2026.1.30

第29回TARO賞は岡本太郎賞に高田哲男、敏子賞に馬場敬一

岡本太郎の遺志を継ぎ、次代のアーティストを顕彰する岡本太郎現代芸術賞(通称「TARO賞」)。その第29回の受賞者が発表された。

文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

岡本太郎を受賞した高田哲男と受賞作品の《FUKUSHIMA5000》
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 岡本太郎の精神を継承した岡本敏子によって創設され、毎年、自由な発想で芸術の新しい側面を切り開くアーティストを顕彰してきた「岡本太郎現代芸術賞」(通称「TARO賞」)。その第28回の受賞者が川崎市岡本太郎美術館で発表された。

 これまで、小沢剛山口晃、風間サチコ、梅津庸一、キュンチョメ、サエボーグ、檜皮一彦などのアーティストたちを発掘してきたTARO賞。 今回は644点(前回579点)の応募のなかから21組が入選。入選者は以下の通りとなった。

 安西剛、宇佐美雅浩、太田遼、KUMO、黒木重雄、櫻井隆平、Shinon Matsumoto、鈴木藤成、鈴木美緒、Soma Tsuchida、高田哲男、田辺朋宣、德本道修、西久松友花、馬場敬一、Hexagon artistⓇ、ミか星(オガワミチ+石倉かよこ+舘星華)、みずかみしゅうと、毛利華子、山田徹、吉村大星。

川崎市岡本太郎美術館にて、審査員と入賞者。正面左が、岡本太郎賞の高田哲男、右が岡本敏子賞の馬場敬一

 そのなかから、岡本太郎賞を受賞したのは高田哲男、岡本敏子賞を受賞したのは馬場敬一だ。審査員は例年通りの椹木野衣、山下裕二、和多利浩一、平野暁臣、土方明司の5名、またゲスト審査員として現代美術家・福田美蘭が加わった。高田には賞金200万円が、馬場には100万円が贈られた。

岡本太郎賞受賞:高田哲男

展示風景より、高田哲男《FUKUSHIMA5000》

 高田は1972年兵庫県生まれ、流通科学大学商学部流通学科卒業、神戸デザイナー学院夜間部卒業。2017年に兵庫県展デザイン部門大賞、2024年に第68会新槐樹社展新人賞、三木市文化芸術奨励賞を受賞しているほか、2023年の第26回岡本太郎現代芸術賞では入選した経験も有する。

 受賞作となった《FUKUSHIMA5000》は、東日本大震災や福島第一原発事故の被災地を訪れて描いた、5000枚超のドローイングで構成した作品だ。描かれているのは原発の炉心冷却や除染作業といった被災地で行われた具体的な行動のみならず、現地の人々の田畑の様子や肖像画、祭祀の様子なども描かれている。

展示風景より、高田哲男《FUKUSHIMA5000》

 高田は阪神大震災で家が半壊した経験を持つ。被害が大きく多くの報道陣が集まった都市部ではなかったものの、被災者ではあった。このときに生まれた当事者とはどこまでなのか、報道で大きく取り上げられない小さな声はどこにあるのか、という感情が活動の原点にあるという。2011年の震災後、石巻市でボランティアをし、多くの人の言葉を聞いたという高田は、テレビや新聞のニュースといった報道をもとにドローイングを開始。さらにその報道だけでは情報が足りないと感じ、自分が納得する情報として実際に現地の人々に話を聞いてドローイングを行なった。現地の生活の匂いをペンに載せるため、ドローイングという方法がとられているという。

展示風景より、高田哲男《FUKUSHIMA5000》

 審査員の椹木は本作について、以下のような審査評を寄せている。「東日本大震災から15年となる2026年。わたしたちの国土はなお、毎日のように地震で揺れ、津波に普戒し、そのたびに原子力発電所の安否に聞き耳を立てている。作者は、過ぎていった日々の積み重ねを、放射能で被災した地域の地方紙や報道などをもとに、誰にでも入手できる簡素な素材とインクボールペンで描いた延べ 5440枚(大震災から 5440日)の素描をもとに、巨大なモノクロームの集積に仕上げた。原発事故という甚大な出来事と、日々の記録とのギャップが、この塊の中で一体のものとなり、わたしたちの『現在』の前にうずたかく積み重なっている」。

岡本敏子賞受賞:馬場敬一

展示風景より、馬場敬一《死と再生のイニシエーション》

 敏子賞を受賞した馬場は1974年東京生まれ、2018年に「第14回世界絵画大賞展」の東京都知事賞、19年に「小松ビエンナーレ2019」の第5回宮本三郎記念デッサン大賞展佳作と「第15回世界絵画大賞展」協賛社賞・パイロットコーポレーション賞を受賞。「死と再生のイニシエーション」を東京と福岡のYUGEN Galleryで開催している。

 受賞作《死と再生のイニシエーション》は、鬱を患った馬場がつくりだした、自我、髑髏、女神による三位一体をもとにした独自の神話的世界がもとになっている。ダンボールの質感を感じさせないほどに樹脂を塗り固め、木炭とアクリル絵具で立体的な造形を平面上につくり出した。個人的ながらも、そこに「死と再生」の普遍的な物語を現出させた作品群だ。

展示風景より、馬場敬一《死と再生のイニシエーション》

 審査員の山下は本作について、次のように評した。「最も強烈なインパクトを与えた作品である。『鬱で得た死生観』をもとにネガティブなエネルギーから出発し、『描き、破壊し、再構築し、固める』という工程を経て、『誕生、死、再生、永遠』を象徴する作品へと昇華させた。そんな制作過程を記録した映像によって、鑑賞者も追体験することができる。段ボールにモノクロームで描かれた自画像、髑髏、女神は脂で固められることによって妖しい光を纏う。ネガティブなエネルギーを見事にポジティブに変換した、モニュメンタルな大作である」。

展示風景より、馬場敬一《死と再生のイニシエーション》

 今年の特別賞は、宇佐美雅浩、櫻井隆平、鈴木藤成、Soma Tsuchida、みずかみしゅうと、吉村大星の6名が選ばれた。今年の全入選作品は第28回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)展として、3月29日まで見ることができる。

展示風景より、宇佐美雅浩《Manda-la In HIroshima 80 years after the atomic bombing》
展示風景より、櫻井隆平《Rotating objects No.3: too close to be real》
展示風景より、鈴木藤成《僕と鬼の云々》
展示風景より、Soma Tsuchida《自己完結型創造症候群》
展示風景より、みずかみしゅうと《4羽のメジロのための棺桶》
展示風景より、吉村大星《丁寧な対話》

 なお、川崎市岡本太郎美術館は改修工事に伴い、3月30日より3年間の休館に入る。これに伴い岡本太郎現代芸術賞も今後3回は休止になる。