キャラクターはことば

マンガ、アニメといったサブカルチャーは、2000年の村上隆による「スーパーフラット」以降、日本の現代美術の文脈を語るうえでもはや外すことができない領域となった。いっぽうで、ヴィデオゲームがその文脈であまり語られてこなかったのはなぜなのだろうか。日米間におけるヴィデオゲームの発展を美術史の流れになぞらえながら整理するとともに、そのなかで培われた独自の空間意識からゲームにおけるキャラクターデザインの美学、そしてゲームと現代美術はいかに交わっていくことができるのかについて、現代美術家・たかくらかずきが全3回にわたって論じる。最終回は「キャラクターはことば」をお届け。

文=たかくらかずき 監修・構成協力=中川大地

たかくらかずき ハイパーマン・バン・ゴ・オー 2025 ©︎GINZA SIX

キャラクターはことば

1992年の『美術手帖』から

 1992年3月1日発行の『美術手帖』No.651「特集 ポップ/ネオ・ポップ」には、「ポスト・ホビー・アート・ジャパン」と題した座談会が掲載されている。中原浩大、村上隆、ヤノベケンジ(敬称略)の3人による鼎談はそれぞれのオタク的(もしくは美術オタク的)バックボーンから現代美術作品への経路を明らかにするものだった。

 この時代においてはアニメ的なものと特撮的なものは同列に「オタクカルチャー」として語られている。ここではオタク当事者としての村上とヤノベ、オタクカルチャーに興味がある美術オタクとしての中原、という区分で座談会が進められている。このなかで村上や中原がアニメ的なものに言及しているのに対して、ヤノベは特撮的なものについて主に言及している。

 繰り返しになるが、現代美術における「サブカルチャー/オタクカルチャー」的なものは「スーパーフラット」的なものにほぼ回収されている。アニメ的で、平面的な、主に美少女アニメや人間的キャラクターの描画を中心としたペインティング的表現が中心となって、村上隆に始まり、その後のカオス*ラウンジやKYNEまで、一貫してそのルールのなかでプレイしている。彼らが語るキャラクターカルチャーのなかには、特撮的キャラクターや人間的でないキャラクターはほとんど見られず、あくまでアニメ的で人間的な存在のみがキャラクターであるかのように語られている。

 1992年の『美術手帖』の座談会以降も、ヤノベケンジはキャラクターをつくり続けている。トらやんや宇宙猫(SHIP’S CAT)などの特撮的キャラクターは、アニメ的スーパーフラットとは異なる分岐として存在する。シュルレアリスムや岡本太郎に連なるヤノベケンジの特撮的キャラクターと、アメリカ現代美術的スーパーフラットに始まり、創造力とトラウマの対象を戦後に限定しポップアートやポストモダニズムと結びつき、その表層性をもってアニメ表現とつながっていく村上隆のキャラクター。ここに、オタクカルチャーの大きな分岐がある。そしてヤノベが継承する、特撮を中心としたキャラクターカルチャーは長い歴史を持っているにもかかわらず、現在あまりに語られず、注目されていない。このことについて大きく掘り下げてみたい。