「FUJI TEXTILE WEEK 2025」(山梨県富⼠吉田市)開幕レポート。織物の町に流れる“見えない力”を可視化する
富士山麓の織物産地・富士吉田を舞台に2021年から開催されている「FUJI TEXTILE WEEK」。今年の芸術祭は「織り目に流れるもの」をテーマに、土地の記憶と不可視の流れに光を当てる。その様子をレポートする。

山梨県富士吉田市で開催される「FUJI TEXTILE WEEK」は、1000年以上続く織物産地の歴史を背景に、テキスタイルとアートが交差する国内唯一の「布の芸術祭」として2021年にスタートした。使われなくなった工場や倉庫、店舗を展示会場として再生し、産地の記憶を未来へつなぐ取り組みは、毎年まちの新たな表情を引き出している。
4回目となる2025年のテーマは「織り目に流れるもの」(会期は12⽉14⽇まで)。表層からは見えない伏流水のように、手のリズム、土地の気配、歴史の層が織物の下で脈打っているという不可視の流れに光を当てる試みとして、南條史生(アート展ディレクター)と丹原健翔(キュレーター)による体制で展覧会が構成されている。
11月21日に開催されたプレス内覧会では、南條が「この芸術祭は、行政主導ではなく、地元の人々による“下からの力”で立ち上がった点に大きな独自性がある」と語った。また、同芸術祭の特徴について「地場産業であるテキスタイルを主軸に、職人とアーティストが密接に協働して制作を行う。こうした取り組みはほかにはほとんど見られず、非常に価値の高い試みだ」と述べている。
丹原は、「私を含む作家チームは、2週間以上前から現地に滞在し、寒さの厳しいなかで制作を続け、開幕前日の深夜まで最終チェックを行った」と説明。また、作家全員が新作を発表するという芸術祭としても珍しい構成になっている。
旧山叶会場
総合案内所となる旧山叶会場では、相澤安嗣志によるインスタレーション《How The Wilderness Thinks》が来場者を迎える。富士吉田で集められた800枚以上のデッドストックの絹生地が、長さを変えて吊り下げられ、空間全体に洞窟のような景観を形成する。かつて絹の産地として栄えた地域の記憶を起点に、相澤は富士講の「胎内巡り」(溶岩が木々を包んだ痕跡を巡る再生儀礼)を本作に重ね合わせた。

地域リサーチと伝承を架空の物語として編み直す手法で知られる増田拓史は《白い傘と、白い鳥。》で、富士吉田の絹生地産業──軍事用パラシュートの生産地としての近代史──と、不老不死を求めて富士山を訪れた徐福が死後に鶴へ姿を変えたという伝承を重ね合わせている。

三面スクリーンの映像は連動と乖離を繰り返し、パラグライダーのハーネスや戦時資料、織機の駆動音が場内に散りばめられる。白い落下傘と白い鳥が象徴する「外から来た技術が別の姿で土地に受け継がれる」歴史の層が、鑑賞者の移動に伴い多方向的に立ち上がる。道路に面した窓には白い傘を用いたインスタレーションが設置され、作品の物語がまちの風景へとじわりと浸透していく。
かつてガラス倉庫だった工場跡地の中央には、間堀川から汲んだ水を湛えるローリングタワーが立つ。これは齋藤帆奈による《織目に沿ったり逸れたりしながら流れる》だ。水は絹の反物を伝い、富士山の稜線のような曲線を描いて器へと落ちていく。布には粘菌が植えられ、温度や湿度に応じて移動しながら、色素を含んだ餌を摂取して軌跡を刻む。

粘菌は人の温度に引き寄せられ、反物の織り目は地形のように作用する。富士山の湧水がつくる水脈に沿って人々の暮らしが形成されてきたように、ここでは水が「微視的な生存環境」をかたちづくる役割を果たす。制作期間中、齋藤は0度近い寒さのなかで粘菌を管理しながら寝泊まりしたという。布に刻まれた軌跡は、その共存の時間を刻む痕跡でもある。






















