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2026.6.19

建築、アート、ファッションが交差する「夢の館」。ハウス オブ ディオール 心斎橋

2026年5月、大阪・心斎橋に誕生した「ハウス オブ ディオール 心斎橋」。日本人建築家・藤本壮介がファサード設計した新たな旗艦店は、たんなるラグジュアリーブティックではない。建築家ピーター・マリノが手がけた内部空間には多数のアーティストによる作品群が点在し、ファッションとアートが響き合う「美術館のような場」が広がっている。

文=橋爪勇介(編集部)

ハウス オブ ディオール 心斎橋 ©︎DEN NIWA
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クチュールドレスのような外観

 大阪・心斎橋の御堂筋沿いに姿を現した「ハウス オブ ディオール 心斎橋」。まず目を引くのは、日本人建築家・藤本壮介によるファサードだ。

 波打つように重なる白い外装は、クリスチャン・ディオールが生み出したオートクチュールドレスのドレープや布の重なりを想起させる。昼間には自然光によって繊細な陰影が生まれ、夜になると建物全体が柔らかく発光する。その姿は建築でありながら、一着のクチュールドレスのようでもある。

アリス・エイコック《ツイスターアゲイン9フィート》 ©︎DEN NIWA

 内部に足を踏み入れると、建築家ピーター・マリノによる4層構成の空間が広がる。ヴェルサイユ宮殿を思わせる寄木細工の床や柔らかな色調のインテリアは、自然への敬意とディオールのクラフツマンシップを表現するものだ。その中心を貫く大階段には、アメリカの彫刻家アリス・エイコックによる大型彫刻《ツイスターアゲイン9フィート》が吊り下げられ、まるで渦を巻くエネルギーが建物全体を貫いているかのような印象を与える。

 注目すべきは、このブティックが40点もの美術作品を核に構成されている点だろう。

螺旋階段から見下ろす《ツイスターアゲイン9フィート》 ©︎DEN NIWA

ギャラリストでもあったディオール

 クリスチャン・ディオールは、クチュリエであると同時にギャラリストとしての経験も持ち、生涯にわたって芸術家たちとの交流を大切にした人物だった。その精神を受け継ぐように、ハウス オブ ディオール 心斎橋にはピーター・マリノが選定したアート作品が数多く配置されている。

クロード・ラランヌ《ギンコーベンチ/イチョウのベンチ》 ©︎DEN NIWA

 1階では、クロード・ラランヌによる《ギンコーベンチ/イチョウのベンチ》が来場者を迎える。イチョウの葉をモチーフにしたベンチは、自然の造形をそのまま彫刻へと昇華した作品だ。ラランヌ夫妻とディオールの関係は1950年代まで遡り、ムッシュ ディオール自らがブティック装飾を依頼した歴史を持つ。ここではブランドの歴史とアート史が静かに交差している。

東信《ブロックフラワー》 ©︎DEN NIWA

 また、フラワーアーティスト東信による《ブロックフラワー》も見逃せない。花々を特殊な手法で封じ込めた作品は、日本の生け花文化を現代的な彫刻表現へと転換する試みであり、花を愛したクリスチャン・ディオールへのオマージュとしても機能している。

「アートの館」として

 館内を巡ると、自然を主題とする作品群が繰り返し現れる。ジェニファー・スタインカンプのデジタルアニメーション作品は、光と動きによって植物の生命力を描き出し、ナンシー・ローレンツのアートパネルは金箔や漆といった素材を用いて東洋的な装飾性を空間へと導入する。ニコール・ウィッテンバーグの絵画やヴォルフガング・ティルマンスの写真もまた、花や風景を通じて自然の美しさを見つめ直すものだ。

ジェニファー・スタインカンプのLEDディスプレイ ©︎DEN NIWA
ナンシー・ローレンツによりカスタムアートパネル ©︎DEN NIWA
ニコール・ウィッテンバーグ《ヒマラヤンバルサム)》 ©︎DEN NIWA
ヴォルフガング・ティルマンス《アルストロメリア》 ©︎DEN NIWA

 こうした作品選定には明確なテーマがある。それは、クリスチャン・ディオールが抱いた自然への情熱だ。植物や花々はディオールの創作の源泉だった。ハウス オブ ディオール 心斎橋に集められた作品群もまた、花や樹木、自然現象をモチーフとしながら、それぞれ異なる方法で生命や変容を表現している。建築、インテリア、アートが一体となり、ひとつの「庭園的世界」を形づくる。

ムッシュ ディオール ©︎DEN NIWA

 最上階には、ミシュラン三つ星シェフ、アンヌ=ソフィー・ピックが監修するレストラン「ムッシュ ディオール」を併設。ここも庭園へのオマージュとして構想した空間となっている。

 ファッション、建築、アート、そして食がひとつの体験として結びつく点は、この施設の大きな特徴と言えるだろう。近年、ラグジュアリーブランドの旗艦店はたんなる販売空間を超え、文化的な発信拠点としての役割を強めている。なかでもハウス オブ ディオール 心斎橋は、その最前線に位置する存在と言えるだろう。

カリーヌ・ラヴァル《COSMOS×DIOR》
ヴィック・ムニーズ《オリアンダーズ・アフター・フィンセント・ヴァン・ゴッホ》