2025.2.15

「没後120年 エミール・ガレ:憧憬のパリ」(サントリー美術館)開幕レポート。3つの万博からガレの足跡をたどる

サントリー美術館で「没後120年 エミール・ガレ:憧憬のパリ」がスタートした。会期は4月13日まで。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、エミール・ガレ ランプ「ひとよ茸」(1902頃)サントリー美術館
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 東京・六本木のサントリー美術館で、「没後120年 エミール・ガレ:憧憬のパリ」がスタートした。会期は4月13日まで。担当学芸員は林佳美(サントリー美術館 学芸員)。企画監修は土田ルリ子(富山市ガラス美術館 館長)。

 エミール・ガレ(1846〜1904)は、フランス北部の古都ナンシーに生まれ、父が経営する高級ガラス・陶磁器の製造卸販売業を継承。また、ガラスや陶器、家具の分野で独創的な表現力や研究力を発揮し、首都パリにおいても大きな成功を収めた。

 本展は、ガレの没後120年に端を発する企画で、富山市ガラス美術館からの巡回展。会場構成は、ガレがパリに認められるきっかけとなった3つの万博を骨子とし、3つの章と2つのコラムからその創造性や人脈の広がりにフォーカスするものとなる。

第2章「1889年パリ万博、輝かしき名声」展示風景より、左はエミール・ガレ

 プロローグ「1867年 はじめてのパリ万博、若かりしガレの面影」では、経営者であり職人でもあった父シャルルの技術を引き継いだガレによる、歴史主義的で繊細なデザインの初期作品が並んでおり、キャリアの始まりを予感させるような導入だ。

展示風景より、エミール・ガレ「蓋付コンポート」(1870頃)ポーラ美術館

 第1章「ガレの国際デビュー、1878年パリ万博から1884年第8回装飾美術中央連合展へ」では、章タイトル通りパリ万博(1878)や第8回装飾美術中央連合展(1884)に出展されたガレの作品が陳列されている。77年に家業を引き継いだガレにとって、このパリ万博は経営者として初の出展であり、さらにガラス部門では銅賞も受賞。まさに華々しい国際デビューとなった。

展示風景より、エミール・ガレ 脚付杯「四季」(1878)パリ装飾美術館
Paris, musée des Arts décoratifs
展示風景より、エミール・ガレ 花器「鯉」(1878)大一美術館
ガレの初期作品におけるジャポニスム様式の代表作で、78年のパリ万博に同一モデルを出展している。淡青色が特徴の「月光色ガラス」も発表

 さらに、第8回装飾美術中央連合展(1884)でガレは、審査員に向けた作品の解説書を作成し提出。ガラスと陶器の製法について独自の研究を重ねた成果が記されており、意欲的な様子も見てとれる。

展示風景より、「第8回装飾美術中央連合展 ガラス部門および陶器部門審査委員会宛解説書」(1884)サントリー美術館

 コラム1では、ナンシーを拠点に活動していたガレ親子がパリへの販売促進のために頼った代理人デグペルス親子(マルスラン・デグペルス、アルベール・デグペルス)とのやり取りや、美術工芸品店エスカリエ・ド・クリスタルでの販売権が許可されていたモデルなどが展示されている。

展示風景より
展示風景より、エミール・ガレ 花器「人物・ふくろう(夜)」(1887〜98)ウッドワン美術館
展示風景より、「マルスランならびにアルベール・デグペルス宛 ガレ直筆メッセージカード・書簡、マルスラン・デグペルスの名刺」(1883〜1902、前期9枚 / 後期10枚)。サントリー美術館の2023年収蔵品であり、今回初公開となる

 初のパリ万博で成功したガレであったが、より本当の意味で成功を収めたのは1889年のパリ万博であった。新たな技法の開発や独創的な表現を用いて作品の制作にあたり、その出品数はなんとガラス作品300点、陶器200点、家具17点。各部門で輝かしい賞に選ばれた。

 なかでも注目されたのが、「黒色ガラス」だ。この黒色ガラスの技法と独特な世界観の装飾を融合させることで、精神性・物語性の高い作品が生み出されている。第2章「1889年パリ万博、輝かしき名声」では、卓越した技術と創造力あふれる作品が一堂に並べられている。

展示風景より、手前はエミール・ガレ 花器「ジャンヌ・ダルク」(1889)大一美術館
展示風景より

 89年の万博を経て、ガレの交流はパリの社交界にも広がりをみせた。コラム2「パリ・サロンとの交流」では、その交流関係を示す作品が紹介されている。

展示風景より

 第3章「1900年、世紀のパリ万博」では、時代の転換点として世界的に注目されたこの1900年のパリ万博での出展作品傑作が並ぶ。この時期のガレは、パリでの名声が高まるいっぽうで、様々な社会的な事情から地元ナンシーの反感を買い、精神的に苦しんでいたという。そういった事情もあるなかで制作されたこれらの作品は、高い技術に裏付けされた非常に伸びやかで自由な造形表現が印象的であった。

展示風景より、手前はエミール・ガレ 聖杯「無花果」(1900)国立工芸館
展示風景より
展示風景より

 エピローグでは、1904年に58歳の若さでこの世を去ることとなるガレの最晩年の作品が並ぶ。とくに東京会場のみでの出品となる「ひとよ茸」のランプは今回の注目作品だ。あかりを灯しての展示は非常に珍しいため、見逃せない作品のひとつと言えるだろう。

展示風景より、エミール・ガレ ランプ「ひとよ茸」(1902頃)サントリー美術館