• HOME
  • MAGAZINE
  • NEWS
  • REPORT
  • 特別展「眼福―大名家旧蔵、静嘉堂茶道具の粋」(静嘉堂文庫美…
2024.9.10

特別展「眼福―大名家旧蔵、静嘉堂茶道具の粋」(静嘉堂文庫美術館)開幕レポート。茶の湯の歴史を伝える名品が集結

東京・丸の内の静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)で、静嘉堂として8年ぶりの茶道具展となる特別展「眼福―大名家旧蔵、静嘉堂茶道具の粋」が開幕した。会期は11月4日まで。

文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

展示風景より、ギャラリー2「憧れの茶入―"大名物"、"中興名物"の賞玩」
前へ
次へ

 東京・丸の内の静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)で、特別展「眼福―大名家旧蔵、静嘉堂茶道具の粋」が開幕した。会期は11月4日まで。

 静嘉堂所蔵の茶道具は、三菱第2代社長・岩崎彌之助(1851~1908)とその嗣子で第4代社長の岩崎小彌太(1879~1945)の父子二代によって、1884年頃から1945年までに収集されたものだ。

展示風景より、《青磁太鼓胴浮牡丹水指》(13世紀、南宋〜元時代)

 本展は静嘉堂として8年ぶりの茶道具展。将軍家や大名家旧蔵の由緒ある墨跡や花入、茶入や名碗をはじめ、著名な茶人たちの眼にかなった、姿、かたちの美しいものから渋みや風格をたたえた作品までが一堂に会す。

展示風景より、《瀬戸肩衝茶入 銘玉津島》(17世紀、江戸時代)

 ギャラリー1の「眼福を―岩崎彌之助・小彌太父子蒐集の名椀から」では、同館所蔵の名椀のなかでも中国製の唐物を紹介している。重要文化財《油滴天目》(12〜13世紀、南宋時代)は油滴班が格別に大きく、水戸徳川家伝来の大きく豪奢な《堆朱花卉天目台》(15世紀初期、明時代)に載せても引けを取らず、双方の存在感を際立たせている。

展示風景より、右が重要文化財《油滴天目》(12〜13世紀、南宋時代)と《堆朱花卉天目台》(15世紀初期、明時代)

 ほかにも千利休が大成した「侘び茶」の精神に従い、16世紀終盤に人気を博すようになった朝鮮半島製の高麗茶碗も並ぶ。重要文化財の《井戸茶碗 越後》(16世紀、朝鮮時代)や《堅手茶碗 銘 秋かぜ》(16〜17世紀、朝鮮時代)、《赤樂茶碗 銘 ソノハラ》(17世紀)など、展覧会名に違わぬ「眼福」な名物が目白押しだ。

展示風景より、ギャラリー1「眼福を―岩崎彌之助・小彌太父子蒐集の名椀から」

 ギャラリー2「憧れの茶入―"大名物"、"中興名物"の賞玩」では、濃茶を入れて点前に用いる陶製の小壺「茶入」に着目。茶道具においては、おもに利休時代より知られていたものを「大名物」、その後の時代に選定された小堀遠州好みのものを「中興名物」と称するが、本章では静嘉堂所蔵の大名物と中興名物の茶入をすべて展示しており、白眉ともいえる構成となっている。

展示風景より、ギャラリー2「憧れの茶入―"大名物"、"中興名物"の賞玩」

 とくに若き日の岩崎彌太郎が、会社の年末給与を前借りして購入したという逸話もある大名物の《唐物茄子茶入 付藻茄子》や《唐物茄子茶入  松本茄子(紹鷗茄子)》(ともに13〜14世紀、南宋〜元時代)は、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康と戦国時代を代表する三武将が手に取った伝来を持つ名品中の名品だ。これらを収納された大箱とともに見ることができる貴重な機会となる。

展示風景より、左から《唐物茄子茶入 松本茄子(紹鷗茄子)》、《唐物茄子茶入 付藻茄子》(ともに13〜14世紀、南宋〜元時代)

 ギャラリー3「静嘉堂茶道具の粋―大名家の名宝、"眼福"の逸品」は静嘉堂の茶道具コレクションの根幹を成す、江戸時代の大名家ゆかりの作品をまとめて紹介。初代の政宗、四代綱村、五代吉村が蒐集に熱心だった伊達家に伝わっていた大名物《唐物茄子茶入 利休物相(木葉猿茄子)》(13〜14世紀、南宋〜元時代)のほか、加賀藩主前田家や淀藩主稲葉家、丸亀藩主京極家などに伝来の茶道具が展示されている。

展示風景より、野々村仁清《色絵吉野山図茶壺》(17世紀、江戸時代)

 なかでも、同館が所蔵する猿曳の絵が描かれた伊達家伝来の棚、通称「猿曳棚」を4品すべて並べた様は圧巻だ。伝狩野元信の絵が引戸板に描かれた本歌となる棚とともに、それを後続の絵師たちが写したものが集結。なかでも初公開となる橋本雅邦の筆による可能性が高い明治時代の猿曳棚は要注目だ。

展示風景より、左が《猿曳棚(写)》伝 橋本雅邦画(19世紀、明治時代)

 ギャラリー4「名宝を伝えゆく"茶の湯"─淀藩主 稲葉家から岩崎家へ」では、彌之助、小彌太の父子が収集した茶道具の名品に立ち返る。ここでは稲葉家から小彌太の代で購入した同館の誇る国宝《曜変天目(稲葉天目)》(12〜13世紀、南宋時代)のほか、同じく稲葉家伝来の唐物茶入、大名物《唐物瓢簞茶入 稲葉瓢簞》(13〜14世紀、南宋〜元時代)も次第とともに展示されている。

展示風景より、《曜変天目(稲葉天目)》(12〜13世紀、南宋時代)
展示風景より、《唐物瓢簞茶入 稲葉瓢簞》(13〜14世紀、南宋〜元時代)

 加えて彌之助時代に購入された名品として《御所丸茶碗 黒刷毛》(17世紀、朝鮮時代)も紹介。本品は天下の名品として彌之助が決して口につけることがなかったことが伝わる名品を間近で堪能してほしい。

展示風景より、《御所丸茶碗 黒刷毛》(17世紀、朝鮮時代)

 茶の湯の長い歴史のなかで見出されてきた数々の名品が潤沢に揃う、まさに「眼福」な展覧会となっている。