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2025.3.1

大阪市立美術館がリニューアル開館。「ひらかれた美術館」目指す

日本で3番目にできた公立美術館・大阪市立美術館が2年5ヶ月におよぶ大規模改修工事を経てリニューアル開館。リニューアルオープン記念展「What’s new」も開幕を迎えた。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

大阪市立美術館
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日本で3番目に古い公立美術館、何が変わった?

 大阪・関西万博の開幕を前に、大阪市立美術館がリニューアルオープンを迎えた。

 同館の開館は1936年。日本で3番目の公立美術館として住友家本邸跡に開館した。国宝・重要文化財を含む約8700件を収蔵する関西を代表する美術館のひとつだ。開館以来最大規模となる今回の改修では何が変わったのか? まずはその概要を見ていこう。

 大阪市立美術館は国の登録有形文化財であり、その優美な外観は保全されつつ、鑑賞・展示・収蔵環境が大きく改善された。まず、天王寺公園に面するグラウンドレベルにアイコニックな新エントランスを増設。エントランス周辺には新たなミュージアムショップ、ロッカー、授乳室、救護室などが設置され、ここから本館の中央ホールや地下展示室「天王寺ギャラリー」へとアクセスできる。また新設のエスカレーターを使えば、外の大階段を上らずに中央ホールへとたどり着くことが可能だ。

大阪市立美術館
新エントランス

 同館の中心部である中央ホール。ここは以前、天井に巨大なシャンデリアがあったが、耐震のために天井ごと撤去された。その際に出現した開館当時の天井がそのまま活かされ、迫力ある梁が見えるかたちとなっている。この中央ホールは無料で誰もが出入りできるようになっており、美術館の東西を結ぶ役割を果たす。館の東側にある日本庭園・慶沢園へも、ホールを経由することで館内から直接アクセスすることが可能だ。館内は展示室に入る以外はほぼ「無料ゾーン」とすることで、文字通り「ひらかれたミュージアム」をハード面からも目指す姿勢を示している。

エントランス側から見た中央ホール
館内側から見た中央ホール

 なお中央ホール北側の旧展示室は、「じゃおりうむ」と名付けられたパブリックスペースが新設され、中央ホールなどと合わせてユニークベニューとしての活用も目指す。このほか、建物3階(中央ホールの上階)にはワークショップ等が開催できるエリア(アトリエ)が設けられた。

 鑑賞者が見えない部分としては、作品搬出入用エレベーターを増設することで美術品動線を改善。展示替え時の休館日数を減らすことにより、これまでの約1.5倍となる年間300日の開館を確保する。

 いま日本全国の美術館では収蔵庫のスペース確保が大きな課題となっているが、同館ではその面積が760平米から1360平米へと大幅に拡張された。

 当然、美術館の要となる展示室もアップデートされている。北側展示室は1階、2階ともに最新の照明設備が入った壁面ケースを設置。ケース下部には免震装置も導入されている。また、2階の第13展示室には幅13メートルを超える国内最大級のケースも設置された。この刷新された美術館のリニューアルを飾るのが、リニューアル記念展「What’s new」だ。

展示風景より

「What’s new」に見る名品・珍品

 「What’s new」という言葉には、久しぶりに会った相手に「お変わりはありませんか」と軽く近況を尋ねる挨拶と、「最新情報/新着情報」の2つの意味が込められた。約2年半に及ぶ休館期間を経てリニューアルした最新の姿を披露する美術館からの挨拶だ。

 本展では、館内の全フロアを特別展会場とし、絵画や書蹟、彫刻、漆工、金工、陶磁など分野ごとに選りすぐりの作品約250件が一堂に並ぶ(会期中に一部展示替えあり)。

展示風景より、《洛中洛外図屏風》(17世紀)

 展示の大きな特徴はキャプションにある。本展では、キャプションに学芸員が主観で選んだ「名品」「珍品」のスタンプが付けられている。これを手がかりにし、鑑賞者が作品に興味を持つきっかけを提示することが狙いだという。

 「名品」「珍品」の筆頭は、同館を代表する名品のひとつである《青銅鍍金銀 羽人》だろう。小さな金工の本作は、不老不死を得た中国の仙人の一種である羽人(うじん)をかたどったもの。両耳が長く伸び、目尻が吊り上がる独特の容姿をしており、世界に存在する類品がこのほか2点のみという、まさに世にも珍しい作品だ。

展示風景より、《青銅鍍金銀 羽人》(中国・後漢時代)

 近世の風俗画では、生没年不明の謎多き絵師、東洲斎写楽が描いた《三代目市川八百蔵の田辺文蔵》に注目。中国書画は、東洋紡績株式会社の社長を務めた阿部房次郎(1868-1937)が蒐集し、息子の孝次郎から寄贈された「阿部コレクション」がその核となっている。本展では、高さ5メートルの特大展示ケースができたことで初めて展示可能となった文人画家・謝時臣(しゃじしん)の3.5メートルにおよぶ大作に注目だ。

展示風景より、手前が東洲斎写楽《三代目市川八百蔵の田辺文蔵》(1794)
展示風景より、中央が謝時臣の大作

 このほか、かつて考古隊を組織して大阪府下の遺跡の発掘調査等を行っていた同館の歴史を感じさせる考古コレクション、日本屈指の質量を誇る中国仏像を含む「山口コレクション」、漆工分野の所蔵品の中核を形成する「カザールコレクション」、仏教美術の「田万コレクション」、そして日本画の「住友コレクション」など、様々な蒐集家から美術館へと寄贈・譲渡された膨大な作品を一堂に見ることで、大阪市立美術館の歴史を振り返ることができる。

展示風景より、中国仏像コレクション
展示風景より、中国仏像コレクション
展示風景より、カザールコレクション
展示風景より
展示風景より、中央は山口華楊《風》(1944)
展示風景より、大阪の洋画

 リニューアルオープンにあたり、内藤栄館長は「見た人がため息が出るくらい美しく展示してほしいと学芸員にリクエストした。皆さんに訴える力のある展示になったと思う」と自信を覗かせつつ、「大阪にいながら世界につながる美術館にしたい」と将来像について語る。

 なお同館では、4月26日から約130件の国宝が集結する「大阪・関西万博開催記念 大阪市立美術館リニューアル記念特別展『日本国宝展』」が開催される予定だ。

 なお、来館の際は、近代日本庭園の名園である慶沢園(けいたくえん)を臨むことができるカフェ「ENFUSE」やテラス(無料ゾーン)やミュージアムショップもぜひ楽しんでほしい。

カフェ「ENFUSE」
カフェ「ENFUSE」内部
古今東西おかずのプレート(1750円)