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2026.6.27

「元禄!師宣劇場十二ヶ月風俗図巻大公開」(静嘉堂@丸の内)開幕レポート。菱川師宣はいかに愛され、受け継がれていったのか

静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)で「元禄!師宣劇場十二ヶ月風俗図巻大公開」が開幕した。会期は8月23日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=安原真広(編集部)

菱川師宣《十二ヶ月風俗図巻》(江戸時代、1692〜93頃)より「四月 灌仏会(花祭り)と藤花の宴」。藤棚の下で宴が開かれており、主席に連れ込まれようとする人物も
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 東京・丸の内の静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)で「元禄!師宣劇場十二ヶ月風俗図巻大公開」が開幕した。会期は8月23日まで。担当は同館学芸員の吉田恵理。なお、前期が7月26日まで、後期が7月28日からとなっており、展示替えが行われる。

 本展は江戸時代初期の浮世絵師、菱川師宣(?~1694)の絹本着色「十二ヶ月風俗図巻」2巻を中心に師宣の肉筆画を紹介しつつ、同じく元禄の絵師である英一蝶(1652~1724)や、師宣を継承した宮川長春(1682~1752)といった宮川派の系譜をたどるもの。また、江戸後期に師宣の画風を「リバイバル」させた絵師たちの作品も展示する、序幕、第1幕、第2幕、大詰の4部構成になっている。

菱川師宣《十二ヶ月風俗図巻》(江戸時代、1692〜93頃)より「六月 舟遊び」。屋形船で囲碁や三味線を楽しむ

大衆文化の隆盛とともに

 師宣は房国保田村(千葉県鋸南町)の縫箔師・菱川吉左衛門の長男として生まれる。通称は吉兵衛、薙髪して友竹と名乗った。若くして江戸へ出て、寛文年間(1661~73)興隆期に大衆出版界にデビュー。土佐派系の町絵師の流れを基調とし、漢画系の諸派をも吸収して新様式を確立した。

 本展は序幕「主役は庶民! 師宣前史から元禄期の絵画」から始まる。ここでは師宣登場の前史を紹介しつつ、師宣の代表作や、師宣以外の元禄期に活躍した絵師の作品を展示している。

《四条河原遊楽図屛風》(江戸時代、1624〜44頃)紙本金地着色 二曲一双 (公財)静嘉堂 江戸初期の京都・四条通りの盛り上がりをいまに伝える屛風

 序幕ではまず、師宣登場前の近世初期の作品である《四条河原遊楽図屛風》(江戸時代、1624〜44頃)を展示。鴨川を中央に配置し、女歌舞伎、見世物小屋、若衆能といった当時の風俗を題材にした屛風は、貨幣の流通と経済の成長とともに庶民文化が爛熟していった時代をいまに伝える。

菱川師宣《見返り美人図》(江戸時代、1688〜94頃)東京国立博物館 絹本着色 独特のポーズによって髪型や着物の背模様、帯の柄などを見せている ※7月12日まで展示

 本作と並ぶのが、師宣晩年の代表作として知られる《見返り美人図》(江戸時代、1688〜94頃)だ。美人図と名打たれているが、その顔は半分しか見えず、むしろ着物が前景化している本作。玉結びの髪や着物の丸袖、細やかに表現された柄などからは、元禄期当時の最新流行を描こうとした師宣の姿勢が感じられる。また、序幕では英一蝶や尾形光琳の肉筆画も展示され、元禄期の絵画のモードを様々な角度から知ることが可能だ。

菱川師宣《十二ヶ月風俗図巻》(江戸時代、1692〜93頃)絹本着色 (公財)静嘉堂 前期展示では「一月」から「六月」までを並べて展示

 続く第1幕「元禄! 師宣劇場」では、本展の白眉となる《十二ヶ月風俗図巻》(江戸時代、1692〜93頃)を展示する。本作は江戸の町で暮らす人々の毎月の行事や風習を上下巻で1年分描いた長大な画巻だ。前期(6月27日〜7月26日)が「一月」から「六月」の上巻、後期(7月28日〜8月23日)が「七月」から「十二月」の下巻の展示となる。

菱川師宣《十二ヶ月風俗図巻》(江戸時代、1692〜93頃)より「一月 千秋万歳」。新春の祝福芸「千秋万歳」を楽しむ武家の家族
菱川師宣《十二ヶ月風俗図巻》(江戸時代、1692〜93頃)より「三月 上巳の節句(雛祭り)と花見」。飾られた雛人形と3月3日に行われた闘鶏

