2025.3.5

フィンランドのアーティストたちがとらえる「ケアの行為」。KANA KAWANISHIで3つの展覧会が開催

2月22日〜4月26日、西麻布のKANA KAWANISHI PHOTOGRAPHYと清澄白河のKANA KAWANISHI GALLERYで、3つの会期にわたる展覧会「Acts of Care」が開催される。マイヤ・タンミやヘルッタ・キイスキ、ナヤブ・イクラムなど、フィンランドを代表するアーティストたちが、ケアというテーマを独自の視点で表現する。

The Family(スチール) 2022
© Nayab Noor Ikram
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 西麻布のKANA KAWANISHI PHOTOGRAPHYと清澄白河のKANA KAWANISHI GALLERYで、3つの会期にわたる展覧会「Acts of Care」が開催される。会期は2月22日〜4月26日。

 本展は、カティ・キヴィネン(ヘルシンキ美術館主任学芸員)とピルッコ・シータリ(インディペンデントキュレーター/元ヘルシンキ現代美術館館長)が企画したもの。昨年開催された第15回光州ビエンナーレ・フィンランド館のために構想された展覧会の日本巡回展を骨子としながら、アーティストによる特別インスタレーションも日本展限定で披露される予定だ。

Octomom(部分) 2021-23
©︎ Maija Tammi, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY

 第1期は、KANA KAWANISHI PHOTOGRAPHYにて、2月22日〜3月29日にマイヤ・タンミの個展「Octomom」が開催される。マイヤ・タンミは、ヘルシンキ生まれのアーティストで、科学者やほかのアーティストと積極的にコラボレーションし、物事の「根本的な真相」を探求する作品を制作している。

《Octomom》(2021-23)の展示風景より
©︎ Maija Tammi. Courtesy Gwangju Biennale Foundation/KANA KAWANISHI GALLERY photo by Studio Possible Zone

 同ギャラリーで8年ぶりとなる今回の個展では、《Octomom》(2021-23)というインスタレーション作品が発表される。この作品は、「オーディオ・ストーリー」「砂に投影されるプロジェクション」「産後まもない新生児を抱く母の肖像写真」という3つの要素で構成されており、53ヶ月間(4年7ヶ月)にも及ぶ、世界でもっとも長い抱卵期間を持つ深海のタコ「オクトマム」が卵を抱く姿を映像としてとらえている。モントレーベイ水族館のロボット潜水艇によって撮影された映像も作品の一部として展示され、タコ、人間、そして時間の交錯を表現している。

《Octomom》(2021-23)の展示風景より
©︎ Maija Tammi. Courtesy Gwangju Biennale Foundation/KANA KAWANISHI GALLERY photo by Studio Possible Zone

 第2期は、3月22日〜4月26日にKANA KAWANISHI GALLERYにて、ヘルッタ・キイスキの個展「Plasticenta」が開催される。キイスキの作品は、地球との関係や他の種との共存をテーマにしたミクストメディア・インスタレーションで知られている。今回はヒト胎盤からマイクロプラスチック粒子が発見されたという新たな研究から着想を得ており、胎盤から抽出されるエキスである「プラセンタ」と「プラスチック」を組み合わせた造語「Plasticenta」がタイトルとなっている。

Hydra(スチール) 2022
© Hertta Kiiski, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY

 キイスキは、10年以上にわたり2人の娘と姪とともに作品を制作しており、写真と映像を駆使して、文化的アイデンティティや記憶、儀式などのテーマを探求している。展覧会では、娘たちと共同制作でつくられた写真シリーズ「Plasticenta」と映像作品《Hydra》のほか、キイスキが東京滞在中に制作したテキスタイルを使用したサイトスペシフィックなインスタレーションも予定されている。

Friends forever 2022
© Hertta Kiiski courtesy KANA KAWANISHI GALLERY
Plasticenta Altar(左からDrape Psyche, Drape Entropy, Altarpiece Void, Altarpiece Intimacy, Altarpiece Love) 2022
© Hertta Kiiski, courtesy NOON Projects

 第3期では、4月5日〜26日にKANA KAWANISHI PHOTOGRAPHYにて、ナヤブ・イクラムとサンプサ・ヴィルカヤルヴィによる2人展「Families」が開催される。

 イクラムはフィンランドを拠点に活動するビジュアル・アーティストで、パフォーマンスやインスタレーションを通して、文化的アイデンティティや記憶を探求している。本展では、彼女の家族によるパフォーマンスを記録した映像《The Family》が展示され、家族の絆や儀式、記憶をテーマにした作品となっている。

The Family(スチール) 2022
© Nayab Noor Ikram

 もうひとりのアーティストであるサンプサ・ヴィルカヤルヴィは、時間や変化、個人の選択とその不可能性に興味を持つビジュアル・アーティスト、ドキュメンタリー映画監督であり、その映像作品《What Remains?》および《With You》は、認知症を患う母親との日常や、父親との別れをテーマにしたドキュメンタリーで、記憶と時間の変遷を描いている。

What Remains?(スチール) 2018
© Sampsa Virkajärvi
What Remains?(スチール) 2018
© Sampsa Virkajärvi

 また、初日の4月5日には、本展のためにフィランドから来日するアーティスト2名とともに、両名とも実母の介護経験があるアートプロデューサー・ライターの髙石由美と住吉智恵をゲストに迎え、「アート現場の座談会:家族と共に生きること、ケアすること」と題したトークイベントが実施される。

 本展のタイトル「Acts of Care」について、企画者のキヴィネンとシータリは「ケアとは愛情を感じる能力でもある」と指摘している。アーティストたちが家族や社会、環境とどのように向き合い、ケアというテーマをどのように表現しているか、ぜひ会場にて確かめてほしい。