2025.10.17

「TOKYO MIDTOWN DESIGN LIVE 2025」が開催。“あたりまえの日常が、おもしろくなる”デザインイベントに

東京ミッドタウンで、「あたりまえの日常が、おもしろくなるデザインイベント。」をコンセプトとしたイベント「TOKYO MIDTOWN DESIGN LIVE」が11月5日まで開催されている。昨年までの「DESIGN TOUCH」をリニューアルするかたちで展開されるこの催しの見どころをレポートする。

文=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部) 撮影=平舘平

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「DESIGN TOUCH」は「DESIGN LIVE」へ

 六本木の東京ミッドタウンで、デザインの祭典「TOKYO MIDTOWN DESIGN LIVE 2025」が11月5日まで開催されている。

 昨年まで「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH」の名称で開催されていた同イベントは、「デザインとは何か?」といった根本的な問いに立ち返ることで、その装いを一新。「あたりまえの日常が、おもしろくなるデザインイベント。」をコンセプトに、インテリアやプロダクト、グラフィックに加え、音楽や食など文化を形成するものすべてを「デザイン」ととらえ、様々なコンテンツを通じて日常に新たな気づきを与える機会を創出することを試みている。

「DESIGN LIVE」では、デザインを“何かと何かの間を、適切につなぐこと”と定義することで、ロゴタイプからイベント企画に至るまでを設計している
イベント風景より

 今回のイベントは、国内外で活躍するクリエイターや新進気鋭作家を紹介する「DESIGN LIVE EXHIBITION」を中心に様々なイベントで構成されており、そのクリエイティブディレクターには佐藤卓(グラフィックデザイナー)と、キュレーターとして土田貴宏(デザインジャーナリスト)が就任した。

 イベント初日に実施されたプレスツアー内で、佐藤と土田はそれぞれ次のようにコメントした。「21_21 DESIGN SIGHTの立ち上げメンバー兼現館長として長いあいだ東京ミッドタウンとの協働を行ってきたので、今回の企画にお声がけいただき光栄に思う。商業施設ということもあり、一般の方々にも関心を持ってもらえるようにと企画した。ぜひ自由にご覧いただきたい」(佐藤)。「(佐藤さんがおっしゃるように)一般の方々にも楽しんでいただけるとともに、デザインのプロフェッショナルにとっても見応えのある内容にしたいと考え、国内外で実績のある方々に出展のお声がけをした。“これらのプロダクトがもし自分の生活のなかにあったら?”と考えながら見てもらえるとおもしろいと思う」(土田)。

「TOKYO MIDTOWN DESIGN LIVE 2025」のクリエイティブディレクター・佐藤卓(中央)と、キュレーター・土田貴宏(右) 撮影=編集部

「DESIGN LIVE EXHIBITION」見どころは?

 DESIGN LIVEにおける今年のテーマは「ゆさぶる」だ。既存の概念や凝り固まってしまった常識から一呼吸おいて、人々の感性をポジティブに刺激し、日常に向き合う姿勢を活性化させる「多様なデザイン」に出会うことができるものとなっている。

 まずは、イベントの中核となる「DESIGN LIVE EXHIBITION」を見ていこう。同展では、「ゆさぶる」というテーマに基づいて参加した国内外で活躍するクリエイターや新進気鋭作家ら全27組の作品が、屋外の芝生広場やミッドタウン内ガレリアにて展開されている。いくつかピックアップして紹介したい。

「TOKYO MIDTOWN DESIGN LIVE 2025」イベントマップ

 まず、ミッドタウン・ガーデンの芝生広場で作品を展示するのは、綿密なリサーチと実験をもとに、新たな視点や価値を生み出すコンテンポラリーデザインスタジオ「we+」だ。

 we+は、海や川辺など様々な場所に存在する藻類から色を抽出し、それを顔料として家具を製作する「SO-Colored」シリーズを展開。今回のイベントでは、同作の展示エリアでもあるミッドタウン・ガーデンから採取された微細藻類を培養。そこから生み出された顔料をタイルの一部に使用した家具を提案している。

we+による「SO-Colored」シリーズ。メンバーの林登志也と安藤北斗は、この取り組みを「色の地産地消」と表する。今後はこの取り組みを建材タイルや新たなプロダクトへも応用させていくという
we+による「SO-Colored」シリーズ

 同じく芝生広場で作品を展開するのは、鈴木良と小山あゆみによるクリエイティブユニット「AtMa(アトマ)」だ。インテリアデザインを軸に、ウィンドウディスプレイ、照明器具や椅子のデザインなど、主に内装の仕事に携わるふたりは、現場で発生した大理石やタイルなどの余剰材を用いたプロダクト「0% SURPLUS」シリーズを提案している。

 偶発的に生み出された形状も生かしながらつくられる椅子やベンチ、テーブルといった家具は、最小限の金属パーツで接続されており、シンプルかつ自由度の高い組み合わせが可能であることも示している。

