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2025.8.13

「江戸の人気絵師 夢の競演 宗達から写楽、広重まで」(山種美術館)会場レポート。コンパクトに江戸絵画の前景を見る

東京・広尾の山種美術館で「江戸の人気絵師 夢の競演 宗達から写楽、広重まで」が開催されている。会期は9月28日まで。8月31日までの前期展示の会場風景をレポートする。

文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

展示風景より、東洲斎写楽《二代目嵐龍蔵の金貸石部金吉》(1794)
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 東京・広尾の山種美術館で「江戸の人気絵師 夢の競演 宗達から写楽、広重まで」が開催されている。会期は9月28日まで。8月31日までの前期展示の会場風景をレポートする。

 本展は、同館が所蔵する鈴木春信、鳥居清長、喜多川歌麿、東洲斎写楽、葛飾北斎歌川広重の六大絵師の代表作を前・後期にわけて全点公開するもの。さらに浮世絵専門の美術館である、東京・原宿の太田記念美術館の協力のもと、歌川国芳の戯画をはじめ「見ていてワクワクする」浮世絵を紹介するものだ。

展示風景より、歌川広重《東海道五十三次 日本橋》(1833-34)

 展示室入口‎ではまず、東洲斎写楽《二代目嵐龍蔵の金貸石部金吉》(1794)が展示されている。浮世絵のイメージを象徴するかのようなら写楽ならではの迫力ある表情は、浮世絵の魅力を1枚で語って余りある。写楽の作品としては、より美しい雲母摺りが目を引く《八代目森田勘弥の駕籠舁鶯の次郎作》(1794)も展示されており、限られた線による人物表現の巧みさに注目だ。なお、後期は葛飾北斎《富嶽三十六景 凱風快晴》がここに展示される。

展示風景より、東洲斎写楽《二代目嵐龍蔵の金貸石部金吉》(1794)
展示風景より、東洲斎写楽《八代目森田勘弥の駕籠舁鶯の次郎作》(1794)

 会場では大まかな年代順で奥村雅信、鈴木春信、鳥居清長らの美人画を展示していく。春信の演出する細やかな仕草や、清長のすらりとした立ち姿の美人の表現などに注目したい。

展示風景より、鈴木春信《梅の枝折り》(1767-68頃)
展示風景より、鳥居清長《当世遊里美人合 橘妓と若衆》(1783頃)

 歌川広重の《東海道五十三次》(1833-34)も宿場町順に並べられ、前期後期の展示替えを挟みつつ総覧できる。とくに同館が所蔵するものは初刷のものも多く、例えば雪中の山越えを描いた「蒲原」などは、ぼかしも線の鋭さも、よく知られているものと大きく異なることがおもしろい。また、鮮烈な構図が目を引く《近江八景》にも注目だ。

展示風景より、右が歌川広重《東海道五十三次 箱根・湖水図》(1833-36)
展示風景より、歌川広重《東海道五十三次 蒲原・夜之雪》(1833-36)
展示風景より、歌川広重《近江八景》(1834頃)

 展示室の後半は江戸絵画の名品が並ぶ。俵屋宗達酒井抱一、鈴木其一といった琳派の花鳥図の華やかさと、どこか退廃が同居するその美学を堪能してほしい。

展示風景より、右が伝俵屋宗達《槙楓図》(17世紀)
展示風景より、酒井抱一《秋草鶉図》(19世紀)
展示風景より、鈴木其一《四季花鳥図》(19世紀)

 ほかにも重要文化財である岩佐又兵衛《官女観菊図》(17世紀)は、その髪の毛の精緻な表現や美しい着物の柄も間近で見られる。また、伊藤若冲の《伏見人形図》(1799)のかわいらしい丸々とした人形の表現も魅力的だ。また、椿椿山や池大雅、谷文晁による南画も同館の誇るコレクションの名物といえるだろう。

展示風景より、岩佐又兵衛《官女観菊図》(17世紀)
展示風景より、左が伊藤若冲《伏見人形図》(1799)
展示風景より、左が池大雅《指頭山水図》(1745)

 第2展示室では「太田記念美術館の楽しい浮世絵」と題し、同館所蔵のコレクションを紹介している。

 ここでは歌川広重、豊国、国芳、小林清親それぞれによる、両国の花火を題材にした浮世絵が並ぶことに注目だ。花火という夜空に一瞬浮かぶ芸術を、それぞれの絵師がどのように表現したのか、比較してみるのもおもしろいはずだ。

展示風景より

 コンパクトながらも、浮世絵版画から屏風絵まで名作がそろい江戸絵画の魅力を十二分に触れられる本展。展示替えを挟んだ前後、どちらも訪れて作品を堪能したくなる展覧会といえるだろう。