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2025.6.4

「ライアン・ガンダー:ユー・コンプリート・ミー」(ポーラ美術館)レポート。鑑賞者が「完成」させる展覧会

箱根のポーラ美術館で、ライアン・ガンダーの展覧会「ライアン・ガンダー:ユー・コンプリート・ミー」が開催中だ。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より
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 神奈川・箱根のポーラ美術館で、ライアン・ガンダーの最新作を紹介する展覧会「ライアン・ガンダー:ユー・コンプリート・ミー」が開催中だ。

 ライアン・ガンダーは1976年生まれ。イギリス・サフォークを拠点に活動するアーティストで、絵画、彫刻、映像、テキスト、VRインスタレーションから建築、出版物や書体、儀式、パフォーマンスまで、幅広い作品と実践を通して芸術の枠組みやその意味を問い直してきた。展覧会のキュレーション、大学や美術機関での指導、また子供を支援する活動にも熱心に取り組んでおり、日本では東京オペラシティ アートギャラリーで自身がキュレーションを担当した収蔵品展「ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展」(2021)を、翌年に「ライアン・ガンダー われらの時代のサイン」(2022)を開催。また今年からは岡山市内に開館した「ラビットホール別館 福岡醤油蔵」で長期展示「Together, but not the same」展(終了日未定)が開催されている。

 壁の穴から小さなネズミが語りかける《2000 year collaboration (The Prophet)》や壁に設置された目と眉が豊かな表情を見せる《Magnus Opus》(2013)などで広く知られるライアン・ガンダー。本展では館内の様々なスペースで、新作12点を含む18点が展開されている。そのなかから、代表的な作品を紹介したい。

展示風景より、奥の作品は架空の展覧会ポスターを作品にした《幾多の野望たちの亡霊(待合室)》(2025)

 ガンダーにとって新たな局面と言えるのが、《閉ざされた世界》(2024)だ。「普段は個人的な背景から作品をつくることはない」と語るガンダー。しかし本作は、自閉スペクトラム症の息子に関連するものだ。

 床に整然と並べられたのは、ガンダーが考案したものを含む色とりどりのおもちゃやゲームの部品。この壮観な列は、普段からおもちゃを1列に並べる息子の習慣と、それに対する父親としての感情が反映されている。

 なお本作はロビーフロアの片隅に置かれた植木鉢に潜む《君が僕を完成させる、あるいは僕には君に見えないものがある(カエルの物語)》(2025)ともリンクする。アニマトロニックのカエルが語る言葉に耳を傾けてみてほしい。

展示風景より、《閉ざされた世界》(2024)
展示風景より、《閉ざされた世界》(2024)
展示風景より、《君が僕を完成させる、あるいは僕には君に見えないものがある(カエルの物語)》(2025)

 ロビーフロアとカフェに展示された3つの巨大な黒いボールには、白い文字でそれぞれ「Can time stop?」「Do shadows have sounds?」「Can you be lonely and happy?」という疑問文が書かれている。また、展示室4のガラスケースには、膨大な数の小さな黒いボールが置かれ、そこにも様々な問いかけを見ることができる。これらはガンダーの子供たちが考えた質問文であり、いつの間にか忘れてしまう自由な想像力の重要性を伝える。また角度によって見え隠れするテキストは、わたしたちが見ている世界はほんの一部であることを暗に示している。

展示風景より、《孤独なままで、幸せでいられるの?》(2025)
展示風景より、《時間は止まるの?》(2025)
展示風景より
展示風景より、《おばけには歯があるの?(答えばかり求める世界での問い)》(2025)

 このほか、アニマトロニックのネズミが2匹、壁から顔を出し、会話を繰り広げる《物語は語りの中に》(2025)や、すべて実現するには「ありすぎる」(ライアン)という膨大なアイデアの塊そのものを作品化した《アイディア・マシン》(2024)など、多様な作品がわたしたちの認識に揺さぶりをかける。

展示風景より、《物語は語りの中に》(2025)
展示風景より、手前が《アイディア・マシン》(2024)
展示風景より、《時空からの離脱(ロンドン、マレ通り146番地》(2024)
展示風景より、《生産と反復を繰り返しながらも君は自由を夢見ている》(2025)