AtMaによる「0% SURPLUS」シリーズ。大理石やタイルで制作された椅子は、クールな印象ながらも、座面の広さも相まって座り心地がよい
AtMaによる「0% SURPLUS」シリーズ

 藤本壮介建築設計事務所で設計スタッフとして働いていた経歴を持ち、直近では大阪・関西万博の休憩施設も手がけたことで知られる建築家・山田紗子は、アウトラインだけでつくられた家具シリーズ「drawing chair」をこの芝生広場で展開している。極限まで抽象化されたこの家具は、従来の機能から解放され、使い手側もより自由な発想で利用することができるだろう。

 休んでいるようでもあり、遊んでいるようにも見える。そして、まるでこの家具とともに風景の一部になっていくようでもある。「椅子に座る」という何気ない行為が、様々な意味合いを生み出してくれる、そんなユニークさがこの椅子にはあった。

山田紗子による「drawing chair」シリーズ
山田紗子による「drawing chair」シリーズ

 また、館内ガレリア1階と地下1階にも、24組のクリエイターらによる独自の視点で制作された多様な作品が並ぶ。

展示風景より、ガレリア1階

 例えば、「TOKYO MIDTOWN AWARD」の過去受賞者である竹下早紀は、スーパーボールを用いた照明の提案を行っている。ボールの跳ねる軌跡を思わせる軽やかな動きと、ポップカラーが映えるソフトな光が特徴のこの照明は、空間にリズムと遊び心を添える、ユニークでエネルギッシュなデザインが魅力的だ。

展示風景より、竹下早紀「Oh Balls, It's a Light!」

 京都を拠点に活動するデザイナー・坂下麦は、布を織るときに使う「はた」に現れる、絹糸が織られる前の平らで透き通るような美しさをイメージして照明を制作した。照明がやさしく照らす草木染めの糸は、ほのかに艶をまといながら、静かに存在感を放っている。

展示風景より、坂下麦「HAKU」
展示風景より、坂下麦「HAKU」(部分)。照明部分は自作されており、大量生産される工業製品とは対極にあるデザインと言える

 ほかにもガレリアでは、秋山かおり、荒牧悠、MD2V、小野栞、小泉創、小関隆一、小宮山洋、sasamoto natsuki、SHOKKI、鈴木元、SO TANAKA、SOHMA FURUTATE、TAKT PROJECT、TOSHIKI YAGISAWA、西本良太、長谷川依与、松山祥樹、盛永省治、山田裕人、吉添裕人、そして「TOKYO MIDTOWN AWARD」の過去受賞者である柳川えいみ、May Masutaniらによる作品も展示されている。ぜひそれぞれの個性にじっくりと向き合ってみてほしい。

展示風景より、ガレリア地下1階
展示風景より、TOSHIKI YAGISAWA「Untamed Basket」
展示風景より、山田裕人「Dove Table」

 DESIGN LIVEの特徴は、メインの展示に加えて、デザインの視点を“ゆさぶる”イベントも充実している点にある。例えば、「DESIGN LIVE カタカナナイト」は、その名の通り、日本語のひとつである「カタカナ」にフォーカスするライブイベントだ。会期中には「民謡クルセイダーズ small set feat. 喜嶋ユタカ」(10月24日)や「tofubeats (DJset)」(10月25日)、「U-zhaan×環ROY×鎮座DOPENESS」(10月26日)などの国内アーティストらが参加し、そのパフォーマンスを通じてカタカナが持つ独自の魅力を味わうものとなっている。当日は入場無料となっているため、飛び入りでの参加も可能だ。

DESIGN LIVE カタカナナイト

 また、人と健康をつなぐものとして「ラジオ体操」に着目した「DESIGN LIVE 音楽体操&ラジオ体操」も、ミッドタウン・ガーデンやアトリウムで実施される。こちらは土日祝に実施されるため、気になる方はぜひ参加してみてほしい。

DESIGN LIVE 音楽体操&ラジオ体操

 そして、「デザイン」について関心の高い方々にとくに参加してほしいのが、デザインの視点をゆさぶるトークイベント「DESIGN LIVE TALK BATON」だ。「DESIGN LIVE」クリエイティブディレクター・佐藤卓をはじめ、デザイナー、建築家、キュレーター、編集者といった、第一線で活躍する専門家らが登壇。その思考や最新のデザイン潮流などを学べる貴重な機会となるだろう。こちらも館内アトリウムにて自由参加となっているため、ぜひ足を運んでみてほしい。

DESIGN LIVE TALK BATON

 なお、会期中には「TOKYO MIDTOWN AWARD 2025 EXHIBITION」も同時開催されている。東京ミッドタウンが主催するこのデザインとアートのコンペティションは今年で18回目。プラザの地下1階には、応募総数1429点から選出されたファイナリスト16組の作品が展示されている。グランプリはパブリックスペースで行われる10月20日の授賞式で発表されるため、こちらも要チェックだ。

TOKYO MIDTOWN AWARD 2025 EXHIBITION