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2026.1.30

「上原沙也加 たとえすべての瓦礫が跡形もなくきれいに片付けられたとしても」(横浜市民ギャラリーあざみ野)開催レポート。生活と地続きにある風景を掬った10年間の軌跡

横浜市民ギャラリーあざみ野で「上原沙也加 たとえすべての瓦礫が跡形もなくきれいに片付けられたとしても」が開催されている。会期は2月22日まで。

文・撮影=大橋ひな子(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、上原沙也加《台湾 台南》(2024)「緑の日々」より Archival pigment print 59.4×84.1cm
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 横浜市民ギャラリーあざみ野で「上原沙也加 たとえすべての瓦礫が跡形もなくきれいに片付けられたとしても」が開催されている。会期は2月22日まで。

 同ギャラリーでは、写真表現の現在を切りとる企画展と横浜市所蔵カメラ・写真コレクション展を同時開催するシリーズ展「あざみ野フォト・アニュアル」が毎年実施されている。2025年度の本企画展では、注目の若手写真家・上原沙也加が取り上げられた。

 上原は1993年沖縄県生まれの写真家。主な受賞に、第36回写真の町東川賞新人作家賞(2020)、「VOCA展 2024 現代美術の展望─新しい平面の作家たち」VOCA奨励賞、大原美術館賞(2024)がある。風景のなかに立ち現れる記憶や傷跡、場所やものが保持している時間の層を捉える実践として、写真作品を制作している。

 本展は、そんな上原による、生活と地続きにある風景とそこに残された痕跡を丁寧に掬い取るようなアプローチに注目したものである。初の写真集『眠る木』に収録されているシリーズ「眠る木」から最新作まで、上原の10年にわたる取り組みを概観する初の個展となっている。

 本展は全4シリーズで構成されている。前半2シリーズは沖縄を、後半2シリーズは台湾を舞台に撮影された作品である。会場は大きく4つに分かれ、各シリーズを回り入り口に戻ってくる構成となっている。

 最初の会場では、2016年から22年にかけて沖縄島で撮影されたカラーのシリーズ「眠る木」が展開されている。これらは、5〜6年かけて沖縄の各地を歩き回り撮影されたものだ。対象をあらかじめ決めて撮影するのではなく、日々を過ごしながら目に留まったものを写す方法をとっており、その対象は、街なかのレストラン、写真店のショーウィンドウ、ショッピングモールの駐車場など様々である。ありふれた一場面でありながら、よく見るとそこに「沖縄らしさ」があるように感じられる。作品タイトルにはそれが撮影された土地の名前のみ示されているため、上原がその場面を切り取った意図を言葉で答え合わせすることはできない。しかしだからこそ、鑑賞者自身のなかにある「沖縄」へのイメージが顕在化させられる。

「眠る木」シリーズの展示風景
「眠る木」シリーズの展示風景
展示風景より、上原沙也加《沖縄県 北谷町 美浜》(2022)「眠る木」より Archival pigment print 59.4×84.1cm

 次の暗い部屋では、沖縄島で撮影したモノクロ(白黒)写真による最新作《前の浜》が紹介される。本作は、2025年慰霊の日(6月23日)の前後3日間に行われた、自室から慶良間諸島までの短い旅の記録として撮影されたものだ。今回はそれら約200点がスライドショーで上映され、すべての写真につけられた一行ずつの日記のようなキャプションが壁面に展示されている。慰霊の日は、1945年の沖縄戦において、日本軍司令官の自決によって組織的な戦闘が終わった日として制定された。上原は、沖縄が現在においても抱える被害の大きさから、沖縄戦は80年前に終わったのではなく、かたちを変えながらも続いていると考える。自身が直接経験していないことでも、過去に起きた事実がいまにどのように影響しているかを考えるために本作を制作した。写真とキャプションの両方から上原の眼差しを追体験することで、我々は何を感じるだろうか。

展示風景より、上原沙也加《前の浜》(2025) Slideshow of Photographs 16分40秒
展示風景より、《前の浜》が上映されている会場に展示されたキャプション
展示風景より、《前の浜》が上映されている会場に展示されたキャプション(一部)

