2025.6.17

サントリー美術館で「幕末土佐の天才絵師 絵金」が開催。東京の美術館では初の大規模展

東京・六本木のサントリー美術館で「幕末土佐の天才絵師 絵金」が開催される。本展はあべのハルカス美術館、鳥取県立博物館からの巡回であり、東京の美術館では初の大規模展となる。会期は9月10日〜11月3日。

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 東京・六本木のサントリー美術館で、幕末から明治初期にかけて数多くの芝居絵屏風を残した絵金(1812〜76)の作品を取り上げる展覧会「幕末土佐の天才絵師 絵金」が開催される。本展はあべのハルカス美術館(2023)、鳥取県立博物館(2024)からの巡回となり、東京の美術館では初の大規模展となる。会期は9月10日〜11月3日。

 土佐の絵師・金蔵は高知城下・新市町(現・はりまや町)の髪結いの子として生まれた。幼少時より画才のあった金蔵は、同じ町内の南画家や土佐藩御用絵師に絵を学び、18歳のとき、土佐藩主の息女・徳姫の駕籠かきの名目で江戸にのぼる。駿河台狩野派の土佐藩御用絵師・前村洞和(まえむらとうわ)の下で3年間修業し、帰郷後は土佐藩家老の御用絵師となる。しかしその後、理由は定かでないが城下を追放され、中年以降いつどこで制作していたのか不明となっている。墓碑銘によると金蔵から絵の手ほどきを受けた者は数百人おり、明治9年(1876)に亡くなった後も、金蔵と弟子筋の手による芝居絵屏風や絵馬提灯は多数残っている。現在でも地元の高知では「絵金さん」の愛称で長年親しまれている。

 芝居絵屏風とは、歌舞伎や浄瑠璃のストーリーを極彩色で絵画化したもの。1966年に雑誌「太陽」で特集されたことを契機に、小説・舞台・映画の題材として取り上げられたものの、その多くが神社や自治会などに分蔵されており、それらをまとめて観られる機会は滅多にない。高知県外での展示は半世紀ぶりとなる本展は、大阪、鳥取を巡回し、ついに東京で開催される。

 本展は3章構成となる。第1章は「絵金の芝居絵屏風」と題され、絵金の基準作として知られる、香南市赤岡町の4つの地区が所蔵する芝居絵屏風が展示される。高知県に現存する約200点の芝居絵屏風類、その多くが二曲一隻の形態である。一部を除いて神社や公民館、自治会などで管理されており、現在でも神社の夏祭りで使用される。また、御用絵師であった絵金が残した、芝居絵屏風以外の掛軸や絵巻、画帖なども展示される。

伊達競阿国戯場 累 二曲一隻 香南市赤岡町本町二区 【通期展示】

 第2章「高知の夏祭り」では、屏風を絵馬台(台提灯)に飾る昔ながらの高知の夏祭りを、東京でも再現するような展示構成となる。氏子の高齢化や屏風の劣化などの理由によって絵馬台の数は年々減少しているが、高知市春野町芳原の愛宕神社の夏祭りで、2024年に絵馬台が数年ぶりに組まれるなど、文化の継承を積極的に行う動きも見られる。本展では、神社の絵馬台を展示室に再現しつつ、高知の夏祭りのもうひとつの風物である絵馬提灯も展示される。行燈絵とも呼ばれる絵馬提灯は毎年新調されていたため現存作は非常に少なく、とくに近年発見された「釜淵双級巴(かまがふちふたつどもえ)」は貴重な作品だ。

釜淵双級巴(絵馬提灯) 第二十四 二十四点のうち アクトミュージアム 【通期展示】

 そして第3章「絵金と周辺の絵師たち」では、屏風や絵巻、軸物以外の絵金の作品と、絵金と深い関わりのあった絵師の作品が展示される。本章では、ほとんど現存していない紙製ののぼりのなかでも、絵金の基準作となる「近江源氏先陣館  盛綱陣屋」も展覧される。

義経千本桜 加賀見山旧錦絵(横幟)[部分] 河田小龍 一張 安政 4年(1857) 高知県立歴史民俗資料館 【展示期間:9月10日~10月6日】

 なお本展の開催を記念して、アクトミュージアム学芸員の横田恵を迎えた講演会も行われる。