2025.6.2

日下部民藝館で落合陽一の個展が開催。万博会場とも連携

岐阜・高山にある日下部民藝館で、日下部民藝館令和7年度特別展 落合陽一個展 総集編「ヌルのテトラレンマ 記号に帰納する人間の物語」が開催される。会期は6月28日~9月15日。

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 岐阜・高山にある国指定重要文化財の日下部民藝館で、日下部民藝館令和7年度特別展 落合陽一個展 総集編「ヌルのテトラレンマ 記号に帰納する人間の物語」が開催される。会期は6月28日~9月15日。

 日下部民藝館は、昭和41年より重要文化財日下部家住宅を、建物の公開と日下部家所蔵の文物を展示、また建物を活かした多様な文化事業を行う施設として誕生した。柳宗悦が提唱した「民藝運動」の思想に共感した初代館長、日下部禮一の思いを受け継ぎ、「民藝」が示すものの見方、考え方、暮らしの規範を日々の活動を通して具現化することを目指している。

日下部民藝館

 そんな日下部民藝館と、ヒューマンコンピュータインタラクション研究の第一人者であり、メディアアーティストの落合陽一とのコラボレーションは令和3年に始まった。飛騨の地で育まれた歴史や自然、伝承された物語から生まれたモチーフを、落合が探求する「デジタルネイチャー」の思想と掛け合せ、重要文化財日下部家住宅の空間全体を用いてインスタレーション作品として展開する。

 本展は、令和3年度の「メディアと民藝」、令和4年度の「遍在する身体 交錯する時空間」、令和5年度「ヌル即是計算機自然 符号化された永遠 オブジェクト指向本願」、令和6年度「どちらにしようかな ヌルの神様の言うとおり、円環・曼荼羅・三巴」に続く第5回目の開催となる。これまでの5年間にわたる日下部民藝館で行ってきた落合陽一の展覧会を総括するものとなり、新作をあわせて全100点以上の作品で構成される。

 また本展は、落合が提示する壮大な思想実験《ヌルのテトラレンマ》を、飛騨高山という歴史と民藝の文脈のなかで、実空間に実装する試みとなっており、日下部民藝館以外にも吉島家住宅と、古民家を改装したギャラリー&カフェ「おんど」の計3会場がその舞台となる。さらに大阪・関西万博の「null²」も加えた4つの空間で構成され、それぞれが「テトラレンマ(四つの命題)」に呼応する表現を担っている。

 日下部民藝館では、新作彫刻《鵺 null-e(ヌエ)》が初披露となるが、本作は「テトラレンマ」の思想を具現化し、計算機自然と民藝、仏性とアルゴリズムの融合を象徴する一点となる。「異なる次元を貫通する変換装置」として会場の中心に据えられた本作から、人間性や信仰、物質とテクノロジーのあいだの境界がとけあう瞬間を垣間見ることになるだろう。

 人間とデジタルが融合し、共生し、無へと還り、そして無限へと向かう未来像を標榜するための本展。万博の「null²」にいたる落合陽一の思考展開や表現の変遷を、飛騨高山という風土に接続・展開することで、落合が問いかける「人間とは何か」「生命とは何か」といった、人間がこれから向かうポストヒューマン時代の、存在のあり方を考えるための場を創出する。

 また本展に出品される新作は、落合陽一の創造的世界を具現化するために集まった、民藝思想家や民俗学者、テクノロジーを提供する企業、林業従事者、職人など、多様な領域で活躍する表現者との共創によって生み出されているところも注目だ。

 なお本展は、「日本の美と心」をテーマに全国で開催される「日本博2.0」にも参画している。また、本展と万博の各会場に置かれた落合陽一のステイトメントが記された御朱印を、本展入場券を購入すると配布されるご朱印帳に押していくことで、各会場が連携して紡がれる物語が完成するようになっている。