工芸の新たな伝統への挑戦。「GO FOR KOGEI 2025」シンポジウム、リポート
2025年7月24日、ヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)サウスケンジントンで「GO FOR KOGEI 2025」シンポジウムが開かれた。このシンポジウムでは、「日本の工芸」と「日本の伝統」に関する既存の概念を問い直し、とくに制度の外で活動する女性アーティストや制作者に焦点が当てられた。女性アーティスト、サブカルチャーやディアスポラのアーティスト、その他の工芸専門家など、幅広い講演者を招いて、一見なじみのある日本の工芸というテーマに対する新たな光を当てるという試み。企画者の菊池裕子によるリポートをお届けする。

工芸の新たな伝統への挑戦:領域を超えた現代アーティストの活力に満ちた活動性
第1部:基調講演と問題提起
午前中の第1部では、日本の閉じられた工芸議論をグローバルな現代的視点と接続する試みがなされた。基調講演を務めたのは、ヴィトラ・デザイン・ミュージアムのグレン・アダムソン(Curator-at-Large)である。アダムソンは現代工芸論の第一人者で、この20年のあいだに批評的分野としての「工芸」研究を確立してきた人物である。講演「未知なる世界へ:民藝の未来」では、柳宗悦の民藝運動を出発点に「無名性」のパラドックスを論じた。植民地や周縁、女性といった無名化の背後に潜む権力を指摘しつつ、そのアイデアがシュルレアリズムやSF、日常芸術の創造性と接続する可能性を語った。また、現代の女性アーティストが無名性を逆手に取り、新たな創造性を切り開く事例を取り上げ、希望を示した。
続いて、本シンポジウムの企画者である菊池裕子は「秘められた芸術的な破壊力:KUTANismを牽引する女性アーティストたち」と題して発表した。九谷焼の「伝統」が男性中心に規定されるなか、女性作家は限られたカテゴリー(主に染織、人形)においてでしか認められてこなかった問題を指摘した。また、人間国宝制度に反映されるジェンダーや人種差別、それを踏襲する欧米美術館の収集姿勢の問題を批判的に捉えた。また、帝国主義的な権力の下で「工芸の国」として位置付けられてきた日本の位置とアフリカ、アメリカ先住民女性工芸作家の位置付けが、人種とジェンダーのインターセクショナルな問題につながっていることにも言及した。それをふまえ、現代の女性作家が新たな九谷焼の伝統を創出する姿を吉村茉莉、牟田陽日らの作品を通して紹介し、持続可能性への希望を語った。
さらに、山田雅美(V&Aアジア部門キュレーター)は「伝統を超えて:V&Aにおける日本の現代工芸の収集」を発表。輸出工芸や人間国宝を基盤にしてきた収集方針が、1990年代以降の展覧会を契機に女性作家の作品を取り入れ、メディア横断的な展示へと変化してきた経緯を報告した。来年には女性漆芸作家の作品を初めて収蔵展示する予定も紹介された。
