2025.11.26

ラウシェンバーグ生誕100周年企画。アジアとの対話に焦点を当てた初の大規模展がM+で開幕

20世紀美術を代表するロバート・ラウシェンバーグが、アジアでの経験を通じて築いた文化交流の軌跡を紹介する初の展覧会「Robert Rauschenberg and Asia」が香港のM+で開幕した。

展示風景より © Robert Rauschenberg Foundation. Photo by Dan Leung. Image courtesy of M+, Hong Kong
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 ロバート・ラウシェンバーグ(1925〜2008)とアジアの関わりを体系的に紹介する初めての展覧会「Robert Rauschenberg and Asia」が、11月22日に香港のM+で開幕した。

 本展は、同館によるアジア現代美術史の重要人物を取り上げる「パオ=ワタリ展覧会シリーズ」の一環であり、ラウシェンバーグ生誕100周年を祝う国際プロジェクト「Rauschenberg 100」とも連動して開催される。会期は2026年4月26日まで。

展示風景より Photo by Dan Leung. Image courtesy of M+, Hong Kong

 ラウシェンバーグは20世紀美術を代表する革新者であり、日用品やマスメディアのイメージを積極的に取り込むことで、ポップ・アート、コンセプチュアル・アート、インスタレーションに大きな影響を与えた。コラボレーションを重視した同作家は、1970年代から80年代にかけてアジア各地で制作を行い、1975年にはインド・アーメダバードの製紙工房で紙づくりを経験。1982年には中国で紙職人との共同制作を行い、日本では信楽の陶芸工房と長期にわたり協働した。こうした経験は素材・技法・色彩への探究を深化させ、後に国際文化交流プロジェクト「ROCI(Rauschenberg Overseas Culture Interchange)」(1984–1991)へと結実した。

展示風景より Photo by Wilson Lam. Image courtesy of M+, Hong Kong

 本展では、1964年から1990年にかけてのアジアにおける足跡を多角的に検証する。アッサンブラージュ、写真、テキスタイル、ドローイング、版画、アーカイブ資料など40点以上の作品に加え、1964年の東京での伝説的パフォーマンス、1975年のインド滞在、信楽での制作など、初期の交流からROCI期までを時系列で紹介。ラウシェンバーグと直接交流したアジアのアーティストの作品も展示し、地域を超えた対話と相互作用を可視化する。

展示風景より Photo by Wilson Lam. Image courtesy of M+, Hong Kong

 展覧会は2部構成で、第1部では日本、インド、中国との初期交流に焦点を当て、「Unions」(1975)、「Jammers」(1975–76)、「Japanese Recreational Clayworks」(1982–83/1985)などのシリーズを通して、異文化との接触が制作にどのような変化をもたらしたかを検証する。第2部ではROCIのアジア地域における活動を紹介する。1985年の「ROCI CHINA」は中国国内で初めての西洋現代美術展として歴史的意義を持ち、「ROCI TIBET」は西洋作家による唯一の個展として知られる。賛否を呼びつつも、同プロジェクトは1990年代以降のアートのグローバル化を先取りした試みとして再評価されている。

展示風景より © Robert Rauschenberg Foundation. Photo by Dan Leung. Image courtesy of M+, Hong Kong

 M+館長スハニャ・ラフェルは、「ラウシェンバーグがアジアで育んだ文化的交流を包括的に紹介できることを誇りに思います。本展は、アジアの視覚文化を国際的文脈のなかに位置づけるというM+の使命を象徴するものです」とコメント。

 企画を担当したM+シニア・キュレーターのラッセル・ストーラーは、「職人や現地文化との出会いは、ラウシェンバーグ自身の実践を大きく広げ、今日のアートにも受け継がれる重要な対話を生み出しました」と述べた。