2024.12.14

「evala 現われる場 消滅する像」(NTTインターコミュニケーション・センター[ICC])開幕レポート

サウンドアーティスト・音楽家のevalaによる個展「evala 現われる場 消滅する像」が、東京・初台のNTTインターコミュニケーション・センター[ICC]でスタートした。会期は2025年3月9日まで。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、《Sprout "fizz"》(2024)
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 サウンドアーティスト・音楽家のevalaによる個展「evala 現われる場 消滅する像」が、東京・初台のNTTインターコミュニケーション・センター[ICC]でスタートした。キュレーションは畠中実(ICC 主任学芸員)、指吸保子(ICC 学芸員)。

 evalaは2000年代以降、個人活動に加えて幅広い領域とのコラボレーションを行ってきた。とくに、2017年から取り組まれてきた新たな聴覚体験を創出するプロジェクト「See by Your Ears」は国内外で注目を集めており、その原点となっているのは、2013年に世界的なサウンド・アーティスト鈴木昭男とのコラボレーションによってICC無音室で制作された《大きな耳をもったキツネ》だという。その後、2019年には再び鈴木とともに「聴象発景 / evala (See by Your Ears) feat. 鈴木昭男」(中津万象園)を開催、2020年には立体音響を駆使した“耳で視る”映画『Sea, See, Sheーまだ見ぬ君へ』(スパイラルホール)を発表した。

 本展はその「See by Your Ears」シリーズにおける新作と過去作品を含めた、evalaにとって現時点での集大成となる展覧会だ。ICCにある2つの大展示室をフルで活用した展示は2005年ぶりであり、それぞれ異なるアイデアから生み出された作品が6つの展示室で紹介されている。

 なお、出展作品はほぼすべてサウンドインスタレーション作品であるため、いまの時点で関心をお持ちの方は、まず現地に赴くことをおすすめしておきたい。

左からevala、畠中実

 同展のタイトル「evala 現われる場 消滅する像」は、視覚的な情報を極限まで削ぎ落としたサウンドインスタレーションを展開するevalaの活動を端的に表していると言える。

 「以前作品を発表した現場にアンケートボックスを設置したところ、(ビジュアルはないのにもかかわらず)視覚的な感想が多かった」とevala。ある人は音によって移り変わる風景を連想し、またある人は音から色を認識しており、evalaのサウンドインスタレーションは共感覚を引き起こすトリガーにもなっているようだ。

展示風景より、《Sprout "fizz"》(2024)。ひとつひとつ形状の異なる小さなスピーカー群による「音の芽吹き」シリーズ。鑑賞者はスピーカーのあいだを縫って歩くことが可能

 また、evalaの作品が発する音は、現実で聞いたことがあるような音もあるのだが、その音が聞こえる環境はまるで鑑賞者のいる空間を包み込むようなものであり、どこか現実離れしているようにも感じる。2019年の「聴象発景」のインタビュー映像でevalaは、自身のサウンドが持つ要素について「超現実」「ニュー・リアリティ」という言葉を用いて表現するが、現実のようで現実ではない、夢を見ているような鑑賞体験を説明するのであれば、そう表現することもできるのかもしれない。

展示風景より、《Score of Presence》(2019)。パネル自体が音を発する「音の出る絵画」シリーズ。それぞれのイメージは空間音響のデータを独自のアルゴリズムによって視覚化したもの
展示風景より、《Studies for》(2024)。これまでevalaが発表してきた36つの立体音響作品のサウンドデータを学習した生成AIによってつくられた空間的作品となっている

 会場には、今回撮影が叶わなかった新作の大型サウンドインスタレーション《ebb tide》(2024)や《Inter-Scape “slit”》(2024)、《Embryo》(2024)も発表されているほか、「See by Your Ears」シリーズの原点となった《大きな耳をもったキツネ》(2013)、《Our Muse》(2014)も無音室で鑑賞することが可能となっている(無音室は予約制)。

 さらに、evalaのこれまでの活動を振り返ることができる資料展示や、会場外の壁面には、サウンド・アートの歴史をまとめた「evala×ICC×サウンド・アート年表」も掲示されている。メディアアートやサウンド・アートを取り上げてきたICCならではの視点を借りながら、サウンド・アートの潮流や現在地を俯瞰して見てみるのも面白いだろう。

展示風景より、資料展示
展示風景より、「evala×ICC×サウンド・アート年表」