ただ『共にある』身体から連帯の可能性を探れないか。癒しやケアはその入口になりうる」と谷中は語る。

 金島は、谷中の作品がファイナリストのなかでも「もっとも完成形がイメージしにくいもの」だったと振り返る。本アワードでは制作前の作品プランで審査が行われるため、審査員は完成形を想像しながら評価を行うが、谷中の提案は予測困難だったという。それでも金島は「自身の身体を基点に社会のシステムに挑もうとする姿勢と、制作への固執が、彫刻をより魅力的な造形に導いている」と高く評した。

手前が谷中佑輔《迷走の作法》(2025)

 黒田大スケ(寺瀬由紀賞)

 寺瀬由紀賞を受賞した黒田大スケは、彫刻家についてリサーチし、対象を即興的に演じるビデオ作品を発表している。今回は戦後日本における抽象彫刻の黎明期に焦点を当て、多くの彫刻家に参照されたブランクーシとその代表作である「空間の鳥」の解釈をめぐる彫刻家たちによる議論を演じた。

 「戦後の傷跡というイメージだけでは説明できない作家がいる。今回は歴史で語られず、忘れ去られたものを掘り起こし、作品にしている」と黒田は説明を加える。

左から黒田大スケ、寺瀬由紀

 寺瀬は「黒田の作品は歴史に埋もれた存在を丹念なリサーチで蘇らせ、美術的な知識を強要せずとも引き込む力を持つ。歴史的事実に基づいたノンフィクショナルなコミカルフィクションという独自の語り口を確立している」と評した。

黒田大スケの展示風景

小林勇輝(鷲田めるろ賞)

 鷲田めるろ賞を受賞した小林勇輝は、中国南部の武術「詠春拳」を起点とした学際的パフォーマンス作品を展開。詠春拳は約300年以上前に少林寺の女性僧侶・拳法家によって創始され、国共内戦と日中戦争により佛山から香港に亡命した祖師「葉問」とその弟子たちによって世界に広まった。小林は2019年以降、香港・中国・日本にて鍛錬やリサーチ、交流を重ねてきたという。壁面には映像や資料が展示され、小林は会期中、毎日この場所で公開稽古を行う。

左から小林勇輝、鷲田めるろ

 「なぜいま、戦いというものをこれほど強くイメージするのか。この武術を通じて、戦いに対する定義を再検討することが現代に何をもたらすのか。これからも学び続けていきたい」と小林は語る。

小林勇輝の展示風景

 鷲田は「武術は一般的に男性性と結びつきやすいが、小林は女性によって創始されたと言われる詠春拳を身体的に学び、クィアの視点から武術を男性性から解放し、身体的なコミュニケーションの術として再解釈を試みている」とコメントした。

小林勇輝の展示風景

 5組のファイナリストに共通するのは、数年から十数年をかけた長期的なリサーチと実践への姿勢だ。それぞれが深めてきた探求が、この場所でひとつの形となって現れている。