アンディ・ウォーホル美術財団 vs リン・ゴールドスミス。最高裁判決から見る現代美術におけるアプロプリエーションの現在地
写真家のリン・ゴールドスミスが撮影したプリンスの肖像写真を用いた、アンディ・ウォーホルの《プリンス》シリーズ16作品。 この作品に関するアンディ・ウォーホル美術財団とリン・ゴールドスミスの裁判で、ついに最高裁の判決が出た。フェア・ユースの流れを覆すかもしれないその判決結果を、ライフワークとしてArt Lawに取り組む弁護士・木村剛大が法的観点から解説する。
2023年5月18日、ついに注目されていた最高裁判決が出た(*1)。
写真家のリン・ゴールドスミスが撮影したプリンスの肖像写真を用いたウォーホルの「プリンス」シリーズ16作品に関する写真家とアンディ・ウォーホル美術財団との裁判の最高裁判決である。
2019年に筆者が寄稿した「合法と違法の線引はどこに?現代美術のアプロプリエーション」(2019年12月22日)では、2019年に出された本件の第一審判決までの司法判断の変遷を紹介し、「とくにニューヨーク州ではアプロプリエーションであっても、フェア・ユースの下で適法になる傾向が強まっているのが現状である。」と書いた。
しかし、2021年の本件の控訴審判決(*2)に続き、2023年のリチャード・プリンスの「New Portraits」シリーズを巡る訴訟の第一審判決で(*3)、裁判所はアーティストによる写真の利用にフェア・ユースが成立しないとの判断をしており、この流れに歯止めがかかってきた。
ウォーホル美術財団 vs ゴールドスミスの司法判断の流れを簡単に振り返ってみよう。