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2026.3.20

「ルネ・ラリック展 -ガレ、ドームから続く華麗なるフランスの装飾美術-」(国立工芸館)開幕レポート。華やかなフランス装飾美術の世界に浸る

石川県金沢市の国立工芸館で「ルネ・ラリック展 -ガレ、ドームから続く華麗なるフランスの装飾美術-」が開幕した。会期は6月14日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=大橋ひな子(編集部)

展示風景より、ルネ・ラリック《花瓶 オラン》(1927) 26.6×27.5cm 井内コレクション(国立工芸館寄託)
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 石川県金沢市の国立工芸館で「ルネ・ラリック展 -ガレ、ドームから続く華麗なるフランスの装飾美術-」が開幕した。会期は6月14日まで。担当は同館工芸課長の岩井美恵子。

 ルネ・ラリック(1860〜1945)は、ジュエリーとガラスの2つの分野で活躍したフランスの工芸作家。19世紀末から20世紀前半に、アール・ヌーヴォーやアール・デコと呼ばれた美術様式が流行したヨーロッパで、優美な曲線に彩られたジュエリーから、ガラスの透明感や色彩を生かした花瓶や香水瓶、カーマスコットなど、時代を反映した数多くの作品を発表したことで知られている。

 本展では、2023年に同館へ寄託された井内コレクションのラリック作品を中心に、ラリックに先駆けて活躍したエミール・ガレ(1846〜1904)やドーム兄弟(オーギュスト:1853〜1909、アントナン:1864〜1930)による、同時代の工芸・デザイン作品が、全120点紹介されている。また同館が所蔵する当時の陶磁器や食器、家具、ポスターなど、その時代を彩った作品が一堂に会し、フランスの装飾美術の世界を堪能できる機会となっている。

第1章「ガレとドーム 情景を描く」

 会場は全3章で構成されている。ラリックが生きた19世紀末から20世紀前半という時代は、産業革命後で生活が格段に便利になったいっぽう、粗悪なものも増え、改めて丁寧な手仕事に注目が集まり始めた時期であった。そんな時代に、工芸を含む応用美術の分野でラリックに先駆け活躍したのが、ガレとドーム兄弟だ。第1章の「ガレとドーム 情景を描く」では、そんな2人の作品を中心に、当時のフランス装飾美術の世界が紹介される。

 幼いころから豊かな自然に親しんでいたガレの作品は、幽玄な色ガラスや月光色と名付けられた水色のガラスで、トンボや蘭、藤といった自然物をガラスに描き出す点が特徴的だ。またガレを追うように高級ガラスの制作を始めたドーム兄弟は、四季の風景や花々を明るい色彩のガラスで表現した。暗い照明のなかで色鮮やかに輝くガラス作品からは、アール・ヌーヴォー様式の華やかさが感じられる。

第1章「ガレとドーム 情景を描く」の展示風景
第1章「ガレとドーム 情景を描く」の展示風景

 また会場には、同時代を生きた画家、アルフォンス・ミュシャ(1860〜1939)の作品も紹介されている。会場に展示された《サラ・ベルナール》(1896)は、ラリックのジュエリーを愛用した女優のサラ・ベルナールを女神のように描いた作品だ。第2章で紹介されるラリック作品への接続を感じさせる構成となっている。

展示風景より、アルフォンス・ミュシャ《サラ・ベルナール》(1896) 70.5×51.0cm 国立工芸館

第2章「ラリック ジュエリーからガラスへ」

 第2章「ラリック ジュエリーからガラスへ」では、ラリックの活躍を2つの分野から紐解く内容となっている。親戚の影響からデザインの世界に踏み込んだラリックは、1882年にジュエリーデザイナーとして独立する。ラリックが手がけるジュエリーは、ガラスや七宝などの素材を用いた、生命感を感じさせるデザインとなっている点が特徴的だ。たとえば《ブローチ 翼のある風の精》(1898)では、蝶の羽を模したような翼を持つ風の精霊がモチーフとなっており、翼には大小のダイヤモンドが埋め込まれている。また《ガラスの指輪》(1931)は、金属を使わずすべてガラスで造形することで、どこから見ても光を通した輝きを楽しむことができるようになっている。ガラスの透光性を最大限に生かしたデザインだ。

展示風景より、ルネ・ラリック《ブローチ 翼のある風の精》(1898) 4.0×8.0cm 国立工芸館
展示風景より、ルネ・ラリック《ガラスの指輪》(1931) 1.8×2.6×3.3cm 国立西洋美術館、橋本コレクション

 1900年に開催されたパリ万国博覧会では、こうしたジュエリーが人気を博したが、その後ラリックは香水瓶のデザインをきっかけにガラス作品を本格的に制作しはじめる。ガレやドーム兄弟とは対照的に、ガラスの輝きと透明感のある色彩を活かした作品を多く手がけた。またデザインの大胆さもその特徴のひとつといえよう。会場で紹介されている《香水瓶 4匹のセミ》(1910)では、作品名の通りセミがモチーフになっている。ほかにも、野原の草花やギリシア神話の女神たちまで、様々なモチーフを美しいガラス作品へ落とし込んだ。作品に近寄り、その精巧なデザインに目を凝らしてほしい。

展示風景より、ルネ・ラリック《香水瓶 4匹のセミ》(1910) 13.8×4.0cm 井内コレクション(国立工芸館寄託)

第3章「時代とともに ラリックとアール・デコ」

 第3章「時代とともに ラリックとアール・デコ」では、アール・デコ様式の影響が見られるラリックの作品が紹介されている。装飾的なアール・ヌーヴォーの流行が徐々に落ち着いてきたタイミングで、シンプルかつ幾何学的なデザインを特徴とするアール・デコが好まれはじめる。ラリックもこの流行を受け、量感のあるダイナミックなデザインや、魚や鳥など生き物を抽象化したモチーフを用いた作品を手がけた。会場に展示されている《花瓶 オラン》(1927)もそのひとつ。宝石のオパールのように見えるオパルセント・ガラスを用いた花瓶となっている。このガラスは光によって色合いを変える点が特徴的なため、会場では全方向から見られるように展示されている。

展示風景より、ルネ・ラリック《花瓶 オラン》(1927) 26.6×27.5cm 井内コレクション(国立工芸館寄託)
展示風景より、ルネ・ラリックが手がけた香水瓶

 また新しく誕生した交通手段である自動車に注目が集まるなか、自動車を彩るための装飾品も誕生する。ラリックは高級車のボンネットの先端につけるカーマスコットをガラスで制作した。スピード感を感じさせるデザインは、アール・デコにおける美意識を受けた表現といえるだろう。

展示風景より、ルネ・ラリック《カーマスコット 勝利の女神》(1928) 15.8×24.7×6.5cm 井内コレクション(国立工芸館寄託)

 本展の特徴として特筆したいのは、照明へのこだわりだ。ガラス作品が多い本展では、照明でその材質をどのように表現するのかが重要となる。本展では、照明デザイナーによるライティングによって、ガラスの透光性の魅力を存分に味わえるような工夫がなされている。様々な角度から作品を見ることで、光の入り方による表情の違いに着目してほしい。

展示風景より、ルネ・ラリック《花瓶 ランピオン》(1927) 12.8×11.7cm 井内コレクション(国立工芸館寄託)

 なお本展のアンバサダーには、数々の衣装デザインを手がけるデザイナー・アーティストの篠原ともえが就任。篠原は、展示作品の《花瓶 オラン》からインスピレーションを得て、石川県能美市で織られた生地を使ったドレスを本展のために制作した。また、篠原は会場1階で見られるラリックの紹介動画のナレーションも担当している。篠原は次のような言葉を展示に寄せた。「本展は、様々な作品を通して当時のフランスの装飾美術全体を体感することができるもの。作品と目を合わせるようにじっくりと鑑賞しながら、心ときめく時間を過ごしてほしい」。

ルネ・ラリックの《花瓶 オラン》からインスピレーションを得たドレスを纏う篠原ともえ

 アール・ヌーヴォーからアール・デコへの変遷をたどりながら、ルネ・ラリックの作品、さらにはフランス装飾美術の世界に浸ることのできる本展。一つひとつの作品にゆっくりと向き合いながら、その輝きを存分に堪能してほしい。