2025.9.12

「NEW PLATFORM –Alternative ASIA–」(Art Center NEW)開幕レポート。アジアのアートコレクティブが一同に集まる新しいアートフェアの可能性

横浜・新高島駅にあるArt Center NEWで、アジアを拠点に活動する31組のオルタナティブアートスペースが集結するアートフェア「NEW PLATFORM –Alternative ASIA–」が開幕した。イベント期間は9月14日まで。

文・撮影=大橋ひな子(ウェブ版「美術手帖」編集部)

会場風景より
前へ
次へ

 横浜・新高島駅にあるArt Center NEWで、アジアを拠点に活動する31組のオルタナティブアートスペースが集結するアートフェア「NEW PLATFORM –Alternative ASIA–」が開幕した。同じ横浜エリアで開催されている国際アートフェア「Tokyo Gendai 2025」の期間と同じく、イベント会期は9月12日〜14日。

 本フェアには、美術館や画廊とは異なり、それらから相対的に自立したアートスペースである「オルタナティブスペース」、また複数のアーティストやキュレーターから成る共同体である「アートコレクティブ」だけが参加。コマーシャルギャラリーが集まるアートフェアとは一線を画した新しい試みとなっている。さらに、インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ、フィリピン、ベトナム、ミャンマー、香港、中国、台湾、韓国、日本といったアジアという共通項がありながら、多様な地域で活動しているアートスペースが集まっている点も特徴だろう。

 今回出展する国内10組(Art Center NEWを含む)と、東南アジア、東アジア21組の計31組は次の通り。

 Ruang MES 56(インドネシア)、Ace House Collective(インドネシア)、Post-Museum(シンガポール)、Older Women League(シンガポール)、The Back Room(マレーシア)、SOME SPACE Gallery(タイ)、Stack(タイ)、Rhizomia Art Network(タイ)、Load na Dito(フィリピン)、Á Space(ベトナム)、Nhà Sàn Collective(ベトナム)、A New Burma(ミャンマー)、soundpocket(香港)、Videotage(香港)、Highball(香港)、WURE AREA(香港)孑孓社(Jiejue Community)(中国)、刺紙(Prickly Paper)(中国)、Zit-Dim Art Space(台湾)、白水(台湾)、Flagsidekick(韓国)、GALLERY SOAP(日本)、art space tetra(日本)、山中suplex/Yamanaka Suplex(日本)、soda(日本)、6okken(日本)、GASBON METABOLISM(日本)、Art Center Ongoing(日本)、Token Art Center(日本)、国立奥多摩美術館(日本)、Art Center NEW(日本)。

 なかでも印象に残ったブースをいくつか紹介する。

 ブースは大まかに国ごとにまとまっており、入り口近くは日本国内を拠点とするコレクティブが中心だ。

 入り口近くに出展している「山中suplex/Yamanaka Suplex」のブースには、すでに販売終了してしまった光岡自動車の、小さな車がスペース内に停められている。なんと滋賀県大津市にあるスタジオから一般道路のみを走り本会場まで運んできたという。スペース内では、その様子を撮影した映像作品も見ることができる。

会場風景より、「山中suplex」のブース

 山梨にある「GASBON METABOLISM」は、ブース全体をひとつのインスタレーション作品の展示会場とした。アーティストであるtra-(トラ)とGASBON METABOLISMがともに立ち上げたプロジェクト「tra-bon(とらぼん)」の初披露の場となっており、来場者は作品に参加することができる。「MISSING PIECE」と題された作品は、自身の息で膨らませた風船に、自身や思い描く社会の「MISSING MIECE(欠けているもの)」を書き込むというもの。

会場風景より、「GASBON METABOLISM」のブース

 奥のスペースには、東アジア、東南アジア各国を活動拠点にしているコレクティブのブースがメインで展開されている。

 台湾の台南を拠点に展開する「Zit-Dim Art」は、香港、マカオ、台湾のアーティストたちが共同で運営するアジアの芸術プラットフォームだ。ブース内では、いま台湾の若者の間で流行している「痛包」(日本語訳で「いたバッグ」)を用いた作品が並ぶ。「いたバッグ」とは、小さなポーチの中に、自分の好きなものを詰め込みバッグなどにつけるチャームのようなもの。「痛々しい」という意味をアイロニックにつけられた名称だが、その「いたい」の意味を多様にとらえ、アーティストにとっての「痛み」をポーチに詰め込み作品とした。これらはひとつずつ販売されており、誰かの「痛み」を購入し、自分のバッグにつけることができる。

会場風景より、「Zit-Dim Art」のブース
会場風景より、「Zit-Dim Art」ブース内に展示される「いたバッグ」たち

 インドネシアからは「Ruang MES 56」も参加している。インドネシアにおける老舗のアートコレクティブで、現在は33名のメンバーが在籍している。生活をともにしながら互いに支えあい制作を行うスタイルを実現しながら、東南アジアのアートシーンを盛り上げてきたコレクティブだ。隣にある「Ace house collective」も、インドネシアを拠点にしており、今回はグラフィティのような作品を多く展示販売している。

会場風景より、「Ruang MES 56」のブース
会場風景より、「Ace house collective」のブース

 今回のイベントの大きな価値は、巨大なアートフェアでは紹介されることが少ないコレクティブの活動を、一同に紹介する機会をつくり出した点にある。マーケットには出てきづらい作品も手がける彼らの活動は、ジャンルも軽々と乗り越え多様に展開しているが、活動拠点外での発表の場はまだ少ない。そんな作品や活動が紹介される本イベントは、社会における持続的なアートとの付き合い方を考えるために、大変貴重な機会だと言えるだろう。

中国を拠点に活動する「孑孓社」の会場風景より、一緒に朝食をとるプランや、アートコンサルティングを受けるプランなど、作品以外に販売できるものを様々なかたちで用意している。
日本を拠点に活動する「国立奥多摩美術館」の会場風景より、過去行ったプロジェクトのアーカイヴを展示。プロジェクトをまとめた本も制作し販売中。
会場風景より、本イベント主催の「Art Center NEW」からも出展

 各参加団体がそれぞれのブースを出すアートフェア形式の本イベントだが、従来のアートフェアの雰囲気と大きく異なるように感じられるのは、開放的な会場づくりに鍵がある。

 白壁でブースを区切る方法はよく見るが、本イベントにおいては、単管パイプとワイヤーメッシュのみで仕切っており、開放感を感じさせる空間となっている。事実、単管パイプ越しに隣のブース内も見えるため、搬入設営時には、自然とコレクティブ同士が声をかけ合い、互いに作業を手伝う様子も見られたという。会場では、各地域から集まったコレクティブメンバー同士が互いにコミュニケーションをとっており、さらに来場者も巻き込みながら交流する姿が多く見られた。

会場風景より、開放感のある空間で多くの交流が生まれている。

 本イベントは、オルタナティブなアートシーンにおけるアジアの現在を知るだけでなく、言語や文化をこえて、アートを介したそれぞれの交流により生まれる化学反応を、直に感じられる機会となっている。

 なお会期中には、関連イベントとして、出展者によるクロストークや、伊藤亜紗(美学者)を迎えたゲストトーク、映像作品の上映、アーティストの花形槙、井口美尚、橋本聡、吉川陽一郎によるパフォーマンス(花形のパフォーマンスはVIP dayに実施)も開催される。その時その空間でしか生まれない熱気を、ぜひ会場で体感してほしい。