櫛野展正連載「アウトサイドの隣人たち」:終わりの始まり、創作の輝き
ヤンキー文化や死刑囚による絵画など、美術の「正史」から外れた表現活動を取り上げる展覧会を扱ってきたアウトサイダー・キュレーター、櫛野展正。2016年4月にギャラリー兼イベントスペース「クシノテラス」を立ち上げ、「表現の根源に迫る」人間たちを紹介する活動を続けている。彼がアウトサイドな表現者たちに取材し、その内面に迫る連載。第88回は癌の宣告後に絵を描き、多くの作品を残した小高正道さんに迫る。

静岡県掛川市、高台に建つ掛川東病院の待合室。窓からは、遠くまで街並みが一望できた。僕は、ふと目に留まったチラシラックの中から、『何じゃコレ ヘタでクレ(クレィージィー)』と名付けられた一冊の不思議な作品集を手に取った。自費出版のようで、何気なくページをめくった瞬間、稲妻が走ったような衝撃を受けた。描かれていたのは、人間や動物、抽象的な形が混ざり合ったハイブリッドな生き物たちで、深海の生物や妖怪のようにも見える独特な存在感を放っていた。鉛筆、クレヨン、マーカーなど、様々な画材が混在しているにもかかわらず、その一つひとつが互いに響き合い、作品に深みと複雑な色彩を与えている。

そのタッチは、一見すると、「特殊漫画家」と呼ばれる根本敬の作風に類似する点も見受けられる。しかし、根本の作品が持つ特有の重さや過激さとは異なり、これらの絵はよりポップだ。鮮やかな色と落ち着いたトーンの絶妙なバランスが、作品にどこか愛らしく、悪意のない雰囲気を生み出している。
特筆すべきは、どの作品もなぜか画用紙の端が奇妙な形に切り取られているという事実だ。この物理的な特徴が意味する不可思議な謎に、答えてくれる者はいない。なぜなら、これらは末期がんを抱えた一人の男性が、人生の終盤に突如として描き始めた、創造の輝きそのものだったからだ。
