2026.3.13

「アートフェア東京20」(東京国際フォーラム)開幕レポート。市場調整のなかで探る新たなフェア・ギャラリー戦略

日本でもっとも長い歴史を持つアートフェア「アートフェア東京20」が3月12日、東京国際フォーラムで開幕した。日本市場が減速するなか、会場で見られたフェアやギャラリーの戦略をめぐる新たな動きをレポートする。

文・撮影=王崇橋(編集部)

「アートフェア東京20」の会場風景
前へ
次へ

 日本でもっとも長い歴史を持つアートフェア「アートフェア東京20」が3月12日、東京国際フォーラムで開幕した。節目となる第20回を迎えた今回は、国内外から141軒のギャラリーが参加している。

 アート・バーゼルとUBSが共同で発表する最新の年次調査「The Art Basel and UBS Global Art Market Report 2026」によれば、2025年の世界の美術品市場規模は前年比4%増の596億ドル(約9兆4800億円)に達し、2年連続の縮小を経て再び成長軌道へと転じた。いっぽう、日本市場は前年比1%減とやや減速しており、世界の回復基調とはやや異なる動きを見せている。

 こうした状況は、今回のフェア会場の雰囲気にも少なからず反映されている。

 アートフェア東京のマネージング・ディレクターを務める北島輝一は、この1年の市場について次のように語る。「この1年は、多くの人が言うように『調整の年』だったのではないかと思う。すべての作家の価格が下がったわけではないが、より選別される状況になってきている」。

「アートフェア東京20」の会場風景

コレクターを軸にしたプログラムを拡充

 こうした市況のなかで、アートフェア東京は今年、コレクター向けプログラムの強化に力を入れている。

 一般のVIPプレビューに先立ち、アート・バーゼルなどでも導入されている「ファーストチョイス」を実施。VIPプレビューが11時に始まるのに対し、その前の時間帯に特定のコレクター50名を招待し、ラウンジで軽食を提供したのち、約1時間にわたり会場を先行して鑑賞できる機会を設けた。

 そのほかにも、VIP向けレセプションの開催や、人数限定で天王洲に新たに完成したアーティスト・平子雄一のスタジオを訪れることができるVIPプログラムなどを企画している。さらに、昨年から始まった映像プログラム「Films」を日比谷ミッドタウンで開催し、写真展示も併設。また日曜日にはミッドタウン八重洲でトークイベントも予定されている。

会場風景より、Kaikai Kiki Galleryのブース

 企業との連携企画も充実している。例えばポーラは、会場内の一般アクセスエリアに特別な空間演出を展開するとともに、ブランドが追求してきた感性を体験できるVIPラウンジ「AFT Premium Lounge produced by POLA B.A」を設置した。

市場の選別が進むなかでギャラリーの動向

 参加ギャラリーの展示内容からも、現在の市場状況をうかがうことができる。

 ShugoArtsのブースでは、安田侃の大理石彫刻5点を中心に展示。これらはいずれも初披露となる作品で、丸山直文松平莉奈の新作など、同ギャラリー所属アーティストとともに紹介されている。安田の彫刻の価格は最高約15万ユーロ(約2700万円)。なお、フェア会場である東京国際フォーラムのエントランスに設置されたパブリック・アートは安田の手によるものだ。

 VIP初日の17時時点で、20万円から800万円の価格帯の作品9点がソールドまたはリザーブとなった。ギャラリー代表の佐谷周吾は、ここ数年の市場の変化についてこう語る。「ここ2〜3年を振り返ると、昨年あたりから状況が大きく変わってきた印象がある。これまで積極的にギャラリーで作品を購入していたコレクターの姿が、急に見えなくなったように感じることも多い。楽観的な状況ではない」。

会場風景より、ShugoArtsのブース

 佐谷はさらに、次のように続けた。「いまは大きな転換期にあるのではないか。AIの進展などもあり、多くの人が自分の仕事やビジネスにこれまで以上に集中せざるを得ない状況にあるのかもしれない」。

 KOTARO NUKAGAでは、初日(プレセールを含む)に松山智一の新作絵画(12万ドル)、ジョエル・メスラーの絵画(11万ドル)、松川朋奈の作品2点(40万〜80万円)、飯川雄大の作品数点(各13万円)などが販売された。ギャラリー関係者によれば、現在の市場は二極化の傾向が見られ、一定の知名度を持つ作家や市場の注目度が高い作家の作品は引き続き取引が成立しているという。また、近年は具象絵画の人気が再び高まりつつあるとも指摘する。

会場風景より、KOTARO NUKAGAのブース

 小山登美夫ギャラリーのブースでは、数十点の小型作品を中心とした展示が行われている。価格帯も1000円や1万円程度の作品から約6万ドル(約960万円)の作品まで幅広い。

 ブースではギャラリーの備品のほか、過去の展覧会やアートフェアで使用された台座などが組み合わされている。この試みの背景には、ギャラリーのコスト削減やサステナビリティの問題もある。アートフェアでは、ブースの壁を設営するほど廃材が増える。そこでギャラリーのストックを壁や棚の代わりとして活用し、展示方法そのものを変えることで、新しいブースのあり方を模索したそうだ。

会場風景より、小山登美夫ギャラリーのブース

不透明な世界情勢と市場心理

 初日の会場を見渡すと、全体として熱狂的な売れ行きというよりは、慎重な空気が漂っている印象を受けた。

 その背景には、昨年から続く不安定な国際情勢も影響しているとみられる。例えば、トランプ政権による各国への追加関税をめぐる貿易摩擦や、昨年11月以降に見られた日本と中国の外交関係の緊張(ギャラリー関係者によると、今年のフェア会場を訪れる中国人コレクターの姿も見えなくなったという)、さらに今年2月末に始まったアメリカ・イスラエルとイランの戦争による中東情勢の不安定化などが挙げられる。こうした地政学的リスクの高まりは、世界的な原油価格やインフレへの懸念とも相まって、グローバルなアートマーケットの心理にも影響を及ぼしていると言える。

会場風景より、TARO NASUのブース

 しかし北島は、現在の市場を次のように捉えている。「むしろ現在は、コレクターにとっては作品を比較的割安に購入できるタイミングとも言える。マーケットが過熱していた時期には購入できなかった作品や、そもそもオファーされなかった作品を入手する機会にもなっている」。

 市場の調整局面のなかで、コレクターの動きやギャラリーの展示方法、そしてフェア自体の戦略もまた、新たな段階へと移行しつつあるようだ。