 本作は歌舞伎や遊里、行楽地の四季といったものと異なる、裕福な武家層の月次行事という師宣としては珍しい画題が特徴だ。発色の良い絵具で行事を楽しむ人物たちが生き生きと描かれており、当初のままかは定かではないが、装丁も高級だ。行事で使われる道具や身にまとった着物、女性たちの細かな仕草、そして子供たちの豊かな表情など、見所がつきない傑作だ。

受け継がれる菱川様

 第2幕「菱川、宮川の流れ─屛風絵にみる」は、師宣が手がけた絢爛豪華な屛風絵を中心に紹介。また、庶民の娯楽や季節の風物などが題材となり、現代にも通じる庶民文化の豊かさを映し出した菱川様を引き継ぐ作品も展示されている。

菱川師宣《歌舞伎図屛風》(江戸時代、1692〜93頃)紙本金地着色 六曲一双 東京国立博物館 通常の六曲屛風よりひと回り大きい金地の画面には285人もの人々が描かれている
菱川師宣《歌舞伎図屛風》(江戸時代、1692〜93頃、部分)。地面で歌舞伎を思い思いの姿で楽しむ庶民が描かれている

 《歌舞伎図屛風》(江戸時代、1692〜93頃)は、役者総出の華やかな舞台「太平楽大おとり」の様を六曲一双の大画面に表した屛風だ。中村座の門前で声を上げる呼び込み、桟敷席の裕福な人々から、地面に座る庶民まで、皆が思い思いの表情で観劇を楽しむ様子が描かれている。また、楽屋で顔を洗ったり、髪を直している役者たちなども吹抜屋台で覗き見ることができ、場の熱気がそのまま写し取られたような作品となっている。

《上野隅田川図屛風》(江戸時代、1688〜1736)紙本金地着色 六曲一双 (公財)静嘉堂

 六曲一双の《上野隅田川図屛風》(江戸時代、1688〜1736)は、上野寛永寺の花見、隅田川での納涼、元吉原での遊興という師宣が得意な画題が描かれた無落款の作品。女の髪型の表現などから、宮川派あるいは川又派の手によるものとされる本作は、師宣が確立した菱川様がひとつの様式として引き継がれていったことをいまに伝えている。

リバイバル、憧れの元禄文化

  大詰の「元禄リバイバル」では、18世紀以降、師宣の図様や画風がどのように引き継がれていったのかを紹介。

左から菱川師宣《遊女と禿図》(江戸時代、1688〜1704頃)、《美人図》(江戸時代、1711〜36頃) ともに(公財)静嘉堂 遊女の立ち姿に師宣が確立した美人像の継承が見て取れる

 宮川長春をはじめとする宮川派は、師宣の作風を強く引き継いだことで知られている。会場では師宣の《遊女と禿図》(江戸時代、1688〜1704頃)と長春の《美人図》(江戸時代、1711〜36頃)を並べて展示。着物の細やかな描き込みや絶妙なバランスで描かれた立ち姿など、菱川様の継承が見て取れる。

 江戸時代後期に師宣を再評価したのは、戯作者で考証家の山東京伝(1761〜1816)だ。京伝は『浮世絵類考』の「菱川師宣伝幷系図(ひしかわもろのぶでんならびにけいず)」で師宣を浮世絵の始祖と位置づけ、以降の師宣研究の先鞭をつけた。こうした流れから江戸後期には師宣の「リバイバル」ともいうべき現象が生まれた。

鈴木其一《雪月花三美人図》(江戸時代、1818〜30頃)三幅 (公財)静嘉堂 元禄風の髪や衣装ながらも線描や植物の描写の細かさに琳派以降の技術の洗練が感じられる

 琳派の伝統を受け継いだ鈴木其一(1796〜58)はこうした潮流を受けた作品を残しており、展示されている三幅対の《雪月花三美人図》(江戸時代、1818〜30頃)は、髪型が元禄期に流行したカモメ髱(たぼ)、着物も元禄風と、師宣ならびに元禄への憧れが見て取れる。

 庶民文化が花開いた時代の姿を貪欲に作品に取り入れていった菱川師宣。本展はその表現や様式を改めて整理するだけでなく、江戸時代のなかで様々な絵師の作品に引き継がれてきた師宣の姿を再確認できる。同時に、鈴木其一のような江戸後期、琳派以降の絵師たちが、師宣を引き継ぎながらも日本美術にいかなる洗練をもたらしたのかも知ることができる展覧会と言えるだろう。