森本啓太　what has escaped us

　金沢21世紀美術館の長期インスタレーションルームで森本啓太の個展「森本啓太　what has escaped us」が開催されている。

　森本啓太は1990年生まれ。16歳でカナダへ移住し、同国を中心に海外で作品を発表してきた。あえて古典的な絵画技法を学ぶことを選んだ森本は、現代の都市風景を特異な表現で描き出し、見る者に強い印象を残す。森本は、近代以降、絵画にとって重要な問題であり続けている「光」の表現に強い関心を持ち、街灯や看板、自動販売機など人工の光を描き込むことで、画面に叙情的な雰囲気を与えている。

　また、森本は、個別に撮影された人物と風景の写真からコラージュを作成し、画面上に絵具で再構成するという手法をとることで、人物と風景に一種の匿名性を付与。作品に描かれる空間や人物は、どこにでもありそうでいて、実際にはどこにも存在しない虚実の境界線上にあるといえるだろう。その作品はエドワード・ホッパーやピーター・ドイグらの系譜に連なるもので、現代の都市はどのように描かれうるか、という試みとなっている。

　本展は、森本の作品を通じて、鑑賞者一人ひとりが自らの現実や日常を今一度問い直す機会となり、絵画という表現形式がもつ力について改めて考える場が目指されている。