EXHIBITIONS

三輪美津子「小さな落下」

2025.04.12 - 05.11

©2025 Mitsuko Miwa

 CAPSULEで、三輪美津子の個展「小さな落下」が開催される。

 愛知県を拠点に活動する三輪美津子は、大胆な制作スタイルの変遷、および匿名性の高い表現によって、独自の立ち位置を築いてきた画家だ。1996〜97年にフィリップ・モリス財団からの奨学金によりベルリンへ滞在し、98年にはスウェーデンの芸術交流プログラムIASPIS(ストックホルム)のゲストアーティストに選出。近年の展覧会では、ニューデリーとムンバイを巡回したグループ展「消失点一日本の現代美術展」(2007)への参加や、国際芸術祭「あいち 2022」の出品作家としてクローズアップされるなど、精力的な活動を続けている。

 本展では、墨で描かれた数字の痕跡(1988)、天才小説家の誕生年を使った作品(88)、本展覧会タイトルともなっている「小さな落下」(2013)、そして現在もまだ化学変化の実験観察中である「重い本」を展示する。本展に際し、三輪は以下のステートメントを発表している。

 「発表の度にスタイルを変えながら決まったテーマも持たず制作をしてきた私だが、扱う素材や方法は変わるものの、折々に同じモテーフをもちいて唯一続けてきたのがこの数字のシリーズだ。制作を始めた頃から絵画という領域において「抽象」という概念がどうも自分のなかで収まりが悪く、いわゆる抽象表現主義的なものだけはどうしても手を出すことができないということがあった。

 例えば、人の手が描き出す形態は無意識のうちに何かになろうとする。それでは何かとは何か。それは『イメージ』というなんだか不純な抽象化へと向かって行くように思われてならなかった。

 そんななか、この世で一番抽象的な物は『数字』なんじゃないか?という結論に行きあたり、スタートしたのがこのシリーズだ。私が使う数字は、とくに現在世界中で使われているインド発祥のアラビア数字だが、これが使われるようになったのはそんなに昔のことではないようで、西洋では16世紀になってから、日本においてはやっと明治になってからだそう。

 この画期的な計算に便利な道具は世界を一変させたはず。数字それ自体は抽象そのものなのにもかかわらず、時間、空間、質量といったまさに宇宙を描き出す尺度であり、人間社会における経済活動の共通認識に必要不可欠なものとなったわけだが、それは間違いなく人間の思考あるいは想像可能な領域を一気に爆発的に拡大させたと思う。

 そんな抽象性と実用性という相反するものを含有する形態は、フィクションとノンフィクションの共存ともいえるのではないか。このような宇宙創世にもおよぶ時間や空間を創造し人々をこれほど狂わせ翻弄する、矛盾と合理性の両方を備えた不思議な存在はほかには見つからない。

 そして、何よりも私はこの抽象的な形状が具体的に『美しい!』と思う」。