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2025.8.5

作家・梨木香歩が文を手がけた『森のはずれの美術館の話』が刊行。国立西洋美術館が題材に

国立⻄洋美術館を題材とした絵本『森のはずれの美術館の話』が刊行された。小説『⻄の魔女が死んだ』などで知られる作家・梨木香歩が文章を、絵本「リサとガスパール」シリーズでお馴染みの画家・ゲオルグ・ハレンスレーベンが絵を手がける本作品に込められた思いとは?

文・撮影=大橋ひな子(ウェブ版「美術手帖」編集部)

『森のはずれの美術館の話』の表紙。右は国立西洋美術館のみで購入可能な限定デザイン。
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 上野の国立⻄洋美術館を題材とした絵本『森のはずれの美術館の話』が刊行された。文章を手がけたのは、小説『⻄の魔女が死んだ』などで知られる作家・梨木香歩。絵を手がけたのは、絵本「リサとガスパール」シリーズでお馴染みの画家・ゲオルグ・ハレンスレーベンだ。

 国立西洋美術館は1959年に開館。フランス政府から寄贈返還された約370点の松方コレクション(印象派の絵画およびロダンの彫刻を中心とするフランス美術コレクション)をもとに、西洋美術全般を対象とする唯一の国立美術館である。

 本作品では、西洋美術館を東洋に現れた「西洋への窓」ととらえ、「東」と「西」が出会うこの場所で、人が絵と結ばれることの喜びや、大切なものを見出すことの幸せを表現した作品となっている。

 本作品は2部構成となっている。第1部は、電車に乗って美術館にきたある母子の話。主人公である迷子になった男の子の、絵画との不思議な出会いが描かれる。第2部「西洋美術館クロニクル」は、大人の読者に向けたエピローグとして楽しめる、数年後の未来を舞台にした物語。東の国に西洋絵画を展示する美術館が生まれるまでの歴史を、ファンタジーと現実を混ぜながら詩的な表現で展開される。

 雰囲気の異なる2部で構成される本作品は、時期を変えて1部ずつ読んだり、2部通して多層的に作品の世界観に浸ったりと、さまざまな方法で楽しんでもらいたい、という思いからこの構成になったという。たんに子供向けの絵本とするのではなく、大人も楽しめる工夫がされた本作品には、年代問わず、美術館で絵画と向き合う素晴らしさに気づいてほしいという思いが込められている。

 本作の制作過程で、作者である梨木に同館内の紹介を行った渡辺晋輔(三菱一号館美術館学芸グループ⻑、前・国立⻄洋美術館学芸課⻑)は、本作品の出版に際して次のように語る。

 「よく絵は窓とも形容されるが、実際の窓の外の景色とは違いそれ自体は動かないため、見る側が想像力を持って向き合わないと作品世界に参加することはできない。しかし想像力を持って向き合うことで、「本当に自分にとって大切なものを見つける」という、非日常の素晴らしい体験をすることができる。そのなかで抱く感情や考えに正解はないので、ぜひ素直な気持ちで絵と向き合ってみてほしい。また絵本のなかには国立西洋美術館の収蔵品をモチーフにした絵ががいくつも登場しているので、どの作品か探しながら楽しんでみてほしい」。

左から、草刈大介(ブルーシープ代表)、夢眠ねむ(「夢眠書店」店主/キャラクタープロデューサー)、渡辺晋輔(三菱一号館美術館学芸グループ⻑、前・国立⻄洋美術館学芸課⻑)、永岡綾(ブルーシープ編集者)

 なお本作品は、8月5日より国立西洋美術館ミュージアムショップで先行販売(同館限定表紙の絵本を特別販売)、8月20日からは全国の一般書店でも販売される。

『森のはずれの美術館の話』の表紙。右は国立西洋美術館のみで購入可能な限定デザイン。