2025.6.5

デイヴィッド・チッパーフィールド設計。スロベニア・ブレッドに新現代美術館「ムゼイ・ラフ」が2026年夏開館へ

ユリアン・アルプスの麓に広がる自然と歴史の町・ブレッドに、2026年夏、スロベニア初の国際的現代美術館「ムゼイ・ラフ」が開館する。

ムゼイ・ラフのイメージ Image © David Chipperfield Architects
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 2026年夏、スロベニアのブレッドに新たな現代美術館「ムゼイ・ラフ(Muzej Lah)」が開館する。

 ユリアン・アルプスの麓、中世のブレッド城のふもとという歴史と自然に恵まれたロケーションに誕生するこの施設は、イゴール&モイツァ・ラフ夫妻による民間の文化事業として設立される。夫妻が約30年にわたって収集してきた「ファンダツィア・ラフ(Fundacija Lah)」のコレクションが、初めて一般公開される。

ブレッド湖 Photo credit archive Foto Video Coppo di Marco Coppo

 建築は、プリツカー賞を受賞したイギリスの建築家サー・デイヴィッド・チッパーフィールド率いる「David Chipperfield Architects」が担当。建物は丘の中腹に建ち、周囲の自然に溶け込むようにデザインされている。背後には彫刻庭園が広がり、来館者は屋外でも作品を楽しめる。連続する傾斜屋根は周囲の山々の稜線を思わせ、自然光を取り入れた展示空間をつくり出している。内部は動線や展示内容に応じて分節されており、作品と風景の両方を体感できる構成だ。

ムゼイ・ラフ(右下)のイメージ。左上はブレッド城 Image © David Chipperfield Architects

 館内には図書室やリサーチセンター、レストラン、ショップ、多目的ホールなども併設される。展覧会の開催にとどまらず、演劇、映画上映、パフォーマンス、教育プログラムなど多彩な文化活動を展開する予定で、地域の文化拠点として、また国際的な訪問者を迎える場所としての役割が期待されている。

 全体で800点を超えるラフ夫妻のコレクションは、第二次世界大戦後から現在に至る時代を背景に、歴史的、哲学的、社会的な文脈を反映しつつ、アーティスト個人の視点や物語性も感じさせる内容となっている。

ムゼイ・ラフ(右下)のイメージ。中央の作品はリチャード・ディーコン《Another Mountain》(2007) Photo by Jost Gantar / Muzej Lah

 延床面積5000平米の施設には、アンゼルム・キーファーヨーゼフ・ボイス、イリヤ&エミリア・カバコフ、ウィリアム・ケントリッジ、ゾラン・ミュージック、ノイエ・スロヴェニッシェ・クンスト(NSK)など、国際的およびスロベニア国内の著名作家の作品に加え、アン・イムホフ、ヒト・シュタイエル、シアスター・ゲイツなど、現代アートの最前線を担うアーティストの作品も紹介される。

 ラフ夫妻は次のように語っている。「私たちは30年以上かけて築いてきたコレクションを、できるだけ多くの人々と共有したいという思いでこのプロジェクトを始めました。地元スロベニアの人々はもちろん、世界中の来館者にとって、思索とインスピレーションを得られる場になることを願っています。チッパーフィールド氏の建築は、私たちが大切にしている静けさや明快さ、誠実さを体現しており、このプロジェクトにとって理想的なパートナーでした」。

 いっぽう、チッパーフィールドもこう述べている。「自然と歴史に囲まれたブレッドという特別な場所で美術館を設計できたことは大きな喜びです。屋根の形状や建物の構成は周囲の地形との調和を意識しており、展示室やテラス、中庭といった多様な空間が、作品と風景の両方を引き立てるように考えられています。この場所が地域の文化資源として、広く親しまれる存在になることを願っています」。

ブレッド湖 Photo credit_archive Foto Video Coppo di Marco Coppo