2024.11.29

アンゼルム・キーファー展がゴッホ美術館とアムステルダム市立美術館で同時開催。両館史上初のコラボ

ゴッホ美術館とアムステルダム市立美術館がアンゼルム・キーファーの展覧会「Sag mir wo die Blumen sind」を共同で開催する。ゴッホの作品とともに、キーファーの最新作を含む25点の作品が展示される。

文=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

アンゼルム・キーファー Sag mir wo die Blumen sind 2024 Installation view at studio, Croissy, France. Copyright: Anselm Kiefer. Photo: Nina Slavcheva
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 アムステルダムで戦後ドイツを代表するアーティスト、アンゼルム・キーファーの展覧会「Sag mir wo die Blumen sind」が開催される。本展は、ゴッホ美術館とアムステルダム市立美術館が史上初めて共同で企画する画期的な展覧会であり、2025年3月7日〜6月9日に両館で同時に開催される。

 キーファーは1945年、第二次世界大戦末期のドイツに生まれた。その作品は歴史、神話、哲学、文学、錬金術、風景といったテーマを扱い、戦後ドイツのトラウマに向き合うことで評価を得てきた。初期には激しい批判を受けたものの、現在ではモダンとコンテンポラリーの狭間で位置づけられるアーティストとして確固たる地位を築いている。

アンゼルム・キーファー Photo by Summer Taylor

 展覧会タイトル「Sag mir wo die Blumen sind」は、1955年にアメリカのフォーク歌手ピート・シーガーが発表した反戦歌「Where Have All the Flowers Gone?」に由来する。この曲は1962年にドイツの女優・歌手マレーネ・ディートリヒによって歌われ、広く知られるようになった。本展では、キーファーの最新作を含む25点の作品を通じて、その芸術とその深いテーマを余すところなく紹介する予定だ。

アムステルダムで実現するキーファーの壮大な芸術の旅

 ゴッホ美術館では、フィンセント・ファン・ゴッホとアンゼルム・キーファーの長年にわたる深い結びつきが紹介される。1963年、キーファーは奨学金を受け、ゴッホの足跡をたどる旅に出た。ファン・ゴッホの生まれ故郷であるオランダのズンデルトからベルギー、フランスへと続くこの旅は、キーファーにとって重要な転機となり、ゴッホは彼の生涯にわたる創作のインスピレーションの源となった。

フィンセント・ファン・ゴッホ カラスのいる麦畑 1890
50.5 cm x 103 cm, oil on canvas
Van Gogh Museum (Vincent van Gogh Foundation)

 本展では、ゴッホの《カラスのいる麦畑》(1890)など7点の絵画がキーファーの初公開の絵画や素描作品と並べられ、両者のテーマや表現の重なりが浮き彫りにされる。ゴッホ美術館館長エミリー・ゴーデンカーはオンラインで行われた記者会見で、「アンゼルム・キーファーは若い頃からゴッホの作品に触発されてきた。その影響は、『ひまわり』や風景画の構図といった要素に直截的に表れている。彼の最近の作品は、ゴッホの影響が現在も続いていることを示している」と述べている。

アンゼルム・キーファー De sterrennacht  2019
470 x 840 cm, emulsion, oil, acrylic, shellac, straw, gold leaf, wood, wire, sediment of an electrolysis on canvas
Copyright: Anselm Kiefer. Photo: Georges Poncet

 アムステルダム市立美術館では、キーファーとオランダ、とくに同館との長年の関係が紹介される。同館は1980年代に《Innenraum》(1981)や《Märkischer Sand》(1982)をいち早く収集し、1986年には高く評価されたキーファーの回顧展を開催した。今回の展覧会では、これらのコレクションが一堂に展示されるだけでなく、キーファーの新作インスタレーションも披露される。

アンゼルム・キーファー Innenraum  1981
287.5 x 311 cm, oil, acrylic and paper on canvas
Stedelijk Museum Amsterdam

 なかでも注目されるのは、展覧会タイトルにもなっている《Sag mir wo die Blumen sind》。24メートルに及ぶ巨大なこの作品は、アムステルダム市立美術館の歴史的な階段周辺を埋め尽くす没入型のインスタレーションであり、絵具、粘土、軍服、乾燥したバラの花びら、金を用いて制作されている。この作品は、人間の生と死、再生の循環を象徴し、観客に深い感動を与えるものとなる。また、鉛と写真で構成される《Steigend, steigend, sinke nieder》というもうひとつのインスタレーションも展示され、人間の歴史の重みを表現するキーファーの象徴的な手法が示される。

アンゼルム・キーファー《Voyage au bout de la nuit》(左、1990)と《Untitled》(1989)
Stedelijk Museum Amsterdam

 アムステルダム市立美術館館長のライン・ウォルフは、「アムステルダム市立美術館はキーファーの作品受容において重要な役割を果たしてきた。この展覧会では、過去の代表作と新作が並ぶことで、キーファーが過去と未来を見つめ直す瞬間を目撃することができるだろう」と述べている。

初めての協力が生み出す意義深い展覧会

 両館の初めてのコラボレーションについてゴーデンカーは、「私が館長に就任したときから、キーファーとの展覧会を開催することは明確な目標だった」と振り返りつつ、次のように話した。「彼の作品は、テーマの多層性やスケールの大きさから、展示には十分なスペースが必要であり、それを可能にするための協力が不可欠だった」。ウォルフ館長に提案し、両館の協働が実現したことで、たんなる作品展示を超え、過去と未来、人間の存在や再生といった普遍的なテーマに迫る内容となったという。

 また、ゴーデンカーは「ゴッホ美術館とアムステルダム市立美術館のような規模の大きな美術館が、ときにライバルとみなされることがあるなかで、このように協力し合うのは非常に珍しいことだ。しかし、今回のコラボレーションは非常に実り多いものとなり、互いに多くを学び合う機会となった」と述べている。いっぽうで、ウォルフは「私たちそれぞれの異なる観客層をつなぎ、共通の物語を紡ぎ出すことが、現代において非常に重要だ」と語る。

左からエドウィン・ベッカー(ゴッホ美術館キュレーター)、エミリー・ゴーデンカー(ゴッホ美術館館長)、アンゼルム・キーファー、ライン・ウォルフ(アムステルダム市立美術館館長)とレオンティン・コーレヴィー(アムステルダム市立美術館キュレーター)、2024年4月 Photo: Tomek Dersu Aaron

 今回の展覧会は、キーファーの作品が持つ壮大なスケールと深遠なテーマを体感できる貴重な機会となるだろう。本展終了後には、ゴッホ美術館とのコラボレーションにより、キーファーとゴッホの作品がロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツでも展示される予定だ。

 なお、2025年3月下旬から6月下旬の同時期には、京都市とファーガス・マカフリー・ギャラリーの共同企画によるキーファーの展覧会も世界遺産・二条城にて開催される予定。アムステルダムと京都、ヨーロッパとアジアという異なる文化的背景のなかで展開されるこれらの展覧会は、どのような対話を生み出すのか、ぜひ楽しみにしてほしい。