EXHIBITIONS

おさんぽ展 空也上人から谷口ジローまで

2025.09.20 - 10.19, 2025.10.21 - 11.16

菊池契月 散策 1934 京都市美術館蔵 前期展示

 滋賀県立美術館で「おさんぽ展 空也上人から谷口ジローまで」が開催される。

 本展では、日本における「散歩」や「歩くこと」の表現に焦点を当て、重要文化財2件を含む74点の作品を通して、その文化的・歴史的な広がりを紹介する。「散歩」という言葉が日本で初めてもちいられたのは、鎌倉時代から南北朝時代にかけて活動した禅僧・虎関師錬の漢詩文集『濟北集』においてである。その詩に詠まれたそぞろ歩きの風情は、伝馬遠《高士探梅図》や浦上玉堂《幽渓散歩図》といった絵画にも反映されてきた。

 明治以降、西洋の美術に学んだ画家たちも「散歩」という主題に取り組み、菊池契月《散策》や金島桂華《画室の客》など、日常のなかの静かな時間を描いた作品が生まれた。また、小倉遊亀《春日》や漫画家・谷口ジロー『歩くひと』の原画のように、歩くことのなかにある一瞬の気づきや風景の変化を繊細に描写した作品も並ぶ。

 いっぽうで「散歩」に似た行為として、僧侶たちの行脚や巡礼も重要な位置を占める。空也、一遍、一向俊聖らは人々の救済を願って各地を巡り、その姿は《空也上人立像》(滋賀県・荘厳寺蔵)などの作品に表現された。さらに、西行の旅や与謝蕪村による《松尾芭蕉経行像》では、歩くことが信仰や思索の手段としてとらえられている。本展覧会では、こうした多様な「歩くこと」の表現を通じて、日本美術における「おさんぽ」の豊かなイメージと精神性に迫る機会を提供する。