2025.5.16

「DESIGN MUSEUM JAPAN展 2025」(国立新美術館)開幕レポート。「デザインの宝」は今年で27つに

国立新美術館で「DESIGN MUSEUM JAPAN展 2025~集めてつなごう 日本のデザイン~」がスタートした。会期は5月25日までの11日間。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より
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 東京・六本木の国立新美術館で、「DESIGN MUSEUM JAPAN展 2025~集めてつなごう 日本のデザイン~」がスタートした。会期は5月25日までの11日間。

 本展は、日本各地に存在する優れた「デザインの宝」を発掘し、クリエイターの視点でひも解くことでその魅力を可視化。そしてネットワーク化を試みるものだ。この企画は2021年頃から国内外の各施設で開催されており、展覧会として国立新美術館で開催されるのは3回目となる。昨年の様子はこちら

 今回参加するのは、菊地敦己 (グラフィックデザイナー)、宮永愛子(現代美術作家)、塚本由晴(建築家)、五十嵐久枝(インテリアデザイナー)、菱川勢一(映像工芸作家)、深澤直人(プロダクトデザイナー)、宮前義之(デザイナー)、佐藤卓(グラフィックデザイナー)。この8人によって注目されるのは、栃木(栃木県)、京都(京都府)、天理(奈良県)、大阪(大阪府)、米子(鳥取県)、大田(島根県)、高知(高知県)、宮崎(宮崎県)といったそれぞれ8つの地域だ。

 本展の構成は、野見山桜(デザイン史家)、田根剛(建築家)、岡本健(グラフィックデザイナー)らが引き続き担当した。会場はおおまかに、同プロジェクトの概要を紹介するエリア、クリエイターらの視点から選ばれた8つの地域に存在する「デザインの宝物」を紹介するエリア、ワークショップエリア、日本における“デザイン”の考え方やその状況をまとめた年表のエリアで構成されている。

左から、倉森京子(NHK エデュケーショナル)、野見山桜(デザイン史家)、田根剛(建築家)、岡本健(グラフィックデザイナー)、宮永愛子(現代美術作家)、五十嵐久枝(インテリアデザイナー)、深澤直人(プロダクトデザイナー)、宮前義之(デザイナー)

 ここでは8つの地域を紹介するエリアから、いくつかピックアップして紹介したい。例えば、現代美術家・宮永愛子は、我々の生活にも馴染み深い「ヒラギノフォント」の明朝体が生まれた京都を訪ね、その成り立ちや土地との関係性について調査を行った。

展示風景より、宮永愛子「ヒラギノフォント」明朝体と京都の新しく古い関係(京都府京都)

 現代美術というデザインとは異なる領域で活躍する宮永にとって、今回の企画はどのように向き合うべきかと頭を悩ませるものでもあったという。展示を前に宮永はこう語る。「自分が日頃やってる表現活動は比較的ウェットなものなので、デザインとはかけ離れていると思っていた。しかし、(成り立ちや考え方を深掘りすることで)デザインにも同じようなものが通っていることに気づくことができた」。

展示風景より、宮永愛子「ヒラギノフォント」明朝体と京都の新しく古い関係(京都府京都)

 インテリアデザイナー・五十嵐久枝は、「魔法瓶」に目を向ける。そもそも魔法瓶というキャッチーな名前でありながらも、誰もがその固有名詞を使用していることに驚くと五十嵐。日本に一ヶ所しかないという大阪の魔法瓶工場を訪ね、保冷・保温機能を持つ特殊なガラスの製造技術や、時代にあわせて変化するデザイン、そして現在国外でも注目される魔法瓶の在り方についてもリサーチを実施した。

 五十嵐は、今回の企画で魔法瓶を選んだ理由について次のように語る。「幼い頃、魔法瓶の内側を覗くと、保冷・保温機能を持つガラスが万華鏡のように光っていたことが印象的であった。この人の目につかない内側のデザインに意味があることを伝えたい」。

展示風景より、五十嵐久枝「魔法瓶」ガラス職人たちの情熱が生んだ〈特産品〉(大阪府大阪)
展示風景より、五十嵐久枝「魔法瓶」ガラス職人たちの情熱が生んだ〈特産品〉(大阪府大阪)

 プロダクトデザイナー・深澤直人は、島根県の景観をかたちづくる「石州瓦」に着目。三州瓦(愛知)や淡路瓦(兵庫)に並ぶ三大瓦として知られるこの瓦の製法や独自の色合い、そしてこの瓦が生み出す歴史的な景観について調査しつつも、それを通じて大量生産・画一化が進む現代の日本に警鐘を鳴らす。

展示風景より、深澤直人「石州瓦」瓦が生み出す町の〈雰囲気〉(島根県大田)
展示風景より、深澤直人「石州瓦」瓦が生み出す町の〈雰囲気〉(島根県大田)

 ファッションブランド「イッセイミヤケ」のデザイナー・宮前義之は、高知県で江戸時代から300年余り続くという「街路市」を訪ねた。生前の三宅一生とのやりとりから、デザインの仕事で大切なのは「コミュニケーション」と「熱量を持って届ける」ことであると教訓を得ていた宮前は、その視点を携えながらこの市場に足を運んだという。宮前は取材時のことを振り返り、次のように語る。

 「街路市を訪ねたとき、目に見えるかたちではないが、会話や雰囲気がそこにはあり、一生さんから教わったデザインにとって大切なことが存在していると感じた。これらを展示にするのは難しかったが、本展を通じてぜひ現地に足を運んでほしい」。

展示風景より、宮前義之「街路市」市 300年続くコミュニケーションのデザイン(高知県高知)
展示風景より、宮前義之「街路市」市 300年続くコミュニケーションのデザイン(高知県高知)

 また、各展示什器にある言葉にはとくに注目してほしい。今回参加したクリエイターらによる「デザインの視点」や「デザインの考え方」が端的に示されており、昨今様々な意味を内包する「デザイン」という言葉を改めて問い直すものとなっている。

 例年同様、来場者自身が発見した日本の「デザインの宝」を共有できる参加型ワークショップも設置されている。

展示風景より
展示風景より

 なお、会期中には関連イベントも実施予定。5月18日には「日本のデザインミュージアムに向けて」、さらに25日には「デザインミュージアムジャパンツアーへようこそ」といったトークセッションも行われるという。申し込みは先着順となっているため、こちらもあわせて足を運んでみてほしい。

展示風景より
展示風景より