地域レビュー(中国):筒井彩評「第12回ヒロシマ賞受賞記念 メル・チン展」(広島市現代美術館)/KIT Miyauchi 02 篠藤碧空 「シノトー・イモータル・センター 死ぬのが怖い!美術研究所」(アートギャラリーミヤウチ)
ウェブ版「美術手帖」での地域レビューのコーナー。本記事では筒井彩(ふくやま美術館学芸員)が、6〜8月に開催された中国エリアの展覧会のなかから「第12回ヒロシマ賞受賞記念 メル・チン展」(広島市現代美術館)と、KIT Miyauchi 02 篠藤碧空 「シノトー・イモータル・センター 死ぬのが怖い!美術研究所」(アートギャラリーミヤウチ)という対照的な2つを取り上げる。

美術館は「実験室」になれるのか
「第12回ヒロシマ賞受賞記念 メル・チン展」(広島市現代美術館)
今年、美術を通して「ヒロシマの心」を広く世界へアピールすることを目的とするヒロシマ賞に選ばれたのは、アメリカ生まれのアーティスト、メル・チン(1951〜)である。環境問題をはじめとする様々な社会問題に着想を得て、多様な手法を用い、地域住民を活動に巻き込むことで、複雑な社会問題への市民意識を喚起してきたことが受賞理由だ(*1)。展示内容については、「美術手帖」のレポートで詳細が述べられているので、ここでは「ヒロシマの心」とチンが結びつくことによって本展がどのようなものになったのかを見ていきたい。

本展は、第1章「奇妙な花の下で」と第2章「逃れられない歴史」から構成される。第1章は、アメリカ軍の巨大爆弾「デイジー・カッター」を竹と紐でつくった《私たちの民主主義の奇妙な花》(2005)を中心に展開する。展示会場に足を踏み入れてすぐ目の前にそびえるこの作品は、民主主義を爆弾という破壊の形で表すことで、民主主義を守りたいのは一体誰なのか、そしてどのように暴力が正当化されるのか、考える機会をもたらしてくれる。

第1章の作品は、共通して民主主義とそれを正当化するための軍事行動に結びつくもので、2001年9月11日の同時多発テロをひとつの契機に、チンが国家による暴力や社会の支配構造が残す傷跡に目を向けたことがうかがえる。そのまなざしは、南北戦争やベトナム戦争、原爆投下、そしてアルカイダまで、国や時代を問わず繰り返されてきた暴力の歴史を浮き彫りにする。《カロライナの亀(ヒルビリーの鎧)》(2005)では、スクラップ材料に潜むスーパーのカートが、間に合わせの装備を強いられる兵士への国家の非情さと、戦争が日常の延長であり、戦争の傷跡が生活に潜むことを示唆している。

また、《許されざる者の十字》(2002)は、AK-47自動小銃によって中世の十字軍が形づくられている。「聖戦」の名の下に掲げられてきたシンボルと、反西洋・反体制の抵抗運動のなかで用いられてきたAK-47が組み合わさること、そしてそれが広島で展示されることによって、戦争による暴力に明確な被害者/加害者は存在しえないことを思い起こさせる。
こうして見ると、チンの社会的・政治的メッセージを造形的な手法で表現する点が際立つが、実際にもっとも評価されているのはこうした造形作品ではなく、アートの枠組みを超えて人や知識、制度や物質をつなぎ、変質させていく点にある(*2)。そうしたチンの多面性をすくい上げるのが第2章だ。

自身のルーツに言及する作品があるかと思いきや、言葉や知識、権威がもつ力に警鐘を鳴らしたり、マルセル・デュシャンへのオマージュがあったりと、一言でまとめられることを拒むように様々な作品が並べられている。なかでも代表作である《リヴァイヴァル・フィールド》(1991〜)は、汚染された土壌を、重金属を集積できる植物を用いて浄化していくプロジェクトだ。アートだけでは超えられない壁を、科学の力を用いて試行錯誤しながら乗り越えていくその姿勢は、アトリエと展示室で完結する関係性の限界をも示唆している。
私はコミュニティ・プロジェクトを始めるとき、展示を念頭に置いたことは一度もありません。この作品を展示する美術館は、単に「証拠」を展示するだけではいけない。行動に参加しなければならないのです。(*3)
チンは、アーティストを「思索者、実験者」と位置づけるとともに、美術館にも「実験室」となる可能性を問うている。「制度(美術館)はより良いプレイヤーへと進化できるのか?(Can the institutions evolve into better players?)」(*4)と。
チンのまなざしは国際政治や環境問題だけでなく、アート業界の制度内にも向けられている。業界の変革を見守るばかりの制度そのものに、変革の責任を問う一面もあるのだ。

展覧会の最後では、ヒロシマ賞受賞を記念して制作された《招待》(2026)が展示されている。マンガ『はだしのゲン』の作者、中沢啓治(1939〜2012)へのオマージュとして、陣太鼓の上に立つ少年が前方に手を差し伸べている作品だ。様々な手法を用い、環境問題や政治問題と向き合うことで、社会に働きかけてきたチンが、ここで具象的な造形作品という手段を選んだ点が興味深い。チンがこの新作に託した思い、そして今後、「より良いプレイヤー」によって、この作品が広島でどのように位置づけられていくのかにも注目したい。
*1──広島市現代美術館公式サイト。https://www.hiroshima-moca.jp/info/hiroshima-art-prize(最終閲覧日:2026年8月24日)
*2──メル・チンの活動については、アーティストのホームページ(https://melchin.org)に加え、以下を参照した。Saul Ostrow, “Interview: Mel Chin,”B OMB Magazine, 2016/9/15 https://bombmagazine.org/articles/2016/09/15/mel-chin/(最終閲覧日:2026年8月24日); Seph Rodney, “Mel Chin and Art that Is Proof of Life,” Hyperallergic, 2018/7/26 https://hyperallergic.com/mel-chin-all-over-the-place-queens-museum/ (最終閲覧日:2026年8月24日)
*3──Ostrow, op. cit.
*4──Ibid.














