2024.11.29

初めての作品購入をサポート。「LUMINE ART FAIR –My 1_st Collection Vol.3–」が目指すものとは?

11月2日〜4日、第3回目の「LUMINE ART FAIR –My 1_st Collection Vol.3–」がニュウマン新宿のルミネゼロで開催された。アート初心者でも気軽に作品を購入することを目的にするルミネの取り組みを紹介する。

文=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

会場風景より
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 11月2日から4日までの3連休。大勢の人々でにぎわった新宿駅の新南口に直結するニュウマン新宿5階のルミネゼロで、アートフェア「LUMINE ART FAIR –My 1_st Collection Vol.3–」が開催された。

 ルミネは、アートのある毎日を提供することを目指し、「LUMINE meets ART PROJECT」(略称「LMAP」)を2010年にスタート。アートウィンドウを設置したり、エレベーターのアートラッピングを手がけたり、また公募によるアワードを実施し、数百人もの応募者が集まるような大規模な企画を行うなど、多岐にわたる活動を展開してきた。

会場風景より

 今回のアートフェアは、「LMAP」の一環として、2019年に第1回目が開催。コロナ禍の影響で2回目は昨年に実現し、今年は3回目の開催となった。

 同フェアのディレクターを務めるのは、ニューヨークの「NowHere」と東京の「Otherwise Gallery」(旧hpgrp GALLERY TOKYO)を立ち上げた戸塚憲太郎。「私たちのフェアではアートフェアに対する敷居を下げ、価格も手頃にすることで、『初めてアートを購入する』という体験を提供したい。ルミネで初めてアートに触れる機会を持ってもらえたら」と述べている。

アートツアーの様子。中央は戸塚憲太郎

 同フェアは昨年から、ギャラリーが出展するのでなく、アーティストが約2.5×3メートルの壁を使って作品を展示する形式を採用。今年は約30名のアーティストが参加し、絵画、写真、立体作品など幅広いジャンルの作品が展示された。

 例えば、都築まゆ美は、鉛筆画をもとにしたリソグラフ作品や油彩画を制作しており、日常の風景に潜む非日常を表現。前田麦は、インターネットでダウンロードできる取扱説明書をもとに独自のアレンジを加えた「トリセツ」シリーズを展示した。また、会期中の3日と4日には前田をはじめとする4名のアーティストがワークショップも開催し、前田は自身が収集した様々なスタンプを参加者が使い、独自の絵をつくる体験イベントを行った。

前田麦のワークショップ「STAMP BY ME」の様子

 また、美術館や展覧会で廃棄された素材を用いて家具として再生するアーティストユニット「副産物産店」の作品も会場で展示。サステナブルな視点を持ちながら、アートの枠を超えて、環境や社会に対する意識を喚起するものとなった。

中央の椅子はアーティストユニット「副産物産店」による作品

 同フェアは、ほかの商業的なアートフェアとは一線を画す存在だと言える。戸塚によれば、一般的なアートフェアでは高額な出展料が求められ、アートフェア自体が利益を追求するビジネスとしての側面が強い。しかし、同フェアは企業としての社会的な姿勢を示す活動の一環として開催されているという。

 その意図について、戸塚は次のように説明している。「このフェアは、より多くの人がアートに触れる機会をつくることを目的としている。入場料も無料のため、たまたま買い物や食事に訪れた人々が、偶然アートに触れることもあるだろう。アーティストには無料で出展の機会を提供し、このフェアでひとりでも多くのファンをつくってもらえればと思っている。そんな出会いが私たちの未来をより豊かにすると信じている」。

会場風景より

 参加作家の年齢は幅広く、展示作品も従来の美術史で評価されるような作品だけではなく、グラフィックデザインや幅広いジャンルの作品を紹介している。戸塚はこう続ける。「一般的に、アートは美術館に収蔵されることで評価が確立し、美術史に残ることが最終的な目標とされている。しかし、アートにはもっと多様なかたちがあり、そうした既存の枠組みに収まらないものも価値があると考えている。歴史に残っていないだけで、アートと呼ばれない作品が多く存在している。そのような作品も拾い上げ、紹介することがフェアの意義のひとつだ」。

会場風景より

 同フェアはアートコレクターだけではなく、アートに初めて触れる人々を主要な顧客としている。ここで人生初のアートを購入することにより、生活に新しい体験や視点が生まれることも期待できる。「例えば、たまたま立ち寄った人がドキドキしながら作品を買い、家に飾ってみることで世界が少し変わるような体験をしてもらいたい。それが次のステップ、本格的なアートへの入り口になるだろう。最初のハードルをここでクリアしてほしいというのが、このフェアの意図だ」(戸塚)。

会場風景より

 それを実現するために、コンシェルジュと呼ばれるスタッフが会場内に常駐しており、来場者に対して作品の選び方や保存方法、飾り方などを丁寧にアドバイスする。また、来場者は会場でアーティストと直接対話することもできる。これらの取り組みにより来場者の不安を払拭し、自然にアートを楽しめることが期待されている。

 今後の展開について、戸塚は「まず継続が最優先の目標だ」とし、次のように話している。「LMAP自体は既に14年続いており、その長寿命はルミネがアートに対して積極的な姿勢を持っていることの証だ。しかし、アートフェアとしてはまだ3回目の開催であり、今後どのように発展させていくかについては模索中でもある。例えば、現在の会場の規模が適切なのか、より多くのアーティストに参加してもらうべきなのか、といった点については引き続き検討していく必要がある。ただし、この規模感やアクセスのしやすさを維持しながら、続けていくことの意義を強く感じている」。

会場風景より

 国際的なアートフェアが数多く存在するなか、アートの初心者にとって気軽にアートに触れられるこのような機会は需要があるだろう。そのため、LUMINE ART FAIRのような取り組みは、今後も続けていくことに大きな意味があると言える。様々なキャリアのアーティストをサポートしながら、アートを通じて人々の生活を豊かにしようとするこのフェアの今後を注視していきたい。