 続いて台湾で撮影したシリーズが紹介される。モノクロのシリーズ「緑の部屋」は、さらに「幽霊たちの庭」「花売りのおばあさん」「アメリカの村」「平和の島」という4つの小シリーズから構成される。会場はシリーズごとにオーガンジーのカーテンで仕切られており、まるで台湾の路地に迷い込んだかのような感覚を覚える。とくに決められた順路はなく、観客は薄いカーテンをくぐりながら、自由に作品を見ることができる。

「緑の部屋」シリーズの展示風景

 2023年から2年間の滞在制作をきっかけに台湾撮影をはじめた上原は、実際に現地を訪れ、台湾と沖縄の歴史や文化に類似性を感じたという。改めて台湾について学び、自身との関係を思考するなかで、その過程そのものをかたちに残す必要があると考え制作したのが本シリーズである。4つの小シリーズでは、それぞれ特定の場所が取り上げられ、土地の歴史やその場で考えたことを上原の言葉で綴られたテキストも展覧されている。そのテキストとともに写真を見ることで、上原の目線を写真のなかに見つけることができる。

「緑の部屋」シリーズの展示風景
展示風景より、上原沙也加《窓の向こうに架かる橋》(2024)「緑の部屋『平和の島』」より Archival pigment print 42.0×59.4cm

 このシリーズのなかでとくに印象的なのは、上原の手が写った作品である。各シリーズに1枚ずつこの構図の作品があり、手の上には持ち帰ってきたお土産品が乗せられている。上原は訪れた先で撮影するだけでなく、その一部を自分の部屋や生活に持ち帰ることで、思い出したり考え続けたりする時間すらも作品として内包する。

展示風景より、上原沙也加《詩の入った瓶》(2023)「緑の部屋『幽霊たちの庭』」より Archival pigment print 42.0×59.4cm

 「緑の部屋」から一変して、明るい照明の部屋で展覧されるカラープリントの「緑の日々」。本シリーズは、ホテルの一室にあるビールの空き缶に生けられた白い薔薇の写真からはじまる。じつはこの薔薇は、「緑の部屋」シリーズの「花売りのおばあさん」で登場したものと同一のものだ。シリーズごとにカーテンで会場がわけられていながら、シリーズ間に確かな連続性を感じさせるような構成である。

 また同じ対象でも、モノクロとカラーではその印象が大きく異なることにも気付かされる。上原は、目の前にある風景を写す際はカラー写真、過去に起きた出来事を起点として現在を見つめ返すイメージの際はモノクロ写真、と表現方法を使い分けている。今回会場の入り口側に展示されている「眠る木」と「緑の日々」がカラー写真、奥側に展示されている「前の浜」「緑の部屋」がモノクロ写真であることを踏まえると、時間軸という切り口でも比較ができるような会場構成であることに気づく。

展示風景より、上原沙也加《台湾 台北》(2023)「緑の日々」より Archival pigment print 42.0×59.4cm
展示風景より、上原沙也加《花売りのおばあさんから買ったバラの花》(2024)「緑の部屋『花売りのおばあさん』」より Archival pigment print 42.0×59.4cm
「緑の日々」シリーズの展示風景

 本シリーズは台湾を写した作品であるが、まるで沖縄を写した写真に見えるものもある。上原がいう2つの土地の類似性を体感できるだろう。全72点が出展された本展の最後は、《台湾 基隆》と題された青い色調が印象的な作品で締めくくられる。基隆は台湾の北に位置し、沖縄にもっとも近いエリアでもある。鑑賞者は、台湾から見える海を越えた先にある沖縄を想像しながら、沖縄を写した「眠る木」シリーズの会場に戻ってくる。

展示風景より、上原沙也加《台湾 基隆》(2025)「緑の日々」より Archival pigment print 42.0×59.4cm

 本展は、上原が10年間を通じて制作した作品を概観できる貴重な機会である。それだけでなく、撮影対象や手法の違いを比較しながら、上原が試みる様々な実践を追体験できるような会場構成となっている点は、本展の見どころのひとつだと言えるだろう。会期中に開催される、上原と作家・長島有里枝の対談(2月14日開催)もあわせてぜひ注目してほしい。