2025.2.7

ろう者と聴者が遭遇する舞台『黙るな 動け 呼吸しろ』が11月29日に上演。「再演」の仕組みについても検討

「ろう者とろう文化に対する社会的認知」と「ろう者と聴者が互いに共通理解を図ること」を目的とした舞台作品『黙るな 動け 呼吸しろ』が、11月29日に東京文化会館大ホールで上演される。その企画経緯や内容に関する詳細が発表された。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

左から、長島確(ドラマトゥルク)、雫境(ドラマトゥルク)、牧原依里(構成・演出)、日比野克彦(総合監修)、島地保武(演出・出演)
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 「ろう者とろう文化に対する社会的認知」と「ろう者と聴者が互いに共通理解を図ること」を目的とした舞台作品『黙るな 動け 呼吸しろ』が、11月29日に東京文化会館大ホールで上演される。企画概要についてはこちら

 本公演は、東京で世界陸上とデフリンピックが開催される2025年に実施される3つのアートプロジェクト「TOKYO FORWARD 2025 文化プログラム」の一貫となるもの。総合監修を東京藝術大学学長の日比野克彦が、構成・演出を牧原依里と島地保武が、ドラマトゥルクを雫境(だけい)と長島確が務める。

ストーリー

霧に包まれた「ろう者のまち」。
建国記念日の式典が行われている。そこへ1人聴者が迷い込んでくる。
霧を抜けて「聴者のまち」からやってきたのだ。

ろう者の「オンガク」を伴う式典の様子に見とれる聴者。
3人のろう者と親しくなり、このまちで暮らすようになる。

「ろう者のまち」は、浮遊し移動するまちである。
ろう者だけが暮らし、ろうの文化が発達し、あらゆるものがろう者に便利なようにできている。50年ごとに「聴者のまち」に接近し、数年間近くにとどまるが、霧に遮られ、互いに知らない。

2年が過ぎ、聴者は3人のろう者を「聴者のまち」へ誘う。

「聴者のまち」は一極集住が進み切った超高層巨大都市である。
音の文化が発達し、一方で、人口過密ゆえに騒音問題が深刻化し、極度に静寂が求められている。

2年ぶりに戻った聴者は、3人のろう者に「聴者のまち」を案内する。
さまざまな出会いを通して、4人はやがてコンサートに参加することになる……

(プレス資料より抜粋)

 今回の企画経緯について、日比野と牧原は次のように述べた。「10年前に牧原さんと出会い、ろう文化を知った。その後、10年の時を経て東京都からこのお話をいただき、ろう者と聴者にとって相互の文化理解ができるような舞台を、と提案した」(日比野)。「ろう者のまち、聴者のまちは、現実社会を投影したもの。“共生”という言葉をよく耳にするが、聴者の皆さんが思っていることと(ろう者の)私が思っていることは少し異なると思う。そのイメージを舞台にできたら」(牧原)。

 また、現在上演が決まっているのは東京会場の11月29日のみだが、「再演」の仕組みについても当初から企画に含まれていると日比野。「このレガシーを伝えていくため、“再演すること”を前提につくっていきたい。聴者の文化では『台本を残すこと』がそれにあたるが、ではろう者は? 現時点では個人的な希望になるが、この舞台作品を互いの文化を知るためのものとして、プロットの残し方から考えたい。そこに重要性と価値がある」。

 なお、出演者のオーディション募集が2月10日から開始されるほか、上演を迎えるまでの制作プロセスもウェブサイトなどで公開されるという。

 余談ではあるが、この記者発表の会場は、登壇者・手話通訳者・記者などを含めた座席がひとつの円形に設置されており、お互いの顔を見あえるような状態になっている。これは、手や表情を用いて会話を行う、手話を第一言語とするろう者にとっては重要なことなのだ。

記者発表会場。後ろのスクリーンには、マイク利用者による音声が即時日本語表示される