2025.4.12

「士郎正宗の世界展 ~『攻殻機動隊』と創造の軌跡~」(世田谷文学館)開幕レポート

世田谷文学館で、マンガ家・士郎正宗による自身初の大展覧会「士郎正宗の世界展 ~『攻殻機動隊』と創造の軌跡~」がスタートした。会期は8月17日まで。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部) 撮影協力=大橋ひな子(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より
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 東京の世田谷文学館で、マンガ家・士郎正宗の大規模個展「士郎正宗の世界展 ~『攻殻機動隊』と創造の軌跡~」がスタートした。会期は8月17日まで。

 士郎正宗といえば、いまなお圧倒的な人気を誇る『攻殻機動隊』の作者として知られている。1985年にSFマンガ『アップルシード』でメジャーデビュー、89年に『攻殻機動隊』の連載をスタートさせた。当時まだ世に浸透していなかった先端技術を独自の感覚で取り入れた、情報化社会の現代を予見しているかのような世界観が多くのファンの心を鷲掴みにした。

 本展は、開館30周年を迎える世田谷文学館による士郎正宗の初の大規模展覧会。会場では、マンガの「アナログ原稿」「デジタル出力原稿」に加えて、作業道具や蔵書などもあわせ約440点が展示されており、多様な広がりを見せる士郎の作品群と現在の活動までを全11チャプターにわたってたどるものとなる。また、士郎によるコメントも各チャプターに掲載されており、「士郎正宗」のパーソナルな部分にもせまる内容となっている。

展示風景より

 会場は11つのチャプターで構成されるものの、順路はとくに決められていないため自由に巡ることが可能だ。まずチャプター1「士郎正宗の創造の軌跡」では、これまでの士郎の活動を、作品と本人によるコメントとともに一覧にしている。チャプター2「士郎正宗の描き方」では、士郎が原稿作業の際に使用している手製の道具や、それらと画材をどのように用いて作画を行っているのかがわかる事例を紹介している。

チャプター1「士郎正宗の創造の軌跡」展示風景より
チャプター2「士郎正宗の描き方」展示風景より

 チャプター3から6では、士郎の代表作である『アップルシード』『ドミニオン』『攻殻機動隊』『仙術超攻殻オリオン』から、貴重な原稿が数多く展示されている。

 ここでとくに注目したいのは、士郎がアナログ原稿作業時代から意識していたという「(作業途中に)セーブポイントをつくる」行為だ。作業工程のなかで消されてしまう最終ラフや作業途中ラフのコピー、上から絵の具で着色された主線の原稿のコピーなど、通常見ることができない「裏側の仕事」が今回の展覧会では見ることが可能となっている。

チャプター5「攻殻機動隊」展示風景より
チャプター5「攻殻機動隊」展示風景より、『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』2話 原稿(1989)
展示風景より。空間構成はトラフ建築設計事務所によるもの。鉄パイプに加え、今年開館30周年を迎える世田谷文学館の展覧会を支えてきたパネル板を剥き出しの状態で用いることで、時間の流れも示しているという
チャプター4「ドミニオン」展示風景より、『ドミニオン C1 コンフリクト編 第1話』原稿(1993)
チャプター3「アップルシード」展示風景より

 チャプター7では、「攻殻機動隊」シリーズに欠かせない公安9課のAI搭載思考戦車・フチコマにまつわる設定資料やイラストレーションなどが、士郎のエピソードとともに紹介。また、展示室の座敷スペースには、「MEGATECH MACHINE 1 ロボットの反乱」のワンシーンを再現したパネルも設置されている。

チャプター7「フチコマ」展示風景より
展示風景より

 チャプター8では、士郎によるイラストワークにフォーカス。人物表現はもちろんのこと、最先端の技術を取り入れ構築された独自の世界観やその細やかな描写は見る者を圧倒する。付近には士郎の制作活動とSFの歴史、同時期に発表されていた他作品を一覧とした年表も掲示されているため、照らし合わせながら鑑賞することもおすすめしたい。

チャプター8「士郎正宗のイラストワーク」展示風景より
チャプター8「士郎正宗のイラストワーク」展示風景より

 チャプター10には、新作アニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』の情報とプロモーションムービーが登場。制作は、アニメ『映像研には手を出すな!』や『ダンダダン』でお馴染みのサイエンスSARUが務める。こちらは2026年に放送予定となっているため、今後の情報も要チェックだ。

チャプター10「新作アニメ」展示風景より

 ほかにも、最終チャプターでは、イリヤ・クブシノブ(ロシア出身イラストレーター)、中澤一登(アニメーション監督)、北久保弘之(アニメーション監督)、寺田克也(マンガ家)、弐瓶勉(マンガ家)、CLAMP(いがらし寒月、大川七瀬、猫井、もこなの4名からなる創作集団)、大暮維人(マンガ家)、長場雄(イラストレーター)、河村康輔(グラフィックデザイナー)、小浪次郎(マンガ家)といった著名なクリエイターらとのコラボレーション作品を約10点展示。また、『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』の表紙になりきれるフォトスポットも登場。ここでの記念撮影も欠かせないだろう。

チャプター11「コラボレーション」展示風景より
展示風景より、フォトスポット

 士郎正宗のキャリアスタート40周年、そして世田谷文学館の開館30周年を記念したこの大規模個展。士郎の創作世界がこれまでの世に与えてきた影響を実感するとともに、AIが浸透してきた今日、それらの作品群は一体どのように我々の目に映るのだろうか。ぜひ現地で体感してほしい。

展示風景より

©︎ Shirow Masamune/KODANSHA
©︎ Shirow Masamune/SEISHINSHA
©︎ Shirow Masamune/「士郎正宗の世界展」製作委員会