2025.8.1

「まだまだ見せます、新生 荏原 畠山美術館―中国観賞陶器、青銅器から新収集作品まで―」(荏原 畠山美術館)開幕レポート。幅広いコレクションのなかで涼を味わう

東京・白金にある荏原 畠山美術館で「まだまだ見せます、新生 荏原 畠山美術館―中国観賞陶器、青銅器から新収集作品まで―」が開催されている。会期は9月15日まで。

文・撮影=大橋ひな子(ウェブ版「美術手帖」編集部)

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 東京・白金にある荏原 畠山美術館で、同館収蔵品の魅力を伝える展覧会「まだまだ見せます、新生 荏原 畠山美術館―中国観賞陶器、青銅器から新収集作品まで―」が開催されている。会期は9月15日まで。

 本展は、2024年10月から3期に分けて開催された開館記念展に続くもの。同館が所蔵する重要文化財や国宝をはじめとし、新収蔵作品も紹介される貴重な機会となっている。3期までに紹介できなかった作品も展示されることから、展覧会名には「まだまだ見せます」と同館の意気込みが感じられるようなフレーズが入っている。

 全3章で構成される本展。1章「涼を味わう―東洋のやきものと書画」 は、本館2階展示室で開催されている。自然光を取り込む構造の展示室となっており、この時期の強い日差しも障子を通すことで柔らかくなり、会場全体が心地よい明るさになっている。

 夏の暑い時期に行う茶事(少人数で行う茶会)には、涼しさを演出するための様々な工夫がされてきた。本章では、焼きものや書画、茶器など、茶人が涼を感じさせるために凝らした工夫がつまった作品が展示されている。

展示風景より

 会場入ってすぐのところには、滝を描いた掛け軸などが展示されており、ベンチに腰掛けながら、まるで床の間にいるような感覚で作品と対峙する体験ができる。

展示風景より

 また窓際に並ぶ《水玉透鉢》には、器自体の薄さにも関わらず、綺麗な穴がたくさん開けられている。液体を入れることはできないが、葉っぱを敷いた上にお菓子を載せて出せば見た目も涼しげだろう。展示されている器に自分だったら何を盛りつけるかなど考えてみると、作品の見え方も変わってくる。

展示風景より、《水玉透鉢》 野々村仁清作 江戸時代 17世紀

 また同館が所蔵する、重要文化財に指定された《染付龍濤文天球瓶(青花)》も見逃せない。白地に青の染め付けがされた本作は、荒波のなか天に向かって飛ぶ白龍の姿が浮かび上がるようになっている。天球瓶といわれるこの陶器は、ふくらみのある胴に、すらりと首が伸びた瓶のことを指す。まるで天体(天球)の様子を表したように見えることからこのように名づけられた。本作は世界に数点しかない大変貴重なものだ。

展示風景より、《染付龍濤文天球瓶(青花)》 中国・明時代 15世紀

 猛暑のなかやっとたどり着いた最初の展示室を、涼の季節に茶会に招かれたような感覚で、涼しみながら楽しんでもらいたい、という同館の粋な企画意図が、随所に感じられる空間となっている。

 続いて新館に移動すると、2章「器の魅力―形・装飾・技法 」が展開されている。19世紀末から20世紀初頭に流通し、世界中から関心を集めるようになった中国の唐三彩、青銅器、明代の官窯磁器といった中国観賞陶器を中心に、人々のくらしに彩りを添えてきた器の魅力を紹介する内容となっている。本章で紹介される作品はどれも、同館の創設者である即翁 畠山一清(1881〜1971)が美術館をつくろうと決めたときに集め始めたものだ。

 《万暦赤絵輪花龍鳳文面盆(五彩)》は、龍と鳳凰が向かい合った絵が描かれている。中国では洗面器として使われていたが、日本では茶器具としても使われていたという興味深い作品だ。

展示風景より、《万暦赤絵輪花龍鳳文面盆(五彩)》 中国・明時代 16〜17世紀

 また同館が所蔵する6つの国宝のうちのひとつである《禅機図断簡(智常・李渤図)》や、重要文化財として認定されている《金襴手六角瓢形花入(五彩)》といった貴重なものも本章で紹介されている。

展示風景より、《禅機図断簡(智常・李渤図)》 楚石梵琦賛 因陀羅筆 中国・元時代 14世紀
展示風景より、《金襴手六角瓢形花入(五彩)》 中国・明時代 16世紀

 そして3章は新館の地下1階へ続く。「縁に引き寄せられてー新収集作品と、創立者とその歴史から社会に開く美術」と題された本章では、近年同館が収集した作品と、畠山一清とその後継者である2代目酒井億尋(1894〜1983)の社会活動とその影響を受けた、彫刻、絵画、建築といった様々なジャンルのアーティストの作品が紹介されている。

 会場入ってすぐ左に展示される3点が新収蔵品だ。近代日本を支えた実業家の多くが、茶の湯を第一の趣味とする数寄者と呼ばれたが、その筆頭にあげられるのが益田孝。益田は畠山一清を数寄者の道に引っ張った人物でもある。そんな益田が描かれたものが一番左の作品だ。

展示風景より、手前が益田鈍翁図画賛 鶴田吾郎、益田鈍翁賛 昭和時代 20世紀 中村氏寄贈品

 ほかにも、畠山と酒井に関連のある各ジャンルの作家たち、書家兼画家の津田青楓、建築の山口文象、画家の三浦俊輔、彫刻の堀進二らが、それぞれの作品とともに紹介されており、本章の最後には、堀が作成した畠山のレリーフが展覧されている。今年リニューアルをし、「荏原」の名前がついた同館の歴史を美術の視点から紐解くような内容だと言えるだろう。

展示風景より、山口文象の建築関連資料
展示風景より、三浦俊輔作品
展示風景より、畠山一清レリーフ 堀進二 昭和41年 発明協会

 酷暑のなか外出するのは億劫に感じるが、都会の喧騒を忘れられるような空間で、先人の知恵による涼を感じながら肩の力を抜き、同館のコレクションに浸ってみてはいかがだろうか。

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