中野岳「生得の外縁 / Cyclical Periphery」

　光灯で、中野岳による個展「生得の外縁 / Cyclical Periphery」が開催されている。

　中野岳は1987年愛知県生まれ。東京藝術大学大学院で学んだ後、ドイツのシュトュットガルド国立美術大学ファインアート科ディプロマ課程を修了。ポーラ美術振興財団在外研修員としてドイツに滞在したほか、様々な国や地域で滞在制作を続ける。主に彫刻やインスタレーション、映像を制作。他者との協働制作にも重点を置き、地域性や偶然の出来事、出会いなどから生じた興味にもとづき、自身の生活環境を反映した表現活動を展開。現在は名古屋を拠点に活動。

「生得の外縁 / Cyclical Periphery」と題された本展では、中野自身が木工用ボンドを用いて脱皮していく様を題材にした映像作品《脱皮》（2025）を基軸にしたインスタレーションを展開。

　本作において中野は、人が生まれ持った身体と、外部の環境との境界にある「皮膚」が、外部環境に揉まれ剥がれ落ちていく工程を人工的につくり出し、演じる。全身を象った皮膚を脱いでいく脱皮という行為について、「世界との関わりのなかで成長する意思が生まれてくるのだとしたら、皮膚の脱皮という成長の循環は、縁（ふち・えん）を少しずつ広げていく絶え間ない運動なのかもしれない」と述べている。

　中野はこれまでも、その時々の環境や周囲を巻き込み、社会と呼応しながら出来上がる予測不可能な作品を発表してきた。完成までの過程を重視するという中野の作品において、自分ひとりの身体を直接的に行使する本作《脱皮》は、そのもっともミニマムな形式とされる。

　《脱皮》はこれまで2度実施され、今回は本展のために制作された新作を発表。ギャラリー周辺がビジネスホテル群であることにちなみ、ホテルの一室で行われた3度目の脱皮となる。つねに変化する肉体と、成長しようとする精神の人間の有り様がシンボリックに立ち現れる。