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2026.6.20

「民具これなーんだ?──民俗学者・宮本常一が美術大学に遺した民具コレクション」(武蔵野美術大学美術館)開幕レポート。美術・デザインの視点から「暮らしの造形」を見つめる

東京・小平にある武蔵野美術大学美術館で、「民具これなーんだ?──民俗学者・宮本常一が美術大学に遺した民具コレクション」が開幕した。会期は8月1日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=三澤麦(編集部)

「民具これなーんだ?──民俗学者・宮本常一が美術大学に遺した民具コレクション」の展示の様子。展示室とアトリウムの全4つのスペースを活用した見応えのある構成
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 東京・小平にある武蔵野美術大学美術館で、「民具これなーんだ?──民俗学者・宮本常一が美術大学に遺した民具コレクション」が開幕した。会期は8月1日まで。監修は、加藤幸治(武蔵野美術大学 教養文化・学芸員課程教授、美術館・図書館副館長)、鈴木康広(同造形学部空間演出デザイン学科教授)、大石啓明(同造形学部デザイン情報学科准教授)。

 日常生活の必要性からそのかたちが生み出された「暮らしの造形」としての「民具」。そこには、生活の実感に根ざした営みや、自然素材を生かした巧みな造形、そして目に見えないものをかたちにする想像力が宿っており、現代人にとって異文化との出会いにも似た驚きと発見をもたらしてくれる。

「第3章 民具のかたち百態」の展示風景

 武蔵野美術大学(以下、同大)には、およそ9万点に及ぶ大規模な民具コレクションが形成・収蔵されている。本展は、2020年から進めてきたコレクションの検証と再整理作業の成果をもとに、民俗学者・宮本常一(1907〜81、同大学名誉教授)と当時の学生たちがカリキュラムの枠を超えて育んだ学びや活動を紐解くものだ。

 また、現代の美術教育への活用の試みとして、『美術手帖』とのコラボレーションにより、美術・デザインの視点から展示を構成。観察と見立てによる参加型展示や、異なる背景を持つ民具同士の意外な組み合わせ、デジタル技術や空間表現による再解釈など、新たな鑑賞体験を通じて民具への多角的な理解を促すものとなっている。

なぜ美術大学に大規模な民具のコレクションが?

 同大にこれほどの民具のコレクションが収蔵された背景には、宮本常一の存在がある。宮本が所長を務めた近畿日本ツーリストの「日本観光文化研究所」(1966〜89)によるおよそ2万点の資料と、宮本と学生らによって結成された「武蔵野美術大学生活文化研究会」(1966)が収集した資料が、今日におけるコレクションの土台となったのだ。現在は美術大学の収蔵品として、生活文化の造形のアーカイブとして、学生たちの授業やリサーチ等に活用されている。

宮本常一の師であり、財界人でもあった渋沢敬三(1896〜1963)は、常民文化研究にも大きな役割を果たした。渋沢が初めて生活資料の収集・調査を始めた『民具蒐集調査目録』(アチックミューゼアム編著、1936)で、「民具」という造語が誕生した

 民俗学者として知られる宮本だが、大学ではどのような取り組みを実践してきたのか。「第1章 民俗学者・宮本常一のムサビ時代」では、大学人としての宮本の活動と、学生らによるカリキュラムの枠を超えた活動を資料とともに紹介している。

左は房総から三陸で見られる豊漁の祝い着「万祝(マイワイ)着」(東京都港区)で、渋沢が現地の人々から譲り受けたもの。右は荷物の運搬に使用される「蓑」(宮城県柴田郡川崎町)。この資料には「ムサシノビジュツ」という屋号が入れられており、学生らがフィールドワークを実施した現地の人々との信頼関係も見て取れる
宮本常一の活動を示す資料群。武蔵野美術大学への赴任が決定した際に宛てられた直筆の手紙も、本展で初公開されている

 本展の大きな特徴は、民具の資料展示に加えて、鑑賞者自らが参加することでより深い観察を促す参加型のプログラムが用意されている点にある。鈴木監修の「第2章 デッサンしよーぜ」は、NHK番組「みたてるふぉーぜ」のコーナー「デッサンしよーぜ」をもとにした参加型展示だ。民具の持つ造形的な特徴を、様々な視点で観察してみてほしい。

デッサンの対象となる資料がいったいなんの民具なのかは、あえて知らずに参加するのが面白い。資料は2週間ごとに入れ替えが行われる

 「第3章 民具のかたち百態」に並ぶのは、郷土玩具コレクションの華やかな「浜松凧」、そして多彩なバリエーションを持つ竹工芸コレクションの数々だ。同じフォーマットのなかでも様々な造形の違いが見て取れる。こうした比較をすることで、地域の特性や制作者の個性が初めてわかるのも、大規模なコレクションがあるからこそ実現することだ。

「浜松凧」の凧印は、地域の名称が図案化されており、一目でどの地域の凧であるかがわかる。竹工芸コレクションに見られる渋さのある茶色とカラフルな凧印のコントラストが美しい

『美術手帖』連載とのコラボレーション展示も

 2階のアトリウムでは、『美術手帖』の連載とのコラボレーションで実現した「第4章 民具これなーんだ?」が展開されている。各民具の造形的なポイントにフォーカスし、そこからどのような民具であるかと想像を膨らませていく連載の仕立てが展示として再現されている。

全15回にわたって連載されたトピックが展示として再構成された本章。パネルの裏側には、同テーマで紹介されたバリエーション豊かな民具の数々も紹介されている
連載第12回「『午年と馬の民具』。これなーんだ?」より。答えは「チャグチャグ馬コ」

 本展では、デジタル技術と光の表現によって民具の再解釈を図る展示も「第5章 浮遊する貧乏徳利」にて展開されている。加藤、大石の共同研究でもあり、3DスキャンとCGによるデータを用いた、記録と活用の研究のひとつのアプローチとして紹介されている。

「第5章 浮遊する貧乏徳利」。タッチパネルで画面の操作が可能となるほか、スクリーン前のセンサーによってインタラクティブな仕掛けも用意されている

 なお、館内受付では「みんごカード」が配布されている。カードに掲載された民具を展示エリア内ですべて見つけると、オリジナルグッズをもらうことができるため、ぜひこちらにも挑戦してみてほしい。

 また、同展の展覧会名にもなった『美術手帖』の連載や、民具に関するコラムが盛り込まれた書籍(美術出版社、2026)も会場内で販売されている。展覧会第4章と同様、民具のユニークな造形のポイントや機能に注目し、どのような民具であるかを想像させるクイズ形式の仕立てだ。民具の写真や鈴木によるイラストも盛りだくさんの楽しい一冊となっている。

『民具これなーんだ?──民俗学者・宮本常一が美術大学に遺した民具コレクション』(美術出版社、2026)