2025.1.11

「蜷川実花展 with EiM:彼岸の光、此岸の影」(京都市京セラ美術館)開幕レポート

蜷川実花の過去最大規模の関西個展「蜷川実花展 with EiM:彼岸の光、此岸の影」が、京都市京セラ美術館で始まった。会期は3月30日まで。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より
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 蜷川実花の勢いは2025年も続きそうだ。関西で過去最大の⼤規模個展「蜷川実花展 with EiM:彼岸の光、此岸の影」が、京都市京セラ美術館の東山キューブで始まった。会期は3月30日。共同キュレーターは高橋信也(京都市京セラ美術館 事業企画推進室 ゼネラルマネージャー)、宮田裕章(EiM エグゼクティブディレクター/データサイエンティスト)。

 蜷川実花は1972年東京生まれ。多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン学科卒業。美大在学中のセルフポートレイトから出発し、被写体が見せる一瞬を、極彩色の色彩で鋭敏に撮影。ファッション、音楽、広告など様々なジャンルともクロスオーバーした活動を展開してきた。映画監督としても『さくらん』、(2007)『ヘルタースケルター』(2012)などを手がけ、第13回キヤノン写真新世紀優秀賞以降、第9回コニカ写真奨励賞、第26回木村伊兵衛写真賞などを受賞している。

 近年、「蜷川実花 瞬く光の庭」(東京都庭園美術館、2022)、「蜷川実花展 Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠」(TOKYO NODE GALLERY、2023〜24)、「海とつながる。アートをめぐる。―Harmony with Nature―」(葛西臨海公園、2024)、「森の芸術祭 晴れの国・岡山」(2024)など、相次ぐ展覧会・芸術祭で精力的な活動を見せてきた蜷川。本展は、蜷川および各分野のスペシャリストによって構成されたクリエイティブチーム「EiM(エイム)」(*)として挑むものだ。

 10作品によって構成された没入型の展覧会となる今回。蜷川と20年近い親交がある同館・青木淳館長は、「とくに2022年の東京都庭園美術館の個展あたりから、蜷川さんの表現は二次元から空間へと進化してきた。関西でこれだけ大きな展覧会は初めて。いままでと比較し、新たな第一歩となったと思う」とコメント。

 また蜷川は、「京都で開催するということが本展のテーマ設定に関わっている。実際に京都の街を歩いた経験をもとに、その歴史や命のゆらめき、生と死などを作品に取り入れたかった。これは絶対にいい展覧会になると思いつくってきた」と自身を覗かせた。ではそのハイライトを見ていこう。

*──蜷川とデータサイエンティストの宮⽥裕章、セットデザイナーのENZO、クリエイティブディレクターの桑名功、照明監督の上野甲子朗らで結成されたクリエイティブチームで、プロジェクトごとに多様なチームを編成しながら活動している。

 展覧会の最初と最後に通ることとなる展示室外の長い廊下には、現実と幻想の境界を体験するインスタレーション《Liminal Pathway》が展開されている。ガラス窓は写真を印刷したフィルムですべて覆われ、光が拡散されて空間を満たす。入るときは蜷川ワールドへの序章となり、帰るときには展覧会から現実へと戻る際の余韻となる。展覧会と現実をつなぐ境界線のようだ。

展示風景より、《Liminal Pathway》

 巨大な展示室内の冒頭を飾るのは、《Breathing of Lives》だ。都市のなかで感じられる「いのちの息づかい」をテーマにした本作は、無数に配置された水槽に映像が投影され、揺らめく水面が生み出す幻想的な光景が広がる。本展では、これまで対象としてきた都市のモチーフに加え、京都特有の風景を映像に取り入れることで、美術館内外を接続させる。

展示風景より、《Breathing of Lives》

 鮮やかな赤一色で彩られた《Flowers of the Beyond》を構成するのは造花の彼岸花。彼岸花は古来より、生と死、此岸と彼岸の間を漂う象徴的な存在とされている。赤い花々の中を通り抜けることで、五感全体でその象徴性を体験することができるだろう。

展示風景より、《Flowers of the Beyond》

 人の背丈程度の大きな6枚のガラスパネルで構成された《Silence Between Glimmers》には、花畑や蝶、藤の花、桜、海中の光景が展開。この写真と対を成す6枚のオーロラフィルターが、鑑賞者の動きや視点によって多様な光の表情を映し出し、空間全体を鮮やかに彩る。

展示風景より、《Silence Between Glimmers》
展示風景より、《Silence Between Glimmers》

 これと隣接するのは、天井から吊るされた1500本におよぶクリスタルガーランドで構成された《Whispers of Light, Dreams of Color》だ。同作には10万個におよぶクリスタル、サンキャッチャー、蝶、星、ハート、⽬玉、イミテーションの宝石など様々なモチーフが散りばめられている。手仕事の記憶と多様性が集積した、宝箱のような空間だ。

展示風景より、《Whispers of Light, Dreams of Color》

 《Dreams of the Beyond in the Abyss》は本展覧会のハイライトとなる大作。膨大な数の造花が咲き乱れる空間を抜けた先にあるのは、4面をLED ディスプレイに囲まれ、上下を鏡で挟まれた空間。映像には京都の八阪神社の桜や花火、蝶など様々なイメージがあふれ、その中に入ることで強い没入感を得ることができる。

 「見た後で世界との接し方が少しでも変わる経験をしてもらいたい」と蜷川が語る本作は、鑑賞者を現実ともっとも遠い場所として位置付けられる「深淵の世界」へと連れて行ってくれる。

展示風景より、《Dreams of the Beyond in the Abyss》
展示風景より、《Dreams of the Beyond in the Abyss》
展示風景より、《Dreams of the Beyond in the Abyss》

 《Dreams of the Beyond in the Abyss》で強烈な体験をした後に待ち受ける映像作品《Embracing Lights、そして《Liminal Pathway》は、鑑賞者をふたたび現実世界へと連れ戻してくれるだろう。