2026.9.17

清川あさみと名和晃平、初の二人展「Invisible Garden」が開幕。9メートルの共作が描く「みえないにわ」

美術家・清川あさみと彫刻家・名和晃平による初の二人展「Invisible Garden」が、東京・銀座のポーラ ミュージアム アネックスで開幕した。全幅約9メートルにおよぶ大型共作を中心に、現実と仮想、自然と人工の境界が揺らぐ時代における「にわ」の姿を描き出す。その会場をレポートする。

「Invisible Garden」展示風景。左が清川あさみと名和晃平の共作《PixCell-Our New World》(2026)
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 東京・銀座のポーラ ミュージアム アネックスで9月16日、美術家の清川あさみと彫刻家の名和晃平による二人展「Invisible Garden」が開幕した。会期は11月8日まで。

初の二人展。その出発点は「見えないもの」

 名和と清川による本格的な二人展は今回が初めてだ。本展の出発点となったのは、清川が今年9月に刊行した著書『みえないにわ - Invisible Garden』。情報が絶えず行き交い、現実と仮想、自然と人工といった従来の区分が次第に曖昧になっている現在を背景に、滴や胞子、微生物、動植物、さらには人間の記憶や時間、夢、想像力まで、目に見えるものと見えないものが共存する場所として、「にわ」をとらえ直す展覧会だ。

 写真や布、書物などに刺繍を施し、「見えないものを可視化すること」をテーマに制作してきた清川。いっぽうの名和は、細胞や粒を意味する「Cell」という概念を軸に、彫刻の表皮と鑑賞者の知覚の関係を問い続けてきた。本展では、異なる方法で世界の「見え方」を更新してきたふたりの実践がひとつの空間で交差する。

 報道内覧会で清川は、これまでそれぞれに活動してきたふたりが、結婚から10年を経た現在になって「いまだったら何か一緒にできるかもしれない」と感じたことが今回の展覧会につながったと説明。名和も、家族として生活するなかで映画や作品について批評的な会話を重ねてきたとしつつ、「お互いアーティストとしてリスペクトしているし、それぞれのスタンスがある」と語る。今回もひとつの表現へと互いを寄せるのではなく、「お互いのやり方を互いに持ってくる」ように共同制作を進めたという。

報道内覧会に登壇した清川あさみと名和晃平

9メートルの共作が描く「現代の神話」

 白を基調とした3階の展示室で中心的な位置を占めるのが、清川と名和による大型新作《PixCell-Our New World》(2026)だ。全幅は約9メートル。今回の二人展を象徴する作品と言える。ベースとなっているのは、清川による《Our New World》。箱根の自然風景や生成AIによって生み出されたイメージなどを組み合わせ、ひとつの風景を構築したものだ。その表面全体を、名和による無数の透明な大小の球体=セルが覆っている。

清川あさみ・名和晃平《PixCell-Our New World》(2026)
清川あさみ・名和晃平《PixCell-Our New World》(2026、部分)

 清川はこの作品について、「現代の神話」を残したいという自身の関心から生まれたものだと語る。「この時代も、もしかしたら未来における古代になるかもしれない」と考え、神話や自然、日常で目にした風景、そしてAIによって生成した見たことのない生物までをひとつの画面へとつないだ。

 近づけば、セルのひとつひとつがレンズのように背後のイメージを拡大し、歪め、分断する。いっぽうで距離を取ると、それらは再び巨大なひとつの風景として結びついて見える。清川によって編まれたイメージは、名和の手によって物質としての厚みを与えられ、「見る」という行為そのものを揺さぶる存在へと変化している。

清川あさみ・名和晃平《PixCell-Our New World》(2026、部分)

 名和自身も、今回セルを通して清川のイメージを拡大することで、画面のなかに含まれる細かなテクスチャーや情報を改めて発見したという。図像を記号や象徴として論理的に理解するだけではなく、「知覚して感じて受け取っていく」ような作品を目指したと説明。また、セルによって光そのものが画面へ取り込まれていく今回の試みを、絵画への新たなアプローチとしてとらえている。

 とりわけ注目したいのは、本作に生成AIによるイメージが組み込まれていることだ。現実世界の記録と、AIが生成した「存在しなかったかもしれない風景」が同一の画面に共存し、さらにその表面が透明なセルによって再度変換される。現実と非現実の境界だけでなく、それを見分けようとする私たち自身の視覚や認識もまた、ここでは作品の一部として問い直される。

3階から1階、地下へ。建物全体に広がる「庭」

 この展覧会における「にわ」は、3階の展示室だけで完結するものではない。1階の「POLA GINZA」でも、清川と名和による新作インスタレーション《White Garden | PixCell-B.A》(2026)が、銀座の街に開かれるように展開。空間中央には名和の《PixCell-Deer#72(Aurora)》(2022)が堂々と佇む。

清川あさみ・名和晃平《White Garden | PixCell-B.A》(2026)
中央は名和晃平《PixCell-Deer#72(Aurora)》(2022)

 棚には清川によるファウンドオブジェを用いた《Bio Active Garden(Ginza)》(2026)も点在する。さらに、ポーラ ギンザの地下にあるサロンにも名和の新作2点が配置されており、3階のポーラ ミュージアム アネックスから1階、地下へと「Invisible Garden」の世界が建物全体へと広がっていく。鑑賞者自身が庭を散策するように、それぞれの断片をたどる構成だ。

 とりわけ名和は、妹島和世が手がけたポーラ ギンザの空間との関係も意識したという。名和は「エレベーターが開くところから作品が始まると思って、すべて隅々までつくらせていただいた」と話す。さらに「地下も1階も、この3階もすべてがつながるような展示ができた」と語っており、ひとつの展示室を見るというよりも、建築そのものを含めて庭を歩くように鑑賞することが、本展のひとつの鍵となっている。

清川あさみ《Bio Active Garden(Ginza)》(2026)

 タイトルの「Invisible Garden」が示すように、ここでいう「にわ」とは、草木に囲まれた物理的な場所だけを指してはいない。記憶や情報、イメージ、生命、そして鑑賞者自身の知覚が互いに接触しながら、刻々と姿を変える「場」そのものとして提示されている。