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2025.9.9

「ルーシー・リー展 ー東西をつなぐ優美のうつわー」(国立工芸館)開幕レポート

国立工芸館で、20世紀を代表するイギリスの陶芸家、ルーシー・リーの10年ぶりとなる大回顧展がスタートした。同展では、ヨーロッパと東洋の双方からその造形世界を紐解き、リーの作品が日本でいかに受容されてきたのかを探るものとなっている。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、ルーシー・リー《ブロンズ釉花器》(1980)
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 金沢の国立工芸館で、20世紀を代表するイギリスの陶芸家、ルーシー・リー(1902~1995)の大回顧展「移転開館5周年記念 ルーシー・リー展 ー東西をつなぐ優美のうつわー」がスタートした。会期は11月24日まで。監修は岩井美恵子(国立工芸館 工芸課長)、担当学芸員は宮川典子(国立工芸館 任期付研究員)。

 ルーシー・リーは、オーストリア・ウィーン生まれの陶芸家だ。ウィーン工業美術学校でろくろに出会い、その後陶芸の道へと進むこととなる。作家としての地位を確立するものの、1938年には戦争の影響で亡命を余儀なくされ、活動の場をイギリス・ロンドンへ移した。日本においては、89年に草月会館で開催された三宅一生による展覧会をきっかけに人気を博し、今日に至るまでファッション誌やライフスタイル誌などでも定期的に取り上げられている。そして、93歳でこの世を去るまで、精力的に作陶を続けていたという。

 本展は、そんな作家の10年ぶりとなる大回顧展であり、国立工芸館の移転5周年の節目に開催されるものとなる。同館に寄託された井内コレクションの作品を中心に、ルーシーが出会った人、もの、場所、そして時代背景を交えながら、その作品を全4章で紐解く構成となっている。

展示風景より

 まず第1章「ウィーンに生まれて」では、ウィーン工芸美術学校で師であるミヒャエル・ポヴォルニーに陶芸を学び、同地で制作活動を開始したリーによる初期作品と、ウィーン工房の創設者のひとりであるヨーゼフ・ホフマンやバーナード・リーチ、上野リチなどといった、同時代作家による作品をあわせて展示している。この時代より釉薬の研究にも力を注いでいたというリー。展示作品からは、実験的な姿勢も垣間見える。

展示風景より、ルーシー・リー《鉢》(1926)。釉薬の混じりあいが装飾的な美しさを生み出している点にも注目
展示風景より、上野リチ・リックス(装飾、1929)/ ヨーゼフ・ホフマン(形、1917)
展示風景より

 第2章「ロンドンでの出会い」では、1938年にルーシーがナチス迫害から逃げるために渡ったロンドンで制作された作品と、すでにイギリス陶芸界の中心であったリーチや、ボタン制作のため工房に参加した彫刻家志望のハンス・コパーらといった、同地でリーが影響を受けた作家らによる作品もあわせて展覧されている。

 とくにこの頃は、民藝運動などに影響を受けたリーチによる作風もリーの作品には見られるものの、次第に、薄型で上に向かって広がる造形の特徴が見られるようになる。リーチからは「陶芸らしくない」といった批判も受けていたようだが、この独自の路線が、今後のリーの方向性を決定づけるものとなっていった。

展示風景より、バーナード・リーチ《ブリタニーの玉葱売り》(1934)
展示風景より、ルーシー・リー《ボタン》(1939-43)
展示風景より、ルーシー・リー《蓋碗》(1940)
展示風景より、ルーシー・リー《白釉鉢》(1950)

 リーが渡英した当時、リーチがリーダーを務めるスタジオの陶芸家らは東洋陶磁に関心を寄せ、イギリスにおける表現の可能性を探っていたという。その影響からも、リーも同様に東洋陶磁に範を求めるようになっていったほか、1952年に開催されたダーティントン国際工芸会議では、濱田庄司らと交友を深め、のちにグループ展を開催する仲となった。第3章「東洋との出会い」では、リーチや濱田らの作品とともに、リーの東洋との関わりを紹介している。

展示風景より
展示風景より
展示風景より
展示風景より、ルーシー・リー《白釉鎬文花瓶》(1976)

 最終章となる「自らのスタイルへー陶芸家ルーシー・リー」では、上に向かって広がる独特なフォルムと、青や緑、ピンクといった鮮やかかつ優しい色合いが印象的な、リーの代表作の数々が並ぶ。長年続けられた釉薬の研究や、独自の造形、マンガン釉や掻き落としの技法などによる、リーならではの作風が際立っており、彼女の到達点をそこに見ることができるだろう。本展では、展示空間やライティングにも力が入れらているため、全方向からぜひじっくりと鑑賞してみてほしい。

展示風景より、ルーシー・リー
展示風景より
展示風景より、ルーシー・リー《ブロンズ釉花器》(1980)
展示